オコジョ、チャート・レビュー

洋楽チャートの感想や予想を長々と述べます。速報性はありません。

全米チャート、 今年のメインストリーム情勢総括

2023-12-27 | 年間チャート

 

"Golden Hour" でブレイクしたJVKE(ジェイク)のアルバムを聴いてみたけど、

思ったより全然ヒップホップだった。

オーケストラ風のポップ・ミュージックで、たまにラップもする感じのスタイルかと思いきや、

ラップがメインの曲すらあるアルバム。ラップとオーケストラの主張が強い。

1曲目の "This Is What Falling In Love Feels Like" は好きだな。いい意味で混沌としたアルバムだけど、入りやすくはなってる。🎺

 



~2023年のメインストリーム情勢総括~

以下の4点が、今年のポイントかなと思いました。順に見ていきます。


1.カントリー・ミュージックのさらなる飛躍

2.ヒップホップの完全なる弱体化

3.全体的に女性アーティストの活躍が例年以上

4."LACKs" に新潮流

 

1.カントリー・ミュージックのさらなる飛躍

 これは去年主張したことの続きで、新しい流れというわけではないのですが、決して避けては通れない話題です。ビルボード以外にもさまざまなデータ集計主体が、アメリカでのカントリー・ミュージックの消費が急増していることを示していて、もはやカントリーは「好きな人が聴く」レベルではないことは明らか。流行を掴むためにはカントリーを聴かなければいけないような感じです。下は、去年使った「ビルボードの年間チャート100位以内に何曲カントリー・ソングが入っているか」を示すグラフですが、今年は30曲でした。もう少しで3分の1というレベルで、去年に引き続き堂々の人気ナンバーワンジャンルとなっています。

 

 

 去年は特に勢いが強い若手としてルーク・コムズ、モーガン・ウォーレン、ザック・ブライアン、ベイリー・ジマーマンの4人を「カントリー四天王」として挙げ、彼らを中心に流行ができているとしましたが、それは今年もまったく変わらず。全員漏れなくニュー・アルバムをリリースして、成功しました。ルークさんが率いているのはカントリー・ロックの統派、かつ、もっとも正統派に近い軍でしょう。一方でモーガンさんとベイリーさんはストリーミング時代に特化したニュー・タイプのカントリー音楽を新たに示して、その道の先駆者となっているように見えます。もっともくせ者なのがザック・ブライアンで、フォーク / アメリカーナの雰囲気もある独特のカントリー音楽で売れましたが、彼に続こうとしている人はまだまだ見当たりません。独立遊軍、とでも言いましょうか、とはいえやはりすごい勢力です。

 今年はさらに、その四天王の一つ下に位置する4人も定まりました。渦の中心ではありませんが、そのすぐ周辺にいて、メインストリームを動かしている人気者4人です。1人目はジョーダン・デイヴィス。ルーク・コムズやモーガン・ウォーレンと同時期にデビューして、継続的にシングル・ヒットを打ち出してきましたが、去年からは特に調子が良かったといえます。セカンド・アルバム『ブルーバード・デイズ』(2023) と収録曲 "Buy Dirt feat. ルーク・ブライアン" のヒットはキャリア最大級で、着実に人気を伸ばしているというのを感じましたね。正統派です。2人目はハーディ。2020年デビューのくせ者です。ハードロックやメタルを取り入れたアルバム『ザ・モッキングバード & ザ・クロウ』(2023) で大きくブレイクして、ハーディの名をさらに広めました。3人目はレイニー・ウィルソン。キャリー・アンダーウッドを彷彿とさせる最高の歌唱力でどこか昔ながらのカントリー音楽を奏で、チャートでもアワードでも大活躍しています。伝統的なカントリー音楽の未来を担う、最重要人物という感じもありますね。最後はジェリー・ロール。どちらかというとベイリー・ジマーマンらの統派に属するアーティストで、グラミー賞に最優秀新人賞でノミネートされたことからもカントリー新時代の象徴の1人といえます。同じく最重要人物ですね。とりあえず、この8人が主流をおさえる上で肝かなと思いました。


