真空管フォノイコライザープリアンプの自作で、"音質向上のために誘電正接 (tanδ)の小さいコンデンサーの採用"を記載したが、「誘電正接」をWEBで検索すると、ほとんどの説明がどうもおかしい。
ウィキペディアで誘電正接 (tanδ)が説明されているが、その内容がおかしいので影響が広範囲に及んでいるようだ。
ウィキペディアの誘電正接の説明を見ると、コンデンサーの等価回路として、容量成分Cに抵抗成分Rpが並列に接続されている。
これだと、コンデンサーを電位差のあるところに接続すると、電流が流れてしまう。コンデンサーの機能としては欠陥品で、あってはならない事だ。
また、誘電正接tanδの式(Ir/Ic= 1/ωCR= tanδ)もおかしい。
そこで、誘電正接を正しく理解したいと思う。
コンデンサーは固有の損失値(抵抗成分R)を含有し、コンデンサーの等価回路は、以下の容量成分Cと抵抗成分Rとの直列回路となる。
(実際にはインダクタンス成分Lも含んでいるが、本編には不要なので省きます。)
伝達関数で表現すると、
1/jωC+R
コンデンサーの誘電正接(tanδ)の定義は、抵抗成分値Rを容量成分のインピーダンス(リアクタンス)値 1/ωC で除した(割った)式となる。
誘導正接(tanδ)= 抵抗値/容量成分のインピーダンス値= R/( 1/ωC)= ωCR= 2πfCR
抵抗成分値Rが小さいほど、誘電正接(tanδ)値つまり角度δが減り、コンデンサーとして理想の進み位相90度の角度に近づく。
例として、真空管フォノイコライザープリアンプのカソードに用いた、PSGシリーズ 導電性高分子アルミ固体電解コンデンサ-16V/470μFの誘電正接(tanδ)を求めてみる。
日本ケミコンのPSGシリーズ 導電性高分子アルミ固体電解コンデンサ-PDF: https://www.chemi-con.co.jp/catalog/pdf/al-j/al-sepa-j/002-cp/al-psg-j-2020.pdf
コンデンサーの等価抵抗が、16mΩとなっており、周波数f=120Hzで
tanδ= 2πx120Hzx470μFx16mΩ=0.0057
普通の電解コンデンサーの等価抵抗は80mΩ程度で、tanδは0.028ぐらいだから、電解コンデンサーとフィルムコンデンサーの中間の特性値だ。
Rp=1/ωCtanδである.ただし,直列モデルが正しくないかと言うと,等価変換できる.このとき,Rはコンデンサ特有の固定値を持つのではなく,固有の値tanδにより,
R=tanδ/ωCというこれまた周波数に反比例した値となる.これは,アルミ電解Cの低周波時のESRを説明している.高周波では電解液の抵抗値が支配的になりおおよそ一定になる.つまり,RpもRも損失を表す周波数とCに依存する等価抵抗にすぎない.ではなぜ,Rpで説明することが多いのかと言うと,tanδの物理的原因である誘電緩和を説明するときにRpならば複素誘電率の虚数成分しか含まず,実数成分はCにだけ含まれて都合が良いからである.
結論としては,回路的にはどちらも正しく,抵抗値が一定値と思い込むのが誤り.また,ESRのときもCにより直流電流が流れないだけではなく,ESRも無限つまり直流的にオープンであると見なせることに注意してほしい.