去年はこの記事で米シングル・チャートのクリスマス現象(命名→クリスマス・フィーバー)をまとめました。
今年は、イギリスでのそれの実情をまとめていこうと思います。
先にデータを調べた感想だけ言ってしまうと、
いろいろ意外なことがあって、面白かったです。
アメリカとの違いも、意識しながらでなくても感じられました!
👇 今回まとめること 👇
①英シングル・チャートでのクリスマス・フィーバー
②英アルバム・チャートでのクリスマス・フィーバー
③ホリデー・シーズンの謎の恒例
①英シングル・チャートでのクリスマス・フィーバー
まず、2017~2022年のデータで、当現象が激しくなる(ピークを迎える)11~12月の5週について、全英シングル・チャートTop10のクリスマス・ソング数を記録してみました。下図の横軸が週を表していて、第1週(11月下旬の週)から第5週(12月25日を含む12月下旬の週)まで、年ごとにクリスマス・ソング数の変化を示しています。色分けとか、見にくい部分は大目に見て下さい。
(目盛り、失敗した...。Top10だから縦軸の上限を12ではなく10にするべきでした。)
年ごとにTop10圏内のクリスマス・ソング数の変化を見ていきます。2017年は、第1週こそゼロでしたが、翌週一気に3曲が入ってきて、その3曲が中心となってピークの第5週までフィーバーをもたらしたといえます。マライア・キャリー「恋人たちのクリスマス」、ワム!「ラスト・クリスマス」、ポーグス「ニューヨークの夢 feat. カースティ・マッコール」の3曲ですね。3強って感じでした。2018年は、第4週まで2019年のグラフと思いっきりかぶっているので図では見つけにくくなってしまっているのですが、少しずつランクイン数が増えていったような変化です。ここでも中核となったのは上記3曲。つまり、フィーバーの傾向はそんなに変わっていません。ただ、ピークの第5週におけるTop10占有率はかなり高くなりました。2019年もほとんど同じようなことがいえます。傾向的には前年、前々年と同じですが、ピークの破壊力はさらに高まり、Top10完全占有まであと一歩という状態にまでなりました。そして2020年。一気に変わります。初週からもう定番3曲が入ってきていて、翌週にはもう7曲!これまで定番3曲以外はピークにならないとTop10入りしないことがほとんどだったのですが、その慣行が早くも破られました。第3週は少し落ち着きましたが、それでも高水準。第4週にはもう例年のピーク並みのフィーバーになっています。当然それは第5週まで続いて、全体的にフィーバーは一気に激しくなりました。これについて少し考えると、パンデミックという心理的な不景気が、クリスマスという好景気なイベントを渇望させるようになった可能性があります。辛いときほど、幸せなイベントはより幸せなものになるということでしょう。2021年も、同じような超高水準のクリスマス・フィーバーが確認できます、特に第1週→第2週の急増(5曲増加)はすさまじいですね。また、ピーク週において、ついにTop10完全占有が達成されました。本当の意味でのピークの達成、恐ろしいことになりました。ただ、2022年は過去2年と比べると、フィーバーはやや弱めです。第2週の増加が3曲と少なめで、第3週、第4週も一気に増えることはありませんでした。ピークでは結局9曲がランクインすることになったとはいえ、全体的に見るとクリスマス・ソングのチャート・アクションは少し落ち着いていましたね。
まとめると、全英シングル・チャートTop10におけるクリスマス・ソングのフィーバーは、2017~2019年はクリスマスが近づくにつれ定番曲を中心に少しずつ盛り上がってくるような傾向で、最後のクリスマス・ウィークにドカーンと一気に爆発するような変化だった。しかし、2020年からは、より早い時期から、より多くのクリスマス・ソングが上位を占めるようになってきていて、全体的な盛り上がりは一気にかなり高水準になったといえる。2021年には実質上のチャート上位完全占有も起きた。ただ、2022年はそれが少し落ち着いたような感じで、盛り上がりの水準は落ちた...。
去年の落ち込みについては、2つの要因が考えられます。1つは、前年・前々年が特別だったという話で、パンデミックによる心理的な辛さは慣れによって年々減っていくと思われます。前年・前々年はパンデミックによる辛さが強かったから例外的にクリスマス・ソングのチャート・アクションがハイレベルだったけど、2022年は辛さが落ち着いたから、その過剰分がある程度なくなったということです。この要因に従うと、次年度(2023年)はフィーバーがもっと落ち着くことになるかもしれません。もう1つは、ワールドカップです。11~12月の大きな楽しみが分散したことで、クリスマス・フィーバーが激化しなかったと考えることができます。イングランドもグループリーグを突破していいところまで行っていたので、自分はこの要因が大きいのではないかと思っています。
