
ディーン・ルイスが久しぶりに登場。
3年前の神曲 "Be Alright" を上回るとは思わないが、
新曲 "How Do I Say Goodbye" がチャートを上昇中。
それにしても、3年振りの登場なのにすごく懐かしく感じてしまう。
同時期にメジャー・デビューしたエイバ・マックスとは対照的に、新譜リリースの頻度が低いから?
「ロック / オルタナティブ・ソングス・チャート」とは
2020年に従来の「ロック・ソングス・チャート」から転身して作られた専門チャート。
「ロック・ソングス・チャート」がロックのみを対象としていたのに対して、「ロック / オルタナティブ・ソングス・チャート」はロックとオルタナティブ・ミュージックを対象にしている。
オルタナティブ・ミュージックは大きくオルタナティブ・ロックとオルタナティブ・ポップに分けられ、前者はロックの一種なので従来のチャートでも対象とされていたが、後者はポップの一種(※諸説あり)であるため、従来のチャートでは対象ではなかった。
下の図で、左側の四角形が従来の対象範囲、それにオルタナ・ポップを加えたものが新設の対象範囲。
...というわけで、
早すぎる今年の同チャートの振り返りです!
年間チャートが発表されたらそれもレビューしますが、その前に気が早まりました。
新聞記事風に、気が済むまで振り返っていこうと思います。
たぶん長いので、覚悟してください。
さらに強まる第三勢力!!専門チャートなのに、上位は色とりどり!?
ロック / オルタナティブ・ソングス・チャートは、ロックとオルタナティブ・ミュージックを専門とするチャートだ。それゆえ、同チャートに現れるアーティストは、そのほとんどがロッカーかオルタナ・ポップ歌手である。しかし最近、このような風体を持たないアーティストたちも同チャートに姿を見せ始めている。それは、元々オルタナ・ポップを志向していなかったポップ歌手や、ラッパーなどである。彼らを、元々チャートが想定していなかった対象のアーティストであるという意味で、「第三勢力」と呼ぼう。第三勢力は、体裁上別のジャンルに属していながら、ロックやオルタナ・ポップにアプローチした曲をリリースして、成功した。また、彼らは、実はチャートの創設時からチャートの上位に存在していた。しかし、それが時を経るにつれてさらに拡大し、また同時に多様化していったのである。上位に占める第三勢力の割合は上昇し、本来のロッカーやオルタナ・ポップ歌手を見つけるのが大変になった。ポップ歌手やラッパーだけでなく、今年はR&B歌手やカントリー・アーティストも同チャートに進出してきた。音楽として見れば当然同チャートはロック / オルタナティブ・ミュージック一色だが、アーティストで見ればこのチャートは専門チャートにもかかわらず実に色とりどりのチャートに変容したのである。今後はラテン・アーティストなども進出してくるかもしれないので、動向に注目だ。
(口出し)
「まとめ1」で同チャートで活躍したラッパーについてまとめましたが、今年はラッパーだけでなくR&Bシンガーやカントリー・シンガーも出てきていて、驚いています。R&B はスティーヴ・レイシー、カントリーはザック・ブライアンとジェリー・ロールですね。どちらも去年もあった(R&B → タイ・ヴェルズ、カントリー → ミランダ・ランバートのロック・ソング客演)のですが、後者に関してロッカーのエル・キングがメインだったからミランダ・ランバートがロックに進出したとは捉えなかったことなどの事情があり、気にしていませんでした。それが、今年は無視できなくなってきたということですね。ちなみにラッパーは、むしろ勢力ダウン。スエコや bbno$ が今年初頭にヒットして以降、続きがありませんでした。マシン・ガン・ケリーのアルバム・リリースはありましたが、シングルのヒットは一時的でしたね。🍅
今年も豊富!TikTokバイラルによるメジャー・デビュー遅咲き組!
