直也の3回戦目の勝利で手が挙げられた時に直也の瞳には涙が浮かぶ。リングサイドに向かう直也は朦朧としながら歩いていた。「おれ限界かな」と弱気になる直也だった。しばくして痛みからの苦しみは直也にとって初めての事だった。こんな思いに駆られながらリング下に降りる。4回戦目の決勝戦までは休憩は10分だけだったが審判員達は何かを話し合い主催者側と協議を行っていた。 直也がリング下の椅子に座った時だった。
「4回戦、優勝決定戦は、30分後に行います」
「どういうことだ?」と誰もが思った。
優勝決定戦には審判員達の協議の結果で充分ではないが30分の休息になった。これまでにない試合が行われ直也をドクターに診てもらう事だった。審判員は直也が試合を続けられるか気にかけていたのだ。直也達は控室に行きドクターの診察を受けるとドクターストップと言う事になるがコーチと康志は納得できなかった。そしてジムの会長に優子は直也の思いを伝えていた。
「君は、何故あそこまでやるのか?」
「先生、俺は勝たなきゃならないんです」
「なぜ? 教えてもらえないか?」
「相手に勝つ為だけにボクシングはしてないんです」
直也はドクターと話をしながら診察を受けた。ドクターが言うには3ラウンドは無理だと会長に話したが会長は反論する。
「先生、私は直也の問題と考え試合に出場させたんですよ」
「もしもの事があったら誰が責任をとるの?」
「私が責任を取りボクシングジムを閉鎖します保証も」
「会長!」「なあ直也お前の気持ち充分感じたぞ、やれるか?」
「はい、できます」
ドクターは、しばらく考え直也の左腕にテーピングを巻いた。そして条件が付けられた。もしも左腕が下がりガードも出来ない状況になった時にはタオルを投げるようドクターは指示を出した。その指示に会長達は従うという事で試合続行が認められた。 直也は筋肉質の身体だが誰が見ても左腕の腫れはわかる。相手の選手は必ず直也の左腕を見ながら戦うだろう。もうどんなに策をこうじても左腕が動かなくなれば勝利はない。
「俺は必ず勝ちます、どんな事をしても勝ちたい!」
「何故、そこまでして勝つ事に拘る?」
「この試合の勝利は俺自身の勝利なんです」
「自分自身に勝ちたいという意味か?」