2.ヒップホップの完全なる弱体化

 「圧倒的優位が終焉」というのが昨年のヒップホップの状態でしたが、今年は「弱体化」です。強くなくなったのではなく、弱くなってしまったと言わざるを得ません。ヒップホップのヒット曲はめちゃくちゃ減りました。Top20レベルで売れた曲をアナログで数えてみましたが、比較的低水準だった昨年を確かに下回っています(下の表で、上が2022、下が2023)。まだいろいろな人が売れてるとはいえ、脱落者も多い。キッドラロイやコダック・ブラックは、早くも最前線から脱落しました。




 時代が終わったとはいえ、昨年はアルバムの成績は引き続き最強でした。たくさんのヒット・ラップ・アルバムが出て、それらが年間チャートを埋めたりしていたかたちです。ところが今年はアルバムさえ大売れしない状態に。チャート荒らし作がポンポン出てくる、そんなことはまったくありませんでした。ロッド・ウェーヴやドレイクは引き続き1位をとっていますが、多くのラッパーが前作の成績をいろんな意味で下回っていると思われます。グラミー賞も主要部門はアイス・スパイスしかノミネートされなかったりして、ヒップホップは今年は記念すべき誕生50周年の年なのに、かなり弱体化してしまいました。

3.全体的に女性アーティストの活躍が例年以上

 ちょっと面倒なので具体的に何かデータを示すというのは控えますが、それにしても今年は女性が音楽エンタメ界をリードしていた感じがします。まず、ポップ・ミュージック界は去年男性陣が総動員で全員成功した反動もあって今年は女性アーティストの年でした。テイラー・スウィフト、マイリー・サイラス、オリヴィア・ロドリゴら有名人が大ヒットしましたね。サブリナ・カーペンターのように新しく売れた人もいました。ヒップホップも、全体が落ちぶれる一方でフィメール・ラッパーの数はそんなに変わっていなくて、特に新人というカテゴリーで見れば注目されたのはアイス・スパイス、セクシー・レッド等ほとんど女性。ヴィクトリア・モネやレイが活躍したR&B界にもそれは当てはまります。新興ジャンルのLACKs(ラテン、アフロビート、クリスマス、K-Pop、サントラ)においても、カロル・Gが女性ラテン・シンガーとして21世紀初の全米アルバム・チャート1位を達成したり、シャキーラが各アワードをかっさらったり、サントラ『バービー』の収録曲(大半が女性歌手によるもの)がたくさんバズったり、NewJeansなどK-Popのガールズグループがチャートで強くなってきたり、アフロビートの女性歌手がグラミー賞にたくさんノミネートされたりとさまざまなことが起きています。数えれば枚挙にいとまがありませんが、この記事を書きながらも、改めて今年はそうだったなと思いました。



追記:「年間チャートの形態別構成」作ってみました!2023年は女性が33曲で、3分の1いくのは初めてですね!(灰色 =デュオ / グループ、赤色=女性、水色=男性)

4."LACKs" に新潮流

 非主要ジャンルにも変化が起きています。新興5ジャンルのうち、まずラテン・ミュージックでは新たに「リージョナル」というジャンルが流行りました。メキシコの伝統的な音楽で、フエルザ・レジーダ、エスラボン・アーマード、ペソ・プルマ等が特に大ブレイクしましたね。そしてK-Popでは、従来のようにセールス主導で売れていくアーティストのほか、ストリーミング主導で売れていくアイドルも出てきました。シングルが先にストリーミングでバズって、売り上げを先導していくケースです。アフロビートでも、調べたら最近売れているタイラさんは南アフリカ出身で、ナイジェリア以外からもスターが出てきています。現在年間チャートの20%を占める "LACKs" ですが、新興ジャンルとしてどんどん勢力を拡大していくこれらの内側でも、いろいろ変化が起こっていて面白いですね。

主張したかった今年の傾向は、以上です。とりあえずこれが主な流行だと思いました。今年はあともう一記事書こうと思っていますが、ひとまず当記事を読んでくださった方、ありがとうございました。




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