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セイネンキレジェンド27話

2024-12-18 06:22:12 | 小説セイネンキレジェンド


相手は直也の身体がよろけた瞬間にロープからのカウンターを狙ってきたが直也は相手にクリンチで逃げクリンチ後1ラウンドのゴングで直也は助かった。直也は自分のコーナーへ戻らず朦朧としていた。相手のフックをまともに受けたせいか自分のコーナーを一時見失ったふりをしていた。
「直也ー!こっちだー!」
コーナーサイドからのコーチ達の声で息を荒くしながらフラフラしてコーナーへと戻った。しかしこれは直也の心理戦でもあった。相手に体力の低下があると思わせる為だった。
「直也、大丈夫か?左腕が下がってるぞ」
「すみません・・・」「左腕は、きついか?痛みは?」
「腕は下げてみたんです何かを見つけないと勝てない」
「左腕は大丈夫なんだな」
「はい問題ないです、ただ相手のパンチ力は凄いです」
コーチと直也の会話を聞きながら会話が終わるとプロテスト前の康志は囁いた。
「直也、お前何か、見つけたか?心理戦」
「心理戦は何となくですけど、どうしたらいいのか解らないです」
「なら当たりに行き当たった瞬間後ろに下がる事が出来るか?」
「え?当たりに行くんですか?」
直也はボディを受けた時の事を考えていた。相手のパンチが顔面を打って来た時もボディの時と同じように当たりながら後ろに下がる事が出来れば相手のパンチ力を軽く出来ると直也は思った。2ラウンド目には直也は実行に移す事を考える。
「フェイントで隙を作り当たりに行くか?」と直也は考えた時に直也は深呼吸をした時だった。
「カーン!」2ラウンド目のゴングが鳴った。



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セイネンキレジェンド26話

2024-12-09 06:29:59 | 小説セイネンキレジェンド


直也と前回優勝者の相手が会場へ入ると観客席から拍手が湧いた。直也は周囲の観客達を見つめると何故かファイトが沸いて来た。左腕の痛みは観客達の声援と拍手によって少しは和らぎ消え去っていく。
「なんなんだ、これってなんなんだ」
直也は声援によって不安もプレッシャーも軽くなるという事は初めてだった。思春期の直也は何故なのか気付く事も知らなかった。思いもよらぬ感情に捉われていた感情が消えていく事が信じられない。試合開始まで5分で椅子に座り何度も深呼吸をする直也だった。その直也の肩や首をマッサージするコーチがいた。優子は強く強くドリームキャッチャーを握りしめ直也の勝利を祈っていた。
「久美ちゃん直也に力を与えてね」と優子は祈っていた。
直也は軽く体を動かしながらリングの上の椅子に座った。プロテスト前の康志は直也の耳元で同じ事を囁く。
「引き際のタイミングで相手のパンチ力を弱くしろ」
直也は康志の声に頷きながら時計を見るとあと1分後に直也の口の中にマウスピースがはめられた。
そして、あと15秒後「両者、リングの中央に」
審判からの言葉によりリング中央に歩き出す2人の選手。直也と相手の選手は見つめ合い首を縦に振り挨拶を交わす。
4回戦目「カーン!」ゴングが鳴った。
ゴングと共に両者ともに軽いフットワークで距離を測りはじめた。そして直也の左腕を気にしながら相手の選手はジャプを打ち始める。そのジャブは軽いもので相手の選手は何かしらの策を講じていると直也は思い相手の策略にのってみようとする。右利き同士の対戦だが直也は左利きサウスポーでコーナーからは動け動き回れの指示があり直也は指示を無視し相手に向かっていく。右利きだと思わせる康志に言われたように直也の心理戦が始まった。
「直也は馬鹿か、それとも変人か?」
それもそのはずハンディのある直也はフットワークで相手を追い詰めている。追い詰められる相手は嫌な顔も見せず左ジャブで距離を計る。
「来いよ!来い、来いよ!」と優勝経験のある相手は余裕で直也に声を掛ける。
1ラウンド2分を過ぎた時に相手の右ボデーを直也は左腕で受けた。相手の右ボディーの連打があっても直也は左腕でカバーをする。
「やばいか、まずいぞ!、直也ー!離れろ!」とコーナーサイドでは叫びボディの軽い瞬間に直也は左腕で受けながら左右に動いていた。
「軽い軽いぞ、パンチが軽い、このタイミングか」
直也は一瞬の瞬発力で相手のパンチ力を弱める事を知った。相手の選手は1ラウンドでダウンを奪おうと考えていたがダウンを奪う事が出来ない事で相手選手の胸の内に直也は何かを植え付けていた。
「次は顔面か?それとも、ボディか?」
直也は左腕に軽いパンチを受けて続けていたが左腕を下げ次のパンチはどんなものかを試す。直也が左腕を下げると相手は右フックを直也の頬に打って来た。まともに受けてしまった直也は、よろけるがロープに助けられダウンと観られる事はなかった。一瞬の隙で相手の右フックの強さを感じる直也であった。
「まともに受けるのは、まずいな」
直也はロープに助けられた時で相手のパンチ力の強さを知った。
「どうする?どうする?俺」
「カーン!」1ラウンドの鐘が鳴る。



