「困った電話の時は、スピーカーにするから、近くで相手に聞こえるように何か話してほしい。オレのこの問題を知っているかよわい女性じゃなくて男性が、常にオレのそばにいることをさりげなくアピールできると思うから」
「わかりました」
そこまで一気に語ると彼は少し安心したようで、
「他にもいろいろ出てくると思うけど、その都度相談するよ」
その日の彼は一日中 社内でおとなしくしていた。
財務会計に関する本や社内の財務資料をゆっくりと読み込んでいるようだった。
実は俺の方は 高橋さんからメールで、ではあったがきつく、彼から目を離すなと言われていた。
それで、ということらしく、お昼は 高橋さんが近所の弁当屋さんで3人分 唐揚げ弁当を買ってきてくれた。
よっぽど彼を外に出したくなかったのだろう。
しかしその日は社長室は早めに上がった。
車の中で彼はようやく笑顔で、
「ねえ今日ワイン飲まない?」
彼はいつも助手席に乗ってくる。