近年、TikTok という、短い動画を投稿したり見たりして楽しむSNSアプリが世界的に大流行している。その中で特に人気なのがダンス動画で、曲に合わせて踊ったりパフォーマンスをしたりする動画が「○○チャレンジ」と名付けられ、世代・国境を越えて広まっている。ここで重要なのは、このようなダンス動画が流行るということは、そこで使われている音楽も注目されるということだ。TikTok はあくまで動画投稿のプラットフォームだが、このような動画の流行が起こることで、間接的に使われている音楽も多くのユーザーに広まることになる。そして投稿動画のバイラル・ヒットを望むユーザーたちは、「バズり」そうなら必ずしも今ヒットしている音楽を使わない。過去のヒット曲を、それも何十年も前のヒット曲を使用したりする。また、彼らはアーティストも選ばない。どのようにしてか、無名のアーティストの曲を掘り出し、活用する。彼らにとっては、時間も名声の有無もヒットしている(していた)か否かも無関係で、つまり、そのようなユーザーが本当に流行を生む今の時代の流行歌は、何でもありなのである。ただ、繰り返すが間接的であることに留意せねばならない。TikTok のユーザーは動画のファンで、必ずしも音楽のファンではない。TikTok のバイラルは音楽が知られるきっかけで、実際にヒットを引っ張っているのは音楽のファンだ。そのため、音楽リスナーによる評価がしっかり入って、ヒットになっている。ダンスに向いているが音楽的には低質なものは、ふるいに掛けられるのである。
そんな TikTok によるバイラル・ヒットは、ジャンルも選ばない。ロック・ソングも毎年たくさんの曲がバイラル・ヒットしている。その中で特に目立つのが、無名アーティストのこれによる遅咲きデビューだ。ヒットの度合いはさまざまで、同チャートにとどまる範囲でヒットするものから総合チャートでも大ヒットするものまであり、一律にどうとはいえないが、バイラル・ヒットによって無名だった人々は確かに認知度がグンと上がるのである。今年は、具体的にザ・ウォルターズ、ジェイムス・ヤング、ザ・レア・オケ―ジョンズなどが遅咲きのメジャー・デビューを果たした。ヒットした曲のリリース年を見ると、それぞれ2014年、2017年、2016年。ザ・ウォルターズはリリースの8年後にヒットしたことになる。2019年にラッパーのリゾがバイラル・ヒットにより、本当のデビュー年2013年から6年遅れてメジャー・デビューし大活躍したが、上には上がいるものだ。しかし遅咲きとはいえ、たくさんのアーティストが売れることは素晴らしいこと。チャート的にも、独占や寡占を防ぐという意味でいい現象だ。今年も豊富だったロック遅咲き組、来年もこの調子は続くだろうか。
(口出し)
「チャート的にも、独占や寡占を防ぐという意味でいい現象だ。」という部分に思いっきり主観が入りましたが、いろんなアーティストが知れるので TikTok のバイラル・ヒットには感謝しています。また、「ジャンルも選ばない。」に関して、最初はラップ・ソングのバイラルが多かったのですが、徐々に多様化していって、ロックも2020年頃からこの流れに本格的に乗り出しました。さっきと同じような文章構成になってしまいラップのファンには申し訳ないのですが、ラップのバイラルはむしろ減少しています。中は見ませんでしたが最近米ビルボードのサイトに「ヒップホップは(チャート)優位からずり落ちている!?」という見出しの特集記事を見つけ、はっとしました。ヒップホップの巨勢はバイラルの多さがバックボーンになっていて、そのバックボーンが多様化により弱まってきたがためにヒップホップは今年、ズンと勢力を落としたのだと思われます。またこれについての記事を書きたいですね...、いつかやります。いつか。📆
マネスキンに続くか!?今年のニュー・フェイス・ロッカー!!
