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彼女について 私の知ってる二、三の事柄 (6) fin

上司は、

蕎麦屋の勘定をすまし、

わたくしを連れて、

銀座のネオン街へ

足を運んだ。



上司は、ある店の前に止まり、

地下へと階段をくだる。

そのあとを、なにも、お互い声を発することなく、

これは、当たり前のことだ、と、

暗黙の了解事項として、オレは、

儀式のごとく、続いて、一段、一段、階段をおりた。

そして、その店のドアを開けて店の中に入った。

高級クラブである。

店のなかは、

髪を綺麗に和髪に結いあげて、

華やかな着物を着た女性たちが、

きらびやかなシャンデリアのもと、

革ばりの濃い茶色のソファーで、

いちげんさんお断りのなか、

いちげんさんのわたくしを、

接待をしてくれる。

場違いのわたくしは、

戸惑って、隣に座った着飾った着物の女性に、

病院のことが、頭に引っかかりながら、

愉快ではないが社交辞令の会釈をした。

なんで、わたくしは、ここに、いるのだろう。

程なくすると、

「この店のママです、いらっしゃいませ」と、

髪を一段と、綺麗に和髪に結い整えた

華やかな、それでいて、シックに落ち着いた着物姿の、

ママが、挨拶に現れた、



始め、よく判らなかった。

それは、当然、そう言って挨拶をしているんだから、

この店のママなんで、しょ、と、

いまいち、納得できない、会釈をしたん、だが。



ママの挨拶の、ハスキーな声で、

記憶が、当時の、そう、その当時の、

眉のちょっと太い、斉藤由貴似の、

その顔とつながった、

えっ、えっ、えっ、えっ、

ト、ト、トモちゃん!?

眼帯から、

6年、いや、8年、

桁が、違う、よ、

やっぱり、トモちゃんは。

眼帯の彼氏とは、

捨てたのか、捨てられたのか、

上手く、捨てられるように、話を持って行ったのか、

トモちゃんは、

そんな器用な子じゃなかったはずだけど、

教わったのか、

環境がトモちゃんを育てたのか、変えてしまったのか、

この長いあいだに、なにが、あったんだろう、

トモちゃん、

いろいろ、あったんだろう、な。



おたがい、なにもない、

キヨい関係で良かったね。


出世だね、

貴方が、わたくしのまわりでの、

一番の出世頭になるんだろうね。

でも、

いま、幸せなのかなぁ、

満足なのかぁ、

トモちゃんは。


あれから、

新たな、姉妹店でも、出店して、

忙しくしてるのかな、トモちゃんは。

もう、トモちゃんって呼ぶのは、失礼だよね。

トモコさん。

ずいぶん、酔っ払っちまって、

お店の、場所も、名前も、憶えていない、よ。

その時いた会社とも、

トモコさんのお店を訪ねるために、

お店の名前と場所を、聞こうとしても、

連絡をとれる間柄じゃないし、

ふたたび、

トモコさんのお店の敷居をまたぐ

気持ちもないですしね。

 

その当時の話をしても、

おたがい、つまらないものね。



と、いっても

そもそも、トモコさんのお店は、

わたくしには、敷居が、高すぎるしね。



サヨナラ、元気でね、

トモちやん。



やっぱり、いまの トモコさんの ことは、

よく、わからないから。


お達者で。

 

トモちゃんの伝説は、

まだ、まだ、つづいていくんでしょう。



 

fin 

 

 

初出 17/08/16 05:18 再掲載 一部改訂

 

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