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セイネンキレジェンド25話

2024-11-27 07:03:31 | 小説セイネンキレジェンド


直也の中には友の死によって抱いてはならないものがあった。怒りと憎しみながら憎しみが憎悪となる事が直也は怖かった。思春期の直也は自分の心と向き合う事も怖かった。捉われた感情から逃れたい逃れたいといつも思っていた。仲間がいても直也の抱いた思いは、仲間達には判らない。ただ漠然と感じるだけの仲間達、それだけに直也は孤独だった。ボクシングを学ぶ事で直也は知った事があった。スパーリングで倒され意識を失った時の涙が直也のありのままの心だったのだ。涙を流す事で負けを認めると直也の持つ感情を大きくしてしまう。直也は決して負ける事を認めるわけにはいかなかった。そして強い自分をいつも寄り添ってくれた優子に見せたかった。優子が直也に対する思いは伝わっていたものの久美子の死が優子への思いを打ち消してしまうのだ。優子は直也の本当の心を知っていた。直也と優子の関係は幼なじみであり優子の片思いだったのかもしれない。優子は久美子に渡された久美子が作っていた大切なアクセサリーを直也がリング上で戦っている時にドリームキャッチャーを握りしめていた。直也はリング上で戦い優子はリング下で自分の気持ちと戦っていたのだ。優子の直也への思いは12年もの間、何も変わってはいなかった。
「時間だ、そろそろ行くぞ直也」「絶対に勝つって約束してよ直也」
「え?おまえ・・・」
優子の思いは直也を思うだけでなく勝利への導きであった。優子の思いを受け入れる事の出来ない直也にとって、この試合だけは優子の希望通り勝利しかないと思う直也だった。控え室を出て廊下を歩きながら直也は自分が出来る事を考える。これまでの3回戦で何を学んできたのか?
直也には試合で学んだ事を生かせる事が出来れば必ず勝てる自身があったが、それは後々の直也に襲い掛かるものでもあった。直也は1回戦目からをさかのぼって考えた事がある。それはパンチを繰り出す時のバランスとパンチ後の引き際である。このタイミングを逃すと相手の策略にはまる。4回戦の相手は前回プロ並みの選手であった。そして優勝を勝ち取った選手だった。直也と相手の選手の身長差や腕のリーチ幅に大差はなく試合を見る限りパンチ力は直也以上とみられる。ただ違いと言えば足の5センチほどの長さだ。この差が直也のフットワークに活からされば相手のパンチ力へのリスクを有利に変える事が出来るとリングサイドでは考えていた。直也は引き際のタイミングだけで勝負を挑む事を考える。しかし直也の左腕が耐えられるかどうか。
「あのフットワーク、どう引いたらいいのか?」
直也が引き際の事を考えているとプロテスト前の康志は直也に何かを察知したのだろう。
「直也、引き際の時パンチを受けながら弾く事が出来るか?」
「先輩、どういうことですか?」
「相手のパンチを受けている事が相手にとって不安材料になる」
「不安材料ですか?」
「相手はパンチが当たってると思い始めるはずだが相手はパンチ力に自信を持っているんだ逆手にとれ」
直也は彼の言葉を信じてみようと思った。しかしどうしたらそんな事が出来るのか?直也はボクシングを始めて約4カ月の素人と一緒だ。
「試合の中で何を学ぶしかないか?」
直也は不安とプレッシャーの中でも試合会場へと向かった。