一方で、TikTokバイラルによりタイミングよくメジャー・デビューを果たした新人もいる。ボーイ・ウィズ・ユークとCafune (カフネ)だ。このうちボーイ・ウィズ・ユークはかなり特徴的で、ロボットの顔のような不気味なマスクを付けながらウクレレを弾き、不穏な低音で歌を歌う。彼はオルタナティブ・ミュージック、特にオルタナ・ロックのアーティストだが、このジャンルで覆面はあまりいない。また、ウクレレも決して流行ってはいなかった。つまり、彼はまったく新しいスタイルで、まったく新しいヒットを飛ばしたのである。一昨年メジャー・デビューしたオリヴァー・ツリーもそうだが、アーティストの寿命が短いといわれるこの時代で、特徴があるのは強い。去年大ブレイクしたマネスキンも、ボーカルの強いクセがあるからユーロビジョン優勝後も忘れられないわけで、代替もされないのである。そう書いてしまうとカフネは Beach Bunny という少し前に売れたバンドとスタイルが似ているから、特徴に欠けるということになってしまう。だが、アメリカで結成されたこの男女デュオは、明らかに実力でリスナーを魅了している。一発で終わりそうなタイプの音楽ではなく、むしろ売れっ子ロック・バンドの華あるキャリアの中の一曲、といった感じだ。両者ともまだ総合チャートでヒットするまでには至っていないが、マネスキンに続く実力派として、今後さらに存在感が強まることを期待したい。
(口出し)
いや~、ボーイウィズユークは最高ですね!今年の新人の中で、一番ハマりました。デビュー・アルバム『セロトニン・ドリームズ』(2022) もチャートの成績が良くて満足です。一番ヒットしたのが "Toxic"、その次が "IDGAF with ブラックベアー" 。ただ、"Toxic" の前にちょっと売れていたらしい "Long Drives" も聴いています。"Toxic" で不穏な音楽のイメージがあったので口笛!?となりましたが、失恋ソングでした。暗い声に失恋の歌詞、そんな中口笛が陽気に鳴っていて、なんか変な感じで面白いです。アウトロ(最後)で一気に雰囲気が変わって少し感情的なウクレレの弾き語りが始まりますが、こっちの方が本来、って感じでしっくりくる。アウトロにはいつも聞き惚れてしまいますね。🚘
カフネのヒット曲 "Tek It" はけっこう最近好きになった曲なのですが、正直このタイプの曲は自分の好みではないと思ってました。このタイプ、というのは説明が難しいのですが、ロックがじゃんじゃん鳴る中でボーカルはやや弱めに歌う?感じです。下手な説明ですみません。好みではない自覚があったのですが、それにしても "Tek It" はエモーショナルで、忘れられません。無気力ながらもエモいサビ、そして無気力からのクライマックス。もう古い言葉になってる気がしますが、「じわる」とはこのことかと。好きです。💜
新潮!?別の要因で過去の名曲がリバイバル!!
過去のヒット曲が再びチャートを上昇している、となったら TikTok が要因だと考えるのが普通になった。しかし、今年再浮上したケイト・ブッシュの "Running Up That Hill" とメタリカの "Master Of Puppets" は違う。映像サブスクリプション大手 Netflix のオリジナル・ドラマ『ストレンジャーシングス』のサントラ(挿入歌)に起用されたことで、話題になってチャートを上昇し始めたのである。『ストレンジャーシングス』は Netflix で大人気のシリーズもの。とはいえ、これまでのシリーズでこのようなことは起こらなかった。ではなぜ今回このような現象が起きたのか。はっきりとは分からない。なぜなら、Netflix の加入者は減少していたからである。視聴者が増えているなかでならまだ分かるが、その逆だ。考えるに、勿論はっきりとは分からないが、結局これもバイラル・ヒットなのではないかと思われる。Netflix ドラマでの注目はあくまできっかけで、注目はSNSを通じて大多数に共有された。Netflix 加入者を中心にヒットしたのではなく、SNSでの口コミを中心にヒットしたのである。もちろんこれらリバイバル曲も過去・現在の音楽ファンによって評価されている。SNSで話題になってヒットした、と聞くと実力でのし上がってきたアーティストたちの曲に比べ低クオリティの曲を想像しがちだが、TikTok にしてもしっかり評価されたものが表に出てきているのである。同チャートのみで観測されたドラマがきっかけのリバイバル・ヒットだが、SNSがその中心ならどのジャンルでも起こり得る現象だといえるだろう。
(口出し)
うーん、でも "Running Up That Hill" "Master Of Puppets" どっちも1回しか聴いてないんだよな~...。特にメタリカのは長いし。...そう!長い!TikTok 発ヒットとの違いに、これがあると思う。TikTok では短く、ペース速めの曲が人気になりやすいイメージです。あ、でもゆったりしたヒットもあるか...。2020年にもフリートウッド・マックの "Dreams" (ゆったりした曲)がリバイバル・ヒットしたのですが、これは TikTok 発でしたね。新聞記事風まとめは以上です!読んでくださった方はお疲れ様でした & ありがとうございました!🌹