思えば、彼からはひと言もきちんとした謝罪の言葉もない。軽く謝られただけだ。
俺を引き留めるのが形式上ということなのだろう。よくある話だ。
それにしても、俺はどうしてらしくもなくこんなに怒っているのだろう。クライアントにこんなことを言い出すなんて。
それだけ聖名を…想う気持ちがあったということなのだろう。
そう思い至って恥ずかしくなり…その後、気づいた。
聖名が、うちの会社との取引をやめると言い出したらどうするのか…聖名がぼうっとしている間に、後任を部長に決めてもらうしかない。
俺はもうこの部屋に泊めてもらうのは嫌だった。
でも聖名の警護がいない時間を作りたくなかった。
「すみません、会社に電話して、すぐに後任を…」
すると聖名は口元を引き結び、目から涙をこぼしながら俺に近づいてきた。
そして俺の真ん前に立ってためらうように見つめてくると、俺にしがみついてきたのだ。