なにぶん、なりゆき なもんで
、・ 改め らくごしゃ の なりゆき(也がついたり、つかなかったり)
『腹がへったあ!』 Si vis pacem,para bellum. 大杉栄
或日(あるひ)。
A、お互いに仲善く暮してるんで嬉しいよ。見給え、今日こんな善い棒を買った。
b、本当に善い棒だ。頭あぶち破るには持って来いだ。お互いに仲の善いのはお目出度いよ。俺も一ツそんな棒を買って来よう。
数日後。
A、あの棒は野蛮人に遣っちゃった。考えて見りゃ、棒で殴り合うなんて、あんまりひどいからなあ。その代わりこんど剣を買って来た。棒よりゃ振り回すのにも楽だし、見た処もよっぽど立派だ。こうして皆んな仲善くして暮してるんで何によりだよ。
B、成程こりゃ善い剣だ。俺れも早速買って来るとしよう。尤もウチには金が無くって困ってるんだが‥‥‥
また数日後。
A、オイ、早く見に来いよ。こんどは鉄砲を買って来た。剣なんかより何(ど)れ程有力(まし)だか知れやしない。しかしまあ蔵(しま)って置こう‥‥‥お互いに平和に暮してるんだからねえ。
B、善い鉄砲だなあ。俺れも一つ買って来よう。
B家に帰り、その妻に向かい、
B、鉄砲を買うんだから少し金をくれい。
妻、鉄砲?お前さん、気でも狂いやしないかえ。ウチにゃ子供の着物を買う金もありゃしないんだよ。
B、じゃ少し借りて来いよ。
妻、だって、もう質に置くにも、何んにも剥ぐものあないんだもの。
B、今に子供共が大きくなったら、俺達の借金を返してくれらあ。早く何処かへ行って借りて来い。
子供等泣き叫ぶ。
腹がへったあ!
B、黙れ、餓鬼共!手前達ゃ餓死するまで腹減らしていりゃ善いんだ。愚図愚図ぬかすとぶち殺すぞ。
母と子供等と相抱いて泣く。
腹がへったあ!
(『腹がへったあ!』大杉栄 『近代思想』第一巻第七号、一九一三年四月一日 )
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