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セイネンキレジェンド24話

2024-11-16 07:10:53 | 小説セイネンキレジェンド


直也の3回戦目の勝利で手が挙げられた時に直也の瞳には涙が浮かぶ。リングサイドに向かう直也は朦朧としながら歩いていた。「おれ限界かな」と弱気になる直也だった。しばくして痛みからの苦しみは直也にとって初めての事だった。こんな思いに駆られながらリング下に降りる。4回戦目の決勝戦までは休憩は10分だけだったが審判員達は何かを話し合い主催者側と協議を行っていた。 直也がリング下の椅子に座った時だった。
「4回戦、優勝決定戦は、30分後に行います」
「どういうことだ?」と誰もが思った。
優勝決定戦には審判員達の協議の結果で充分ではないが30分の休息になった。これまでにない試合が行われ直也をドクターに診てもらう事だった。審判員は直也が試合を続けられるか気にかけていたのだ。直也達は控室に行きドクターの診察を受けるとドクターストップと言う事になるがコーチと康志は納得できなかった。そしてジムの会長に優子は直也の思いを伝えていた。
「君は、何故あそこまでやるのか?」
「先生、俺は勝たなきゃならないんです」
「なぜ? 教えてもらえないか?」
「相手に勝つ為だけにボクシングはしてないんです」
直也はドクターと話をしながら診察を受けた。ドクターが言うには3ラウンドは無理だと会長に話したが会長は反論する。
「先生、私は直也の問題と考え試合に出場させたんですよ」
「もしもの事があったら誰が責任をとるの?」
「私が責任を取りボクシングジムを閉鎖します保証も」
「会長!」「なあ直也お前の気持ち充分感じたぞ、やれるか?」
「はい、できます」
ドクターは、しばらく考え直也の左腕にテーピングを巻いた。そして条件が付けられた。もしも左腕が下がりガードも出来ない状況になった時にはタオルを投げるようドクターは指示を出した。その指示に会長達は従うという事で試合続行が認められた。 直也は筋肉質の身体だが誰が見ても左腕の腫れはわかる。相手の選手は必ず直也の左腕を見ながら戦うだろう。もうどんなに策をこうじても左腕が動かなくなれば勝利はない。
「俺は必ず勝ちます、どんな事をしても勝ちたい!」
「何故、そこまでして勝つ事に拘る?」
「この試合の勝利は俺自身の勝利なんです」
「自分自身に勝ちたいという意味か?」



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セイネンキレジェンド23話

2024-11-06 06:41:49 | 小説セイネンキレジェンド


両者ともに必死な戦いが始まり負け劣らずパンチを出し合う。
ジャブ、ジャブ、ジャブ、フック、ボディー! 下がれ下がれ右だ
ジャブ、ジャブ、ジャブ、フック、ボディー!
左に回れ左に回れジャブ、ジャブ、ジャブ、フック、ボディーだ!
まるでリズムを打つメトロノームになっているかのようだった。繰り返されるパンチの連打が10秒が過ぎた頃に直也の右ボディが炸裂した。相手は一瞬あっけになったようで嫌な顔をし後ろに下がり足を動かし直也から離れる。これが直也の心理戦が効果を出した。何故ならいきなりサウスポーの左利きになったからだ。
「直也のボディが確実に効いたぞ!よし!」
「直也ー!ボディボディボディー!」
直也のリングコーナーから大きな声が聞こえる。観客達は皆立ち上がりリング上の2人の選手を見つめていた。声援は一瞬だけ消え去り、しばらくすると大きな声援が始まる。この繰り返しだ。 優勝候補の相手を追い詰めていく直也の行動に観客達は戸惑いながら。直也はどこまでも相手を追い詰めていく。
「チャンス到来か?」直也の脳裏に言葉がよぎった。
「いける、いける、いける!いけるぞ!」とリングサイドでは言っていたが直也は無心で戦っていた。直也が近づくと相手はすぐにクリンチをするようになる。そして相手のクリンチが多くなっていく。直也はクリンチをする相手を冷静によく見ていた。相手のクリンチの瞬間を直也は見逃す事はなかった。徐々にクリンチをして来る間隔があいて来る。 直也は相手を追い詰めていく更にどこまでも。このクリンチはムエタイではクリンチ状態から頭や首を制して肘打ちや膝蹴りを放つ技術であるがボクシングでは相手に抱きつき動きを止める事である。相手がクリンチする瞬間に直也のボディが炸裂する。相手はボディを打たれても必死にクリンチで逃れようとする。直也はクリンチされる時には相手の息づかいを聞き3ラウンド2分が経過した後だった。
直也は相手に対しクリンチさせず、ボディボディボディ!の連打が続いていく。
「ボディボディボディ!ボディボディボディ!」
リングサイドからもボディボディボディ!の声ばかりが聞こえる。
ボディボディボディ!の声援で直也は相手の右アッパーのように必死にボディ。直也のボディが炸裂すると相手の選手は無防備状態になりボディボディボディ!の連打によって相手の選手はリング床に膝まついた。
ダウン・ダウン・ダウン・ダウン・ダウンだ!ダウンを奪いカウントダウンだ!
「ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス・・・」
優勝候補者の相手の選手は首を振りマウスピースを吐き出し立ち上がる事が出来ず相手のリングコーナーからタオルが投げられた。この最終戦前の3回戦3ラウンド2分で激戦の末で審判から直也の手が挙げられた。


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