フリープラン99800円ツアーでバルセロナに行ってきた。バルセロナまでの直行便は無いので、カタール航空で、むかし悲劇のあったドーハまで11時間、乗り継ぎ待ちに4時間、さらにバルセロナまで6時間半という、うんざりするほどの時間をかけて到着。ツアーといっても格安フリープランは添乗員も現地係員もいないので、電車と地下鉄で格安ホテルにたどり着いた。
ホテルの設備は格安だからかどうかはわからないが、ポットもコップもティッシュも歯ブラシも備え付けられてない。全部持って行ったから問題は無かったが、東横インのほうが数十倍快適なレベル。但しキーは電子式カードキーで常時持ち歩けたので楽だった。立地は、観光客がたむろするショッピングストリート、ランブラス通りから徒歩1分、地下鉄駅からも2分という最高の場所だったのでまぁ、よしとしよう。
とりあえずさっそく景気付けにサグラダファミリアを見上げに行った。これでようやくバルセロナに来ている事を実感できた。池のほとりで日本人撮影クルーに遭遇、「はい、バルセロナにやってまいりました」なんて女性レポーターが喋り始めたが、誰だかわからなかった。しかし日差しの加減でいい絵が撮れなかったようで、すぐに撮影を諦めてどこかへ移動してしまった。ローマやアテネで21時頃まで明るかった印象があったので、そのつもりでいたが、この季節では日本とあまり変わらず、17時過ぎには薄暗くなってきた。
次の日は時速290kmの特急でフィゲラスに向かった。1時間もかからずに着いた。そのかわり在来線の駅から2kmほど離れたフィゲラス・ビラファント駅に着くので、町の中心までバスで移動する。帰りに乗った在来線は時速146kmだった。車内に現在の時速が表示されるようになっている。
フィゲラスは小さな街なのだが、異国情緒たっぷりで雰囲気抜群、街角の装飾がなんとなくダリっぽくなってきた頃、突然目の前に巨大な《ニュートンに捧ぐ》が現れた。「うゎっ」ダリ劇場美術館への階段だった。よく写真で見るタマゴが乗った赤い円柱は正面ではなくて裏側だった。12ユーロ払って入場すると、中庭に「雨降りタクシー」が登場、1ユーロ入れると車内に雨を降らしてくれる。140円くらい払って雨降らせるのもアホらしいが最初で最後だろうから1ユーロ払ってやったぜ!《メイウエストの顔》の部屋を見たり、《レダアトミカ》を見たり、《セックスアピールの亡霊》ってこんなに小さかったのかと驚いたりしながら迷路のような館内を徘徊すると時の経つのも忘れる。
脇にひっついているダリ宝飾美術館の入場券ももらったので贅沢な宝石オブジェも観てきた。できることならカダケスの「ダリの家美術館」や、ジローナの「プボル城ガラの家」にも行きたかったが、行き方も面倒くさいので日帰りではフィゲラスだけで精いっぱい。しかたないので3館分の図録だけ買って来た。
次の日、サグラダファミリアに潜入、ステンドグラスが日光に輝く美しい聖堂に工事中の重機が轟音を上げる。エレバーターで上に行き、狭苦しい回廊を下りながら内外の景色を眺める。ロープで体を結んでアクロバティックによじ登っている工夫がいたりする。あと10年くらいで完成だそうだが、なんかもう一生工事中というイメージがついてしまっている。
サグラダファミリアからサンパウ病院へ歩いて行ったらこっちも工事中だった。外から眺めながらグエル公園まで歩いて行ったら迷った。迷った末にたどり着いた見晴らしの良い公園、なんと先月から有料になったらしい。なんてこった。無料エリアが有料エリアを取り囲んでいる。イグアナみたいなトカゲみたいなオブジェが有名なので、あんなのがたくさんあるのかと思っていたら1匹しかいなかった。
