もう俺は咎めなかった。
どうせ俺の言うことは決まっていたし 聖名の答え も想像がついていたからだ。
聖名はなかなか 浴室から出てこなかった。
そのうち洗面所からドライヤーの音が聞こえてきた。
髪が長いので彼のドライヤーの時間は長い。
仕事が多い時は 生乾きのままパソコンに向かうと、いつだったか聖名は笑いながら言っていた。
しかし今日は随分と長く感じられた。
まあ、きっとしっかり乾かしているのだろう。
ようやく 部屋着の聖名で出てくると、冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを2本出して、1本を俺の前に置いてすすめると自分も一口飲んでいた。
俺は飲む気がしなかった。
沈黙の後、聖名は諦めたように俺に尋ねてきた。
「それで話というのは? 」
「社長、さっきのように私に黙ってどこかに行かれるのは困ります。
私に不満があるというなら私に直接もしくは 会社の方に相談していただけませんか。
私と違って ベテラン の者もおりますし、上司なら適切なアドバイスができるかと思います 」
「… 」
聖名は下を向いてしまいそのまま 震える声で
「センパイに不満なんかないよ…」