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のち
6月にはいる前にこれを上げておかないと、本当に時期を逸しそうなので。
まずは、かなり旧聞に属する話題ですが、eiga.com に出ていたニュースより。
米映画協会、ついに喫煙シーンをレイティングの対象に!
同様の記事は5/16の読売新聞夕刊1面にも掲載されましたが、eiga,com のニュースの見出しを目にした時、まず思い浮かべたのが『グッドナイト&グッドラック』だったので、記事中でこの作品に触れているのには笑ってしまいました。
ジョゼフ・マッカーシー上院議員による「赤狩り」旋風吹き荒れていた1950年代前半、反マッカーシーの急先鋒となったジャーナリストにしてCBS放送の人気アンカーマン、エドワード・R・マローとその仲間たちの闘いを描いた作品です。
監督・脚本:ジョージ・クルーニー(出演も)、主演:デイヴィッド・ストラザーン。
タイトルは、番組ラストのマローの決まり文句より。
クルーニーはじめ、製作に関わった人たちの志の高さは疑いようがありませんし、今この時代だからこそ必要とされる作品であることも理解できます。
しかし、一本の「映画」としての評価はまた別です。
とにかく構成に重層性がなく、ドラマとしては平板。マッカーシー議員と彼の調査委員会の行ないについては当時の映像がそのまま使われ、あえてドラマチックにしないセミドキュメンタリータッチを目指したとも考えられますが、ならば冒頭のシーンやロバート・ダウニーJr.&パトリシア・クラークソン夫妻のエピソード等、随所に見られる「映画的」な表現やキャラ立ては寧ろ排除すべきだったのではないでしょうか?
全体としては、TVの再現ドラマ、それも単発ドラマではなく、例えば『その時歴史が動いた』等の一部を見せられているような「薄い」印象で、題材や着眼点がすぐれているだけに惜しいと思いました。
一方この作品を「映画」として成り立たせているのは、モノクロ撮影の素晴らしさと、主演ストラザーンの演技によるものです。
コントラストのはっきりした画面は硬質な美しさをたたえ、無駄な思い入れを排したストラザーンの演技もそれにマッチしていました。そして、煙草を持つ手つきや吸う仕草は確かにカッコいいですね。
レイ・ワイズも素晴らしかったですが、彼ら俳優たちを向こうに回す実在のマッカーシー議員の存在感も、良くも悪くも大したものでありました。
何だかんだ言っても「オヤジ」俳優好きには見所多い映画でもあります。
というところで、初めにお伝えしたニュースに戻って──私自身は非喫煙者だし、煙草は苦手ですが、喫煙者やその文化をことごとく排除・否定するような社会が理想的なものだとは思えません。
思想や趣味嗜好は異なっても、法の下に人は平等であるというのが、アメリカの民主主義の本来の姿であった筈なのに、人間とはなぜか不自由で不平等な方へと傾いて行くもののようです。
この映画は、「煙草」を通じて、そういう不自由さや閉塞感への異議申し立ても隠しテーマとして潜ませていたのかも知れません。
作品のデータと概要は、allcinema.net をご覧下さい。
背景となる歴史的事実については、Wikipedia で要領よくまとめています。
ジョセフ・マッカーシー
エドワード・R・マロー
マロー氏、やっぱり煙草を手にしていますね。