次に、Top40まで調査範囲を拡大します。見にくさは相変わらずですが、ご容赦ください。
年ごとに概観を述べていくと、2017~2019年はTop40においても、同じような水準で、同じような変動をしていることが分かります。水準としては、第1週~第4週は全体の50%を占めるには至らないけど、ピークの第5週には50%を超える占有を達成するような感じ。変動としては、どこかで急増・急減するようなグラフであるというよりは、一定のペースで増加していくようなグラフだといえると思います。一方、2020年はまったく違くて、第1週から50%の占有が達成されていますね。最初の水準がかなり高いがためにグラフの傾きはかなり穏やかで、少しずつ、着実にTop40内にクリスマス・ソングが増えていったような印象を受けます。ただ、穏やか過ぎて、ピーク週における急増はなく、占有率でいえば意外にも前年以下でした。2020年の第5週は集計期間が12月25日から12月31日の7日間で、26日以降はクリスマス・ソングはまったく聴かれなくなるので、フィーバーをもたらす期間が1日しかなかったというのがこれの一因です。そして2021年、この年は第1週こそ前年より低水準でしたが、第2週に急上昇して前年の水準に追いつき、その勢いでピーク週には過去最高の82.5%(33曲)のTop40占有率を記録しています。グラフの傾きも前年より大きいですね。2022年も、第1週こそ弱めでしたが、第2週に信じられないほど急上昇して(13曲も増加!)、週ごとの記録で見て過去最高の水準を記録します。その後も、増加率(傾き)は決して小さくはならずに、週ごとの過去最高を更新し続け、ピーク週には85%(34曲)の占有を起こしました。非クリスマス・ソングはわずか6曲です。
対象範囲をTop40まで拡大して、少し話が変わってきましたね。2022年は、Top40で見ればフィーバーは落ち着いていたとはいえず、むしろさらに加熱していたといえます。上位中の上位では勢い振るわなかったけど、そのすぐ下では過去最高に盛況だったということでしょうか。上で述べた2つの要因は必ずしも当てはまらないとはいえないと思うのですが、とりあえず範囲を拡大して調べてよかったです。まとめると、結局年々フィーバーは加熱しているということがいえるでしょう。
最後に、イギリスの人気クリスマス・ソングをチャートに基づいてランキングにしてみました。
1位 | All I Want For Christmas Is You | Mariah Carey |
Last Christmas | Wham! | |
3位 | Merry Christmas | Elton John & Ed Sheeran |
4位 | Fairytale Of New York | Pogues, Kirsty Maccoll |
5位 | It's Beginning To Look A Lot Like Christmas | Michael Buble |
2017~2022年のチャートを見て、総合的に判断した感じです。3位「メリー・クリスマス」だけ2021年にリリースされた新しい曲で、それはこれまでの3強の一角、「ニューヨークの夢」を大きく上回る人気を2年連続で博しました。ちょっと気になったのは、1、2、5位のような6年連続で大ヒットする曲がある一方で、4位のようにだんだんチャートの順位が落ちていく定番曲もあったということで、クリスマス・ソング市場にも栄枯盛衰があるのだと感じました。また、順位が上がって行く方の曲には、ブレンダ・リー「ロッキン・アラウンド・ザ・クリスマス・ツリー」、ボビー・ヘルメズ「Jingle Bell Rock」などグローバル・チャートでも人気が高い曲が多くて、だんだん地域的なクリスマス・ヒットが弱まっていき、よりグローバルなクリスマス・ヒットが強まっていくような傾向を覚えます。どちらも大きな発見でした。
②英アルバム・チャートでのクリスマス・フィーバー
今度はアルバム・チャートでの検証です。シングル・チャートのときと同じように、フィーバーがピークとなる11~12月の5週において、全英アルバム・チャートTop10に何作クリスマス・アルバムがランクインしたのかを、過去6年間のデータを使って数えました。今度は縦軸、上限が10になっています!
