19日木曜日、休み2日目。
朝起きて今日の予定を確認する。
甥っ子達が遊びに来てからというもの、我が家の子供達の目覚めが早い。とても良いことなので続けて欲しいのだが、彼らが帰ったら元のリズムに戻ることになるだろう。
と言う私も、休みなのでのんびりとプチ寝坊を楽しんでいる。
大変なのは妻のほうで、子供5人分の献立をどうしようか悩んでいるようだ。
我が家の朝食はご飯なのだが、甥っ子達はご飯とパンを日替わりで楽しんでいるらしい。
とにかく朝から妻は「夕飯何にしよう」と悩んでいるが、今日迎えに来ることを思い出し、ほっとしている。
午前8時過ぎ「これから行きます」と電話を入れ、知人宅に向かう。
仕事の件で色々と相談して、友達関係にも情報を聞いたほうが良いと言われ、コネクションの大切さを再認識する。とにかく腰を早く直した方が良いと言われ、これからでも掛かり付けの接骨院に行くことを勧められる。
午前9時20分帰宅、役場に勤めている友人にメールを入れてみようと思う。2階に上がり意味もなくパソコンのスイッチをつける。どうも悩み事があると無意識にパソコンの前に座っているようだ。携帯を取り出したが、仕事に迷惑が掛からないように昼休みにメールを入れようと机の上に置く。
電話で確認してからでも遅くはないと、役場に電話を入れて確認する。
「今、就職相談窓口ってあるんでしょうか?」
「以前はあったのですが、今はハローワークさんのほうにお願いしています」
「分かりました」と電話を切る。
次は接骨院だ。診察券を見てみると木曜は休診日。
「参ったね~」と頭を掻く。
「さぁ~て、お次は何をするか・・・・。コーヒーで一息入れよう」と階段を下りて台所に行く。
コーヒー片手にパソコンの前に。
「動くのは今日しかない・・・」と出掛けようと階段を降りて茶の間に車の鍵を取りに行く。
玄関先に車の止まる音に窓の外を窺う。親戚が来たのだ。この時期は「お盆礼」と言ってお中元を持って家を訪ね歩く。
なんだかんだと世間話をし、最後に子供達にお小遣いを渡して帰って行った。ホクホクなのは子供達だけ。
在り合わせのもので昼食を済ます。家にいるのは娘と甥っ子達「パンでも好きな物食べなさい」と朝食の残りのチキンナゲットとナス漬けを娘に準備させる。母から小言を言われるが気にしていられない。2階に戻り、冷め切ったコーヒーを一口、パソコンの電源を切る。
「今から行けば、1時過ぎにはハローワークに着く」と車に乗り込む。
相変わらずエアコンが効いて涼しいが、私一人と職員3名の室内。求人端末機の画面をスティックでタッチする。臨時、パートから徹底的に求人情報を回覧する。フルタイムの264ページの求人を見終わったのは午後2時40分だった。
5枚の求人票を持ち、窓口に行く。
「この求人が気になったのですが、何人ぐらい応募していますか?」
「お名前は?。以前、ハローワークを利用された事はありますか?」
「はい」
「ちょっとお待ちください」とすぐ後ろに置いてあるパソコンからデーターをプリントアウトする職員。
「今勤めている会社はどうかしましたか?」
「なかなか仕事が覚えられず、ちょっと悩んでいたところです。仕事の都合で休みになったので探して見ようと来たんですが・・・」
私のデーターを見て、幾つかの質問をする職員。
一番気になっていた事を切り出す。
「在職中での求人応募の場合、求人先での反応はどうなんでしょうか?」
「この場合、書類選考ではないので大丈夫です。問題は面接での受け答えですね。会社には何て言ってあるのですか?」
「お盆開けに、『辞めさせて頂きたい』と言う話はしました」と答えると、窓口のパソコンを操作する職員。
「現在、5名の方が応募されて2名が決まっています」
「えっ!・・・。でも、1名の求人ですよね・・・」
「・・・・。担当者に聞いてみますか?」
「お願いします」と言うなり、受話器を取ってプッシュホンの数字を押す。
「求人の件でお電話したのですが、2名内定されているようですが、まだ求人は受け付けていいますか」
「49歳の男性の方が応募を希望されていますが・・・・」
「はい。面接は明日の午前11時30分に」と言ったところで、受話器の下側を右手で覆い「行けるか?」と小さな声で尋ねる。
「うん。うん」と無言で大きく頷く私。
「大丈夫です。では、明日よろしくおねがいします」と電話を切った。
その後、履歴書書き方の注意事項を聞いて「在職中のところはどう答えたら良いのでしょうか?」とアドヴァイスを求める。
「写真は前の写真でも大丈夫か?」
「何ヶ月前?有効期間は6ヶ月以内だ」
渡されたコピーには“最近三ヶ月以内に写した証明写真”と書いてある。
「どう考えても8ヶ月前じゃお話にならないか」と心の中で呟く。
「ありがとうございました」とハローワークを出たのが午後3時。
「これからが本番だ」と帰宅して、改めて写真を確認する。
「う~ん・・・。どうしようか?最近、会う度に痩せたね~と言われてるしな~。写真代ケチって落ちたなんて洒落にならない」と写真屋に電話を入れる。
「証明写真をお願いしたいんですが、何時まで行けば大丈夫ですか?」
「夜7時までなら大丈夫です」
「床屋に行ってからなので、6時30分ぐらいかと思うのですが・・・・」
「お待ちしています」
次は床屋の予約。時間は午後3時40分。平日だから混んでいないだろうと高をくくっていたら「今からだと5時か6時なら空いている」との事。
「えっ!混んでるのかよ・・・・。予想外だ」と舌打ちしたかったが「5時でお願いします」と電話を切る。
その間に履歴書でも書いておこうと外出する。忘れてはいけないと背広の上着と白のワイシャツ、ネクタイを車に放り込む。「書き慣れた?A4サイズ」が見つからず、3軒目のホームセンターでようやく見つける。
「ヤバイ! 床屋に行く時間だ」
時間は待ってはくれない。宝くじ売り場を横目で見ながら、タメイキ交じりで車に乗り込む。
「今日は木曜、ロト6の日・・・。数字なんてまったく浮かばない・・・」
床屋では案の定「今日はどうしたの?」と聞かれる。
自分では、髪は切らなくても大丈夫だと思っていたので、床屋も気になったのだろう。
「見合い写真を撮るから、毛先だけ切って整える感じでお願いします」
「見合い写真?」と目を丸くされたが「写真を撮る」と言うと理解してくれたみたいだ。
予定通り午後6時過ぎに散髪終了。「お気をつけて」と声を聞きながら車に乗り、写真屋に向かう。
半袖Tシャツにハーフパンツのラフなスタイルに、背広とワイシャツ、ネクタイを抱えた私を見て、一瞬たじろいだ女性店員。
「・・・・。上だけですもんね・・・」と自分に言い聞かせるように「着替えはこちらを使って下さい」と気を取り直して案内する。
「いくら、上半身でもこれじゃピエロだな・・・」とにやけた顔で、ネクタイを締める自分を鏡に写す。
「仕上がりが明日の午前中になります」
「面接が11時30分からなんだ。早く出来ないかな~・・・」
「それでは、午前10時の仕上がりと言う事で」
家に帰ってきたのは午後7時20分だった。
残された日数はあと3日。