洋楽のどこがいいの?と聞かれてパッと答えられなかったことがあったが、
救いようのないほど暗い曲も脚光を浴びるところが自分にとっては1つの魅力かもしれない。
トップ・チャートの明るくてポップな曲についていけなくなった一方で、(特にロックに多い)そういった曲は全然聴いていられる。
そもそも初めて好きになったアーティストがダニエル・パウターで、ネガティブな音楽が多い人だった。
...そんなこんなで、原点回帰している気がする最近です。
全米チャート・レビュー!
9月のアメリカのシングル / アルバム・チャートについてそれぞれ注目アーティストを数名挙げ、
彼らの活躍を振り返りつつ両チャートの全体的なレビューもします。いろいろあった9月を、振り返っていきましょう!
<シングル・チャート>
1.ドージャ・キャット
シングル・チャートはまずこの人ですね、ドージャ・キャットさん。9月発売予定の4thアルバム『スカーレット』からのリード・シングル "Paint The Town Red" が勢いよくチャートを上昇し、1位をとりました。1位は3年前の "Say So" 以来で、キャリア2曲目になります。ドージャさんはニッキー・ミナージュやカーディ・Bかと思うくらい今年は特にお騒がせな方で、もう市場性のある音楽は作らない、と、過去の作品が商業主義的なものだったと自己批判しつつ主張したり、自身のファンを批判してSNS全体で何十万人ものフォロワーを失ったりと前例のないことを起こしていましたね。とはいえ、この "Paint The Town Red" はラップ調ではあるものの聴きやすく、市場性はありそうですし、リスナーもそれに反応して曲をナンバーワンまで持っていっているあたり、彼女の人気に大きな変化があったとも思えません。結局、ドージャさんは今は「やろうと思えばやれる」という最強の状態なのであり、それはまだまだ続く気がしますね。
2.ガンナ
4枚目のアルバム『ア・ギフト・アンド・ア・カーズ』から、"FukUMean" がTop10レベルの大ヒット。Top10入りは2か月ほど前なので、取り上げるのは今さらになってしまうかもしれませんが、それでもこのヒップホップが脱落していく流れの中で、直近2か月では唯一Top10を守り続けたラップ・ソングです。若干流行りのアフロビートに寄せている感も感じましたが、基本的には純粋なヒップホップで、今年はそういうヒットが特に少ないので希少性すら感じますね。ここまでくると、ヒットする方が「ワケあり」となるのがよくあることで、同曲もそうでした。ガンナさんは味方のギャングの非行を密告(スニッチ)した疑惑でヒップホップ界やヒップホップのファンから厳しい目を向けられており、しばらく音源のリリースが行われていませんでした。そんな彼の復帰曲が "Bread & Butter" とこのアルバムで、"Bread & Butter" もそうらしいのですが、アルバムからの "FukUMean" がこの騒動に言及しているものになっていて、それで注目されたみたいです。"FukUMean" は "Fu*k U Mean ?"(訳:「何を言ってるんだ?」)の略で、疑惑を真っ向から否定し自身の権威を見せつける力強い曲になっている感じですね。
3.モーガン・ウォーレン
16週も1位を記録した "Last Night" がついにTop5から漏れ、彼の独走の時代に終わりが来たと断言できるようになってしまいましたが、時を同じくして "Thinkin Bout Me" が5か月ぶりにTop20に上昇し、次なる大ヒットの可能性を見せしめています。同曲は5~6か月前に、彼のアルバム『ワン・シング・アット・ア・タイム』がリリースされたと同時に収録曲の1つとして上位に初登場し、Top20で少しヒットしたのですが、範囲外に落ちてからも20位台をキープし続け、9月になってついに再浮上してきたかたちになります。モーガンさんの音楽に関して、前もどこかの記事で書いたかもしれませんが、1stアルバムの頃は明るめなカントリーが印象的だったのに、2ndアルバム以降はしんみり系のカントリー・ソングのヒットが圧倒的に多くなり、早くも1stアルバムの頃の感じが懐かしくなりましたね...。なお、しんみり系の1つ "Last Night" は16週の1位を記録したことで、ゲストのいないソロ・ソングとしては歴代最長の全米ナンバーワン・ソングの称号を手に入れました。👑
※ゲストありでは、リル・ナズ・Xの "Old Town Road ( Remix ) feat. ビリー・レイ・サイラス" が19週で最長。
<アルバム・チャート>
4.ザック・ブライアン