(※これ以降、「初めて」という言葉は「2017~2022年の記録の中で初めて」ということを意味することとします)
まず、上図を見て最初にはっきりいえるのは、思ったより占有が激しくない!...ということです。50%を超えたことが一度もありません。シングル・チャートでのTop10占有に比べると、かなり低水準だといえるでしょう。そして、なぜかピークであるはずのクリスマス・ウィーク、第5週に2019年以外は1作しかランクインしていません。第4週からむしろ減少している年もあります。シングル・チャートでの変動とは正反対ですね...。そもそも「クリスマスが近づくにつれてランクイン数が増える」という傾向さえ確認できないグラフです。以下、各年ごとの詳細を書きます。
2017・・・マイケル・ブーブレ『クリスマス』、エルヴィス・プレスリー『クリスマス・ウィズ・エルヴィス』を中心にランクイン数が変動。第3週は3作だったが、第4週は0だった。
2018、2021・・・第2週以降のグラフが重なっている。ともにマイケル・ブーブレ『クリスマス』のみがTop10で大ヒットしていたといっても過言ではない。
2019・・・比較的高水準で推移。マイケル・ブーブレ『クリスマス』と、クリスマス・アルバムとして初めて全英1位をとったロビー・ウィリアムスの『ザ・クリスマス・プレゼント』がTop10を維持した。
2020・・・前年を上回る高水準。マイケル・ブーブレ『クリスマス』も初めて1位に到達した。ただ、これまでの年と同様に、当日が近づくにつれランクイン数が増えるという傾向は観測されなかった。
2022・・・結局占有率50%は達成しなかったが、過去最高水準。マイケル・ブーブレ、クリフ・リチャード、アンドレア・ボチェッリ、そしてオランダ出身のワルツの音楽家アンドレ・リュウのクリスマス・アルバムが大ヒットした。ただ、後ろの3作はいずれも第5週にTop10圏外へと落ちている。
これらをまとめると、まず全体的なフィーバーの水準としては、正直どうともいえません。確かに2017~2020年は年々レベルが上がっている感じはあるのですが、2021年に急落してしまったので、年々盛り上がりが増しているとはいえない状態です。そして変動の傾向としては、どの年も停滞的な感じが強く、少なくとも「当日が近づくにつれ、だんだん盛り上がっていっている」とはいえません。...これはどういうことでしょうか?
第一に「定番クリスマス・アルバムが少ない」ということができると思います。少ない、というか、マイケル・ブーブレ『クリスマス』のみです。なので、ホリデー・シーズンに差し掛かると決まってチャートを上昇してくるアルバムが1作のみなわけで、場合によってはこれしかチャート上位に影響を残さないこともあり得ます。それ以外のクリスマス・アルバムはいずれもその年にリリースされた新作で、(定番としてではなく)新作としての人気でTop10を維持しているような感じですね。なので、例えば2017年の新作『クリスマス・ウィズ・エルヴィス』はその年こそ大ヒットしましたが、2018年以降は新作としての人気がないのでまったくチャートを上昇してこず、定番化はしませんでした。つまりマイケルさんのアルバム以外はすべて突発的なヒットで、言い換えるとアルバム・チャートにおけるクリスマス・アルバムの占有現象はすべて新作次第ということができます。
第二に...いや、さっきもう言ってしまいましたが、「占有現象は新作次第」ということができます。フィーバーの水準は、その年に何作大ヒットしそうな新作クリスマス・アルバムが出るか、に依存するということですね。それが多かったのが2022年、少なかったのが2021年だと説明できます。また、年々そのようなアルバムが増えているともいえず、フィーバーの水準の説明変数はたまたまこの年は多かった or 少なかったという偶発的な性質をもつといえるでしょう。なお、大ヒットする新作の多くは国民的人気が確定しているような高齢の大スターによるものが多く、若手のそれはほとんど見られませんでした。話を戻して、さらに、フィーバーの推移も新作クリスマス・アルバムに依存します。それらは新作として11~12月に全英アルバム・チャート上位にデビューして、時を経るごとにだんだん売り上げの勢いを落としてチャートを下落していく傾向にあります。これは、普通の新作アルバムのアルバム・チャートにおける動きとまったく同じで、そりゃそうだ、となるかもしれませんが、驚くべきはそれはクリスマスが近づいてくる期間においても、ということ。クリスマス当日が近づいているにもかかわらず、あたかも普通の新作アルバムのチャート・アクションみたいに、チャートを下降していくということですね。それ故、新作としての華がなくなってくる第5週には、マイケルさん以外のクリスマス・アルバムがTop10からいなくなってしまうわけです。とりあえず、このような特徴があると分かりました(難しかったらすみません)。
