俺が落ちるのも目前だったが、どうしてその時俺は他の人の存在を尋ねなかったのだろう。
ドキドキしていた俺は、疑いもしなかったということなのだろう。
聖名には芝居がかったところなんて微塵もなかった。
俺を丸め込むための演技とは思えなかった。
「聖名…」
俺が名前を呼んだことで 聖名の中の恐れは少しなくなったらしい。
その様子を見て俺はまたセナを抱きしめてしまった。
「あ、翔真…」
聖名の声は嬉しそうだった。
そして…聖名の顔が近づいてくると、俺は頬に柔らかいものを感じて びっくりした。
聖名からのキス…
俺は驚きのあまり、 聖名をまた優しく抱きしめることしかできなかった。
2人で無言のまま しばらく 抱き合っていた。
経験のない俺には、どうすることもできない。
俺が密かに困っていると、聖名はそっと 俺から体を離し、照れながら元気に、
「翔真、 着替え手伝うよ」
と俺の手を引っ張ったがすぐに顔を赤らめて目をそらし、
「今夜は翔真の 部屋に泊まってもいい? 」
「えっ? ああ…ベッド も広いし…」
言ってから俺も顔が赤らむのを感じたが、聖名も慌てて 、
「いや それが目当てであのベッドを買ったわけではないよ」
恥ずかしくて 、俺は自分の部屋に飛び込んで聖名を追い出した。