私は勝手にモーガン・ウォーレン、ルーク・コムズ、ザック・ブライアン、ベイリー・ジマーマンの4人を今カントリー界で最も勢いがある若手として「カントリー四天王」などと呼んでいるのですが、正直言って、私はザック・ブライアンの音楽をよく分かっていません。何曲か聴いたし、特に大ヒットした "Something In The Orange" は1年くらい聴いていると思うのですが、それでも彼の音楽の魅力が分からないということは、私はある種残念な人間なのかもしれません。というのも、ザック・ブライアンが最新作『ザック・ブライアン』とその収録曲 "I Remember Everything feat. ケイシー・マスグレイヴス" でアメリカの両チャートを制したことで、彼の人気が特に急上昇していることが証明され、今後は彼が流行のど真ん中になるかもしれないからです。うう~...、洋楽の流行はたとえその流行が好きじゃなくても、どういうものかを分かっている状態でありたい...。ザック・ブライアンが分からない...。
5.ホージア
4年ぶりの新作にして3枚目のアルバム『アンリアル・アンアース』がリリースされ、同作は全米アルバム・チャート3位を記録しました。彼は「テイク・ミー・トゥ・チャーチ」で大ブレイクして以降、ブランクがあっても新作のチャート成績はいつも良い状態を維持しているといえ、アイルランド出身のロック・アクトというカテゴリで見れば、今最も世界的に売れているのは彼であると断言できるでしょう。3位に初登場して以降の粘りもいいです。アルバム・チャートの話をすると、去年は持続的にヒットしたロック・アルバムが9月末の時点でレッチリ『アンリミテッド・ラヴ』のみでした(この記事の最後の方でも触れています)。ただ、今年はもう既にメタリカ『72シーズンズ』、ボーイジーニアス『ザ・レコード』、ゴリラズ『クラッカー・アイランド』の3作が内定を決めていて、今後もこの『アンリアル・アンアース』とローリング・ストーンズの新作に大きな可能性があります。さらに、それら以外でも Sleep Token『Take Me Back To Eden』等惜しかった作品がけっこうあり、アルバム・チャートにおいてロックの力が復活していると感じますね。素晴らしい傾向です。
6.オリヴィア・ロドリゴ
セカンド・アルバム『ガッツ』からの先行シングル "Vampire" が2か月前にシングル・チャートで1位をとりましたが、アルバムも今月リリースされ、1位に輝きました。彼女はデビュー・アルバム『サワー』(2021) でも1位をとっています。デビュー・アルバムから2作連続1位というのはビリー・アイリッシュ以来でなかなかなく、快挙なのですが、個人的に面白かったのはその新作の内訳ですね。アルバム・チャートはデジタル・ダウンロードやCD、レコード等のセールスの売上ポイントと、サブスク等によるストリーミングの再生回数ポイントで順位付けされますが、ポップ・ミュージシャンはどちらかというとセールスの売り上げによるポイントの方が多い傾向にあります。ただし、ハリー・スタイルズなど若者人気の高いアーティストは例外的にストリーミングもかなり強いことがあり、オリヴィア・ロドリゴも若者からの支持が絶大な方でした。その結果、『ガッツ』は見事にセールスとストリーミングによるポイントがほぼ同じくらいになり、これは本当に初めて見た内訳ですね...。MTVアワードでの演出事故を演じた "Vampire"、"Get Him Back!" パフォーマンスも効果があったと思われます。この人も、しばらくはチャートにおいて敵なしでしょう。🏰
全体レビュー
シングル・チャート・・・トップ層、モーガン・ウォーレン "Last Night" の独走時代が終焉し混沌期へ突入!しかし上位におけるカントリー・ミュージックの勢力は依然として強い!! & 一方でラテン・ブームは若干落ち着いた感が...!!
アルバム・チャート・・・ロック含め、さまざまなジャンルの新作の寿命が向上している現象がまだまだ続いている!素晴らしい!! & 先月のトラヴィス・スコットを筆頭に、シングル・チャートにも大きな影響を及ぼす作品の登場が続々!!
オリヴィア・ロドリゴのところで書いたことの関連で、
カントリー・アーティストも基本的にはセールスのポイントの方が多いことが知られている。
だから、レーベルもデジタル・ダウンロードやフィジカル媒体の売上を伸ばす戦略に出るのが普通なわけだが、
ザック・ブライアンの新作『ザック・ブライアン』は、フィジカル媒体の発売が10月だそう。...つまり、まだ発売されていない。
それなのに、1位をとってしまっているのが、言葉足らずですが恐ろしいです。9月も記事を読んでくださった方、ありがとうございました。