アルバム・チャートについても、Top40まで対象範囲を広げました。ただ、見やすさの都合上、縦軸の目盛りの上限を40にすることがとてもできなかったので、こだわりたい気持ちはあったのですが、半分の20に設定しました。...まさかこんなに実数値が低いとは思わなくて。
はっきりいって、対象範囲を拡大してもクリスマス・アルバムのランクイン数は全然増えませんでした。UKチャートはそういうものだ、といわれればそうなのかもしれません、相変わらず定番はマイケル・ブーブレのみです。Top10での分析で述べたことがそのままTop40のデータについてもいえ、完全に新作クリスマス・アルバムに依存したフィーバーです(もはやフィーバーと呼ぶべきではないのかも...)。2018年は大ヒットするような新作クリスマス・アルバムがなかったから低水準で、他方で2020年はそれが多かったから比較的高水準。グラフの推移も、時間がたつごとにチャートを下降していく新作クリスマス・アルバムのアクションに依存するので、横ばいもしくは下降傾向。まあ、全体的にUKアルバム・チャートはクリスマス・アルバムのヒットが少ないということだけは分かりました。
...と、少し気になったことがあったのを思い出しました。第5週は、新作クリスマス・アルバムが下降していく一方で、マライア・キャリー『メリー・クリスマス』、フランク・シナトラ『アルティメット・クリスマス』など全米チャートにおいては定番ヒットとなっている過去のクリスマス・アルバムがチャートを上昇しています。これは、つまりこれらも全英チャートにおいて定番になっている可能性があります。調べるうえでTop40外も一瞬見たりしましたが、これらはほぼ毎年クリスマス・ウィークに(下位だけど)ランクインしていました。チャートの上位にまで上がってこないだけで、これらもマイケル・ブーブレ『クリスマス』と同じ定番クリスマス・ヒット・アルバムなのかもしれません。その証拠に、これまで書いていなかったのですが、マイケル・ブーブレ『クリスマス』はクリスマス・ウィークには高確率で順位を上げます。クリスマス・ウィークに順位を上げるのが定番ヒット、下げたり停滞するのが突発的な新作ヒットだと振り分けられるかもしれませんね。
...そういえば、2017~2022年にはシーアやジョン・レジェンド、メーガン・トレイナーといった人気の若手アーティストが独自のクリスマス・アルバムを新しくリリースしましたが、いずれもTop40においても目にしませんでしたね。全英アルバム・チャートは、本当にクリスマス・アルバムがヒットしにくいチャートみたいです...。
③ホリデー・シーズンの謎の恒例
最後に、ホリデー・シーズンに起こるよく分からない恒例を紹介します。最近になってチャートに見られるようになった恒例チャート・アクションですね。
1.YouTuber のクリスマス・ソング
2018年に LadBaby という夫婦YouTuberがクリスマス・ソング "We Built This City" をリリースし、それが突然全英1位を記録したことに始まります。LadBaby はそれ以降毎年ホリデー・シーズンに新しくクリスマス・ソングをドロップしていて、2018年から5年連続(5曲連続)で全英チャート1位をとるという恐ろしい偉業を達成しています。また、彼ら以外にも、2022年は Sidemen の "Christmas Drillings" が全英3位を記録しました。ただ、自分は英国の人気YouTuberのこととかはよく分からないので、詳しいことは結局よく分かりません。
2.YouTuber のディス・トラック
K**TS という団体YouTuberが、2020年から毎年ホリデー・シーズンに政治批判のトラックをリリースしていて、それらがクリスマス・ソングに交じって毎年全英Top10入りしています。2020年と2021年はボリス・ジョンソン元首相の批判で、2022年は政党批判ですね。幸せなホリデー・ソングがたくさんリリースされてる時期にこういうのを出すと、注目度が上がるのはあると思います、だからこの時期に出しているのではないかと。ただ、自分はイギリスの政治についても全然詳しくないので、結局これもよく分からない恒例です。
まあ、後者は必ずしも気持ちのいい恒例ではありませんが、定着したらしばらくは最強ですからね...。これからも続くと思われます。
イギリスのクリスマス・フィーバー実情まとめは以上です。疲れました。
サマリー!!!!
① → Top10においては2022年に一旦熱が冷めたといえるけど、Top40においては逆で年々熱が高まっている!!
② → Top10においてもTop40においても恒常的にヒットするクリスマス・アルバムは少なく、フィーバーの様態は新作に依存する!!
③ → なぜかYouTuberのチャート進出が毎年起こっている!!