オコジョ、チャート・レビュー

洋楽チャートの感想や予想を長々と述べます。速報性はありません。

年間チャートを使って2022年の米音楽市場をおさらい

2022-12-13 | 年間チャート

 

チャート解析の三大関心事項「ジャンル」「形態」「国」

今回は「ジャンル」中心の話ですが、

「形態」の話も出てきます。

「国」については、全米チャートよりもグローバル・チャートの方を分析した方がいいような気がするので、またいつか、と、後回しに...。

また、使う年間チャートは基本シングル・チャートの方のです。

 


 

全米チャートから考える、2022年のアメリカの音楽市場。

以下の5つが特筆すべき特徴だったかなと思います、個人的に。

 

1.ヒップホップの圧倒的優位が終焉

2.「カントリー四天王」を中心にカントリー・ミュージック大盛況

3.男性ポップ・アーティスト勢の連なる成功

4.サントラが継続的に上位を維持

5.アフロビートら"LACKS"(非・主要ジャンル)が台頭

 

そこそこかっこつけたタイトルですが、これらを年間チャートを使って説明し、今年の米音楽市場を復習しようと思います。

 

1.ヒップホップの圧倒的優位が終焉

 ヒップホップは、大ヒット曲は別に少なくなかったので、チャートの上位だけを見ていればこのような傾向は感じないのですが、下位にまで目を向けると明らかにラップ・ソングの数が例年より減っています。小~中規模のラップ・ヒットが今年はかなり少なかったということですね。ジャンルの勢力の栄枯はヒット曲の数、売れたアーティストの数で考えることができますが、特に前者の観点から、今年のヒップホップ勢力は去年から一気に衰えました。

 

 

 上図は過去6年間における、年間チャート100位以内にランクインしたラップ・ソングの数の推移です。図からも明らかなように、ヒップホップはこれまでは年間チャートの4割を占めるような強勢ジャンルでしたが、去年からその強勢は少し雲行きが怪しくなっていて、今年の年間チャートでは一気に数を落として優位から転落してしまいました。35から20ですからね...こんなに大きな変動は初めてです。上述のように大ヒット曲は少なくなかったので、Top20にランクインしたラップ・ソングは8曲と相変わらずすごかったのですが、21位以降には12曲しか入らなかったということで、ヒップホップの圧倒的優位は確実に終わったといえるでしょう。...ちょっと寂しいけど。

 

2.「カントリー四天王」を中心にカントリー・ミュージック大盛況

 自分が「カントリー四天王」とかっこつけて勝手に呼んでいる4人は、ルーク・コムズ、ザック・ブライアン、モーガン・ウォーレン、ベイリー・ジマーマンの4人で、全員男性カントリー・シンガーです。彼らを中心に、今年はカントリー・ミュージックがチャートで大活躍でした。カントリー・ミュージックは2020年に、現代の主流の音楽消費方法であるストリーミングによる消費が増大し、それ以降もストリーミング人気を維持してチャートでの勢力を強めてきました。下図は、先ほどの図のカントリー・ミュージック・バージョンです。

 

 

 今年も勢いがいいなあ、とは思っていたが、ここまでとは...。前年の18曲から8曲も増えて、一気に年間チャートの4分の1を占める強力なジャンルへと成り上がりました。今年の年間チャートのレビュー記事でも書きましたが、Top50でのランクイン数に特にびっくりしていて、これまでは50位以内に毎年2、3曲しかランクインできていなかったのに、今年はなんと8曲です。本当に急上昇ですね...。「カントリー四天王」はベイリー・ジマーマン以外その8曲の中に全員入っていて、ベイリーも "Fall In Love" が54位と惜しいところでした(彼は "Rock And A Hard Place" も70位にランクイン)。また、彼らはアルバム・チャートでの新アルバムの成績もすごく良かったですね。集計期間の関係でアルバムの方の年間チャート2022ではそれらはあまり目立つ結果になりませんでしたが、週間チャートでのそれらのロング・ヒットはしっかり確認しています。

 

3.男性ポップ・アーティスト勢の連なる成功

 これも外せない今年の特徴です。ポップ・ミュージック自体は、年間チャートの結果を見る限り勢力が強まっていないどころかむしろ弱まっているのですが、そのポップ・ヒット曲群の形態の内訳が今年はちょっと違います。男性ポップ・アーティストによる曲の割合が例年より高めでした。

 

 

 図は年間チャート100位以内にランクインしたポップ・ソングを、形態別に分けてその割合を表したものです(過去5年分)。正確な値は分かりませんが、青で示される男性ポップ・アーティストの曲の内訳が今年は特に高いですね。いつもは女性ポップ・アーティスト勢にまったくかなわない割合で、2021年は特に両者の差が広かったわけですが、今年はその差が一気に縮まりました。具体的には、ハリー・スタイルズ、エド・シーラン、サム・スミス、エルトン・ジョンらが主にシングル・チャートで大活躍していて、彼らは全員UK出身です。カナダからも国民的スター、ジャスティン・ビーバーとショーン・メンデスがヒットを飛ばしました。もちろん、本国アメリカからもチャーリー・プースやコナン・グレイがアルバム・チャートで成功したので、男性ポップ・アーティストの既得権益は今年ほぼ全員ヒットを飛ばしたことになります(ルイス・キャパルディはちょっと遅れたから、来年かな?)。新人も豊富で、"Sunroof" が大ヒットしたニッキー・ユーアを筆頭に、グラミー賞最優秀新人賞にもノミネートされたオマー・アポロ、独特な音楽で前途有望な若者 JVKE らがチャートで成功してメジャー・デビューしました。