バルセロナ・ダリ美術館はホテルから割と近かったので適当に歩いて行ったらやっぱり迷った。この辺りは昔ながらのゴシック地区で、道が好き勝手に入り組んでいて方向感覚が狂う。おまけに美術館の入り口が地味なので通り過ぎた。ダリの版画作品を中心に、絵皿やらコインやら当時の写真やら、ぐにゃぐにゃした彫刻作品などが展示していある小ぶりなギャラリー的な美術館。非常に空いていて、日頃は流行っているのかどうなのか怪しいものだが、かといって通り過ぎるわけにもいかないダリファンには見逃せないサイト。赤い唇型の固いソファもいくつかあって、ボコっと穴が開いて壊れていた。
ホテル近くのサン・ジュセップ市場(サン・ホセ市場)にはいろいろな食品を売る店が軒を連ねて賑わっている。生肉を買ってもしょうがないので、3ユーロでピザの切り身を食べた。フルーツのカップは1.5ユーロで、割と安く果物盛り合わせを楽しめる。
海岸沿いの丘の上に建つモンジュイック城は地中海が見下ろせる。あちこちに海に向けた砲台が備え付けてあって軍事要塞だった当時が偲ばれる。今は軍事博物館になっている。地中海は広すぎて、向こう岸は見えない。
丘の途中にあるミロ美術館は、地中海っぽさを感じさせる白亜の建物、大概の美術館は写真撮影OKだったが、この美術館だけは写真撮影NGだった。見た事のあるっぽいミロの作品や、見た事のないっぽいミロの作品が陳列されているが、見た事のあるっぽいミロの作品でも、ホントに見た事のあるヤツと同じものかどうかはいまいち曖昧。ミロの作品は他にもミロ公園やリセウ駅前で見た。
不思議な形のモンジュイックタワー、サンティアゴ・カラトラバ設計の地球ゴマみたいな、いんちきやじろべえみたいな形の136mの電波塔。割とかっちょええじゃん。
巨大でデラックス感満点のカタルーニャ美術館、1929年の万博のために造られたようで100年も経ってないのが逆に驚き。展示品も多数あり、ひとつひとつじっくり見ていたら1日でも足りない。宗教関連の作品が多い。中央がイベントスペースみたいになっていて、大勢の人たちがダンスをしていた。美術館には裏側から近づいて、大きいと思っていたのに正面に回ってさらにびっくり。大きな滝のように水が流れ落ちていた。そこから遥かなエスパーニャ駅の方まで延々と続く噴水やら参道やらの大仰さにちょっと笑った。
ミース・ファン・デル・ローエ記念館は、その噴水広場の脇にこっそりと建つ小さな建物。万博のドイツ館だったものを再現したという、建築ファンには見逃せない逸品なのだろうが、あまりにも小さいので入場料5ユーロって高すぎな気分。
スペイン語は学校で習ってなかったので、本を買って少し覚えて行ったのだが、そうそう上手くは使えない。スペイン語で話しかけてペラペラと早口で返されたらますますわけわからなくなるので、観光客づらをして「エクスキューズミー」と英語で始めれば、相手も察して英語で答えてくれる。最後に「グラシャス(ありがとう)」と言うと「デナーダ(どういたしまして)」と返ってくる。外国人が日本人に「アリガットゴザマス」と言うようなあれだ。観光エリアならこれでなんとかなる。この地域はカタルーニャ語が主流だというが、スペイン語もあやふやな日本人にとって、早口でまくしたてている現地人の会話がスペイン語かカタルーニャ語かの区別などつくわけもない。
それでも道を聞いたり値段を聞いたり切符を買ったりという身振り手振りを交えての単純なスペイン語なら使えた。地図を見せながら「ドンデエスタモス(ここはどこ)」と聞くと地図や方角を指さしながら教えてくれる。美術館の入り口などで「プエドサカールフォトスアキ(ここで写真撮ってもいいか)」、撮ってはマズい場所で撮って怒られるのも嫌なので入るたびに聞いた。するとミロ美術館以外では大抵「シンフラッシュ(フラッシュ使わなければいいよ)」と返ってきた。ちなみに写真は900枚以上撮ってあった。
この時期の気温は日本と似たり寄ったりで、朝晩はやや冷え込むが昼間の日差しの中は散歩にちょうどよい。今は雨の多い季節だと聞いていたので、生活防水の靴を履いて行ったのだが、ラッキーにも一粒の雨も見ること無く帰国できた。オフシーズンのウィークデイなので激混みサイトも無く、電車も空いていて楽だった。