「傾国のラヴァーズ」

ボディーガードの翔真は訳有の美青年社長・聖名(せな)の警護をすることに…(閲覧者様の性別不問) 更新情報はX🐦にて

小説「傾国のラヴァーズ」その30・聖名ちゃんとワイン?

2023-04-14 21:46:50 | 傾国のラヴァーズその21~30
「困った電話の時は、スピーカーにするから、近くで相手に聞こえるように何か話してほしい。オレのこの問題を知っているかよわい女性じゃなくて男性が、常にオレのそばにいることをさりげなくアピールできると思うから」
「わかりました」
 そこまで一気に語ると彼は少し安心したようで、
「他にもいろいろ出てくると思うけど、その都度相談するよ」

 その日の彼は一日中 社内でおとなしくしていた。
 財務会計に関する本や社内の財務資料をゆっくりと読み込んでいるようだった。

 実は俺の方は 高橋さんからメールで、ではあったがきつく、彼から目を離すなと言われていた。

 それで、ということらしく、お昼は 高橋さんが近所の弁当屋さんで3人分 唐揚げ弁当を買ってきてくれた。
 よっぽど彼を外に出したくなかったのだろう。


 しかしその日は社長室は早めに上がった。
 車の中で彼はようやく笑顔で、

「ねえ今日ワイン飲まない?」

 彼はいつも助手席に乗ってくる。



小説「傾国のラヴァーズ」その29・微妙なセンパイ

2023-04-10 22:15:00 | 傾国のラヴァーズその21~30
 彼は視線を落としたまま、
「冷蔵庫からイチゴのヨーグルト2つ出してもらえる?」
 トーストなんかと色々並べて、2人で朝食の食卓に向かった。

「いただきまーす」
 2人で手を合わせて、まず俺はコーヒーを一口飲んだ。
 天気も良さそうで、気はつかうが、なかなか幸せな気分だった。
「センパイ、勝手にパンにしちゃったけどよかったかなあ? 苦手なものとか、昨日のうちに訊いておけばよかったね。ごめん」

 まだ俺の目を見てくれないなあ…

「いや、特に好き嫌いもないし、朝食はパンの方が好きなんで、助かります」
 するとようやく、彼はいたずらっ子のように笑いながら俺を見つめて、
「センパイ~敬語も禁止にしようよ~。どうせ会社でいっぱい使えるんだし」
「そ、そうだな」

 俺のうろたえぶりにようやく彼は俺の目を見て笑ってくれた。

 本当は昨日の顛末を尋ねるべきなのだろうが、それは今日帰ってからゆっくり尋ねることにした。


 車に乗ってから、
「社長、家の中で、警護にさらに気をつけた方がいいことはありますか」
と、訊いてみた。すると…




小説「傾国のラヴァーズ」その28・シャワーは済ませた?

2023-04-05 22:02:00 | 傾国のラヴァーズその21~30
 そして彼は、
「ごめんね、それじゃおやすみなさい」
と、自室に引き上げていった。
 風邪薬とか…と、俺はその背中に問いかけたが、彼は振り向かず、大丈夫だから、とドアを閉めた。

 俺は何だか悪いなと思いながらも、シャワーを使わせてもらうのも仕事のうち、と割り切ってバスルームに向かった。

 髪も乾かし終わり、リビングまでやってくると、部屋着姿の彼がぼーっとソファに座っていた。
「大家さん、どうしました?」
すると彼は思わず苦笑しながら、
「い、いや、センパイにおやすみなさいをきちんと言いたかったから待ってた」
 センパイか、今度は俺が笑ってしまった。彼も笑顔になって、
「じゃぁおやすみなさい」
「おやすみなさい。温かくして寝てください」


 次の朝は…いつもより1時間早く目が覚めて、鳴る前のスマホのアラームを解除することができた。
 この広いベッドでの寝心地は最高で、今日が休日だったら、どれだけよかっただろうと思ったくらいだった…が、

 カチャカチャという音が聞こえてきた。

 朝食の準備か…

 せっかく大家さんより早く起きて手伝いをしようと思ったのにこれでは何にもならない。
 俺はあわてて、部屋着のままで部屋をとび出した。
「おはようございます」
「あ、センパイ、おはようございます…」
 目をあげずに、アボカドを切っていた彼は挨拶を返してくれた。
「大家さん、何から手伝いましょうか? っていうか、ここは俺がやりますから、シャワーあびてきてくださいよ」
「いや、シャワーはゆうべ浴びちゃった。大丈夫そうになったから」
「…あ…それはよかった…」




小説「傾国のラヴァーズ」その27・ルームメイト?

2023-04-02 21:59:00 | 傾国のラヴァーズその21~30
 すると彼は、
「こっちこそとんでもない。ややこしい仕事を頼んじゃったから、せめて自分の部屋ではゆっくり休んでほしかったんだ」
「でも…」
「大丈夫だよ。でもそんなに遠慮するなら白状しちゃうけど、これ、知り合いの家具屋さんがドタキャンされて困ってたベッドなんだ。人助け、ベッド助けと思って使ってやって」
 と、彼は微笑む。
 ようやく明るい彼が戻ってきたと、俺は内心ほっとして、
「では社長、ありがたく使わせていただきます」
スーツ姿のままでよかった、と思いながら、俺はぺこりと頭を下げた。すると彼は、
「この部屋では、プライベートでは、その、社長、っていうのやめようよ」
「じゃあ何て…大家さんとか?」
彼は吹き出したが笑いをこらえて、
「鈴崎でいいよ、海原。きっとオレはジムか何かのあんたの後輩で、ルームメイトになったんだ」

 その後はざっくりと家電なんかの使い方を教えてもらった。

 キッチンとリビングも共有スペースだが、彼が部屋に籠もっている時は、部屋に来る前にLINEであらかじめ連絡してくれと言われた。
俺にもそうすると言う。
「オレ一人暮らしが長かったし、夢中になると他のことが目に入らなくなるから。ごめんね、ノックにはすぐに慣れると思うんだけど」

 そこで彼は時計を見て、
「もうこんな時間か…お風呂にでも入ってゆっくり休んで」
「いや、しゃ…大家さんから…」
「ん?」
 彼は口を尖らせると、
「いや、海原センパイどうぞ」
 そして、
「オレはちょっと…風邪っぽいから朝にする」
 確かに彼は元気がない。



小説「傾国のラヴァーズ」その26・まだ慣れぬ彼

2023-04-01 21:17:00 | 傾国のラヴァーズその21~30
 俺は冗談めかして、
「担当が僕に決まって、すみません」
「あ、ああ、そんなことは…」
笑ってはくれず、それどころか彼は挙動不審ぽかった。
 それでも、
「気に入ってもらえるかわからないけど、いちおう最低限の家具は用意したから」
「すみません。わざわざありがとうございます」

 …部屋に着いて俺はびっくりした。
 俺の部屋は例の一番広い部屋だったからだ。

 そして家具はどれも新品。
 パソコン用の机と椅子は人間工学に基づいたもののようだし、あとは本棚とかサイドテーブルとか…落ち着いたデザインだがどれも高そうだ…

 しかし何より驚いたのは、ベッドがキングサイズの立派なものだったことだ。マホガニーのヘッドボードの、これまたシンプルなデザインだがこれも高そうで恐縮してしまう。

 何と言ったらいいか俺が困っていると、彼は、
「ごめんね。急だったから、これしか揃えられなくて。足りないものが出てきたら買い足すということで…」
「いえ、僕は短期間の居候ですからこれ以上は…特にこのベッド、一番最初に使うのが僕だなんてとんでもない…」