 

4.サントラが継続的に上位を維持

 より具体的な話にはなりますが、これも外せません。これまでサントラについてその勢力をあまり気にしていなくて、「サントラ」というジャンルすら1つのジャンルとして考えないのでもいいのではないかと思っていました。例えばセレーナ・ゴメスの "Back To You" はテレビドラマ『13の理由』のサントラですが、これまでは「サントラ」を1つのジャンルとして認識していなかったので、 "Back To You" のジャンル区分をセレーナ・ゴメスの主なジャンルであるポップにしていました。ただ、今年はサントラのヒットが多かったのでさすがに改心しましたね。サウンドトラックは、1つの立派なジャンルなのだ、と。

 

 

 年間チャート100位以内にランクインした曲の数、サントラ・バージョンです。2022年は過去最多ですね。具体的に全部言ってしまうと、まず15位にアニメ『アーケイン』のサントラ "Enemy"(アーティスト:イマジン・ドラゴンズ & J.I.D.)がランクイン。そして24位と53位に、ディズニー映画『ミラベルと魔法だらけの家』から "We Don't Talk About Bruno" と "Surface Pressure"(アーティスト:どちらもエンカント・キャスト)がランクインし、『トップガン マーヴェリック』からの "I Ain't Worried"(ワンリパブリック)と『エルヴィス』からの "Vegas"(ドージャ・キャット)はその間に、それぞれ37位と47位に入りました。サントラ・ヒットの年間チャート最高位は、2019年に『スパイダーマン』のサントラ "Sunflower"(ポスト・マローン & スワエ・リー)が2位を記録したので 今年の "Enemy" の15位は歴史的記録ではありませんが、今回すごかったのはなんと言っても数です。年間チャートには入りませんでしたが、『トップガン』からは "Hold My Hand"(レディー・ガガ)もヒットしましたし、『ミラベルと魔法だらけの家』からも "Dos Oruguitas" など上記2曲以外にもたくさんのチャート・ヒットが出ていて、『ミラベル』は一時期ブームになっていましたね。

 

5.アフロビートら"LACKS"(非・主要ジャンル)が台頭

 最もかっこつけているタイトルですが、"LACKS" は主要6ジャンル(ポップ / ロック / カントリー / R&B / ヒップホップ / EDM)以外の、ここ最近勢力を上げてきたジャンルの総称で、ラテン(Latin)/ アフロビート(Afrobeat)/ クリスマス(Christmas)/ K-Pop / サントラ(Soundtrack)の5種です。それぞれの頭文字を繋げて、勝手に "LACKS" という略称を作りました("Lack" は「欠陥」という意味で否定的な意味だけど、「主要ジャンル」から欠けていた、という意味では妥当かも...。あと、社会の授業で新興諸国のことを BRICs と略すことがあると習ったから、「新興ジャンル」ということでそれもちょっと真似して)。サントラについては先ほど述べた通りですが、サントラ以外もすごかった印象です。

 

 

 図は、今年の年間チャート全100曲のジャンル内訳になります。カントリーがヒップホップを抜いて第1位ジャンルになっていることなど、主要ジャンルのことについてもいろいろいえますが、"LACKS" も全体として目立っています。というのも、主要6ジャンルが全体に占める割合は今年は80%なのですが、2017年~2021年は以下の通りでした。

 

2017 2018 2019 2020 2021
96 93 96 97 90

 

 つまり、主要6ジャンル以外の "LACKS" が台頭してきたことによって、主要6ジャンルの割合はここ数年で一気に下がったわけです。"LACKS" を考えると、まず、ラテン・ミュージック。ラテンはバッド・バニーが抜きん出ていますが、今年はカロル・Gも2曲をヒットさせ大成功でしたし、ロザリアや Manuel Turizo も初の全米ヒットを達成しました(フラメンコやレゲエもとりあえずラテンに含めています)。ラテン・スターといえば自分はダディー・ヤンキーや J.バルヴィンなどの男性を主に思い浮かべるのですが、カロル・Gやアニッタなど、今年は女性アーティストの成功も目立った1年でしたね。シャキーラの後継者も近いうちに出てきそう。

 次に、アフロビート。去年初めて知ったアフリカのR&B風音楽ですが、R&Bとは違います。こちらはバーナ・ボーイを中心に、多くのアフロビート・アーティストが全米チャートに爪痕を残しました。世界的ポップ・スターの助けを得ながらではありますが、メインストリームで着実に存在感を強めてきています。来年はどうなるか、注目ですね。

 最後に、クリスマス(もしくは「ホリデー」)。これについては自分は否定的な意見しか言ってきませんでしたが、年々冬季における盛り上がりが強まっているのは事実なので、完全無視はできません。そしてK-Pop、BTSの活動休止もあり今年はシングル・チャートでは前年ほど盛り上がりませんでしたが、アルバム・チャートではたくさんのアイドルが新作をヒットさせていて、ジャンルとしての人気拡大を実感しましたね。地理的に遠いし、言語も違うのに、すごい。K-Pop の海外への振興は国家政策であるとも聞きましたが、それにしてもすごいです。以上、"LACKS" の話でした。...略称、気に入っちゃって。

 

 2022年のおさらいとして指摘したかった点は以上です。ただ、これとは別にここであまり取り上げなかったジャンルや形態についても年間チャートの分析として記事にするかもしれません。ここまで読んでくださった方はかなり少ないような気がしますが、とりあえず、読んで下さりありがとうございました。



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