「傾国のラヴァーズ」

ボディーガードの翔真は訳有の美青年社長・聖名(せな)の警護をすることに…(閲覧者様の性別不問) 更新情報はX🐦にて

●小説「傾国のラヴァーズ」その50・聖名の部屋にて

2023-05-16 17:46:22 | 傾国のラヴァーズその41~50
「違うんだ その様子を確認しに来ただけで…」

 聖名はベッドの上ですっかり 怯えている。

「そんな、変なことしようとしたわけじゃないんだ。俺 そういうの 興味ないし 、男性にも興味ないし…」

「…」

「ごめん。 呼吸しているか、確認していただけなんだ」

「はあ?」

 一瞬 2人とも沈黙で見つめあったが、

「とにかくセンパイ、 俺の部屋で寝ないで。ちょっとここは出て」

「ごめんな。 体温は…

「自分で 測りますから!」

 俺はパニックのまま 聖名の部屋を出た。

 どうしよう… 盗難の疑いをかけられても、会社にも迷惑がかかるし…

 次に俺が気づいたのはあの端正な顔立ちの聖名に、男に襲われた体験があったらどうしようということだった。

 それで、気の強い聖名が驚く以上に怯えてたのだとしたら…

 自分が信頼を失う以上に、聖名を傷つけたかもしれないということの方が心配だった。

 どうしよう、とリビングで立ち尽くしていると 聖名 から LINE が来た。
 
 急いで読むと、

〈さっきはごめんなさい。 グラノーラが食べたいです〉

 読み終わると同時に、まだ具合の悪そうな聖名が部屋から出てきた。




★小説「傾国のラヴァーズ」その49・襲ってなんかいない

2023-05-15 13:36:00 | 傾国のラヴァーズその41~50
 起こさないように 小さく ドアをノックして部屋に入ると聖名はまだ寝ていた。
 
 しかし俺の悲しい癖で、ベッドの脇にしゃがみ込んで 聖名がきちんと呼吸をしているかを確認せずにはいられなかった。

 
 俺の親代わりの祖父は自宅で亡くなったのだが 、その第一報は、慌てふためいた祖母からの電話だった。

ーおじいちゃんが息をしていないみたいなんだよ…

 あれは高校1年の夏で、試験の最終日が終わって帰宅する途中の道すがらだった。

 携帯を、とり落としそうになった。

 あんなにショックなことはなかった。

 退院してきたばかりだったのに…

 その後のことはあまり覚えていない。

 しかしその後は亡き父の弟である叔父さんたちが全部取り仕切ってくれたので、何も問題はなかった。

 それで俺は寝ている 身内を見かけるたびにちゃんと呼吸しているのか確認せずにはいられなくなったのだ。

 もちろん 聖名はきちんと呼吸していた。

 俺はほっとして…聖名のベッド脇の床に座って…そのまま聖名の背中を見たまま…ベッドにもたれかかって…

「えーっ!」

 俺は 大声で叫ばれて、我に返ったと言うか…うとうとしていたのか俺。

 目の前の聖名は目を大きく見開き 、怯えている。
 軽蔑の色が見えて、俺は焦った。




◆小説「傾国のラヴァーズ」その48・聖名の携帯

2023-05-14 18:10:00 | 傾国のラヴァーズその41~50
 聖名にスポーツドリンクのボトルを渡してやると、ひと口ふた口飲んだ後、俺に返してきた。
「大丈夫か?」
「うん。おいしい…ありがとう…」

 そこで俺は気付いた。

「夜中に何かあったのか? 嫌がらせの電話とか…」
 夜中にこの部屋で起こったことは俺には分からない。
「それはないよ。でも明日は 商談 だから午前は休むことにする」
 そして 専務の高橋さんに電話すると言い出したが、サイドテーブルにあったはずの携帯がないと言う。

「枕の下にでもあるんじゃない? 寝る直前まで見てて床に落としたとか」
 俺 は しゃがみ込んでベッドの下を見てやりながら 何だか 悔しいとでも言うような気持ちがこみ上げてくるのを感じていた。

 聖名がベッドの中で電話やメールする相手って…

「あったあった」
 俺が拾い上げて渡すと 聖名が礼を言いつつも微妙な顔をしたのはなぜだったのだろう。
 そして聖名は高橋さんに電話を始めた。

 明日の商談のことを告げ、
「…海原くんが看病してくれてるから大丈夫。病院はもう少し様子を見てみる」

 しかし、 電話を切ってから、 高橋さんに勧められたということで、今日1日は 明日に備えて休むことにしたという。

「何か食べられそう?」

「…いやもう少し寝てる。ごめんね」

 何かあったら LINE でも電話でも呼んで と 俺は部屋を後にした。

 すぐに駆けつけられるように、 自室よりは近いリビングで待機していることにした。

 眠ってしまっては大変と、テレビで日本のニュース 動画を流しながら、メールチェックやパソコン作業をしていた
 
 …はずが 気づけば1時間ほど眠ってしまっていた。

 図太い俺も滞在での警護に疲れてしまっているということか。
 幸い聖名からの着信はなかったが…

 しかし、それにしても俺はどうして熱を測った方がいいと言わなかったのだろう…

 テレビの動画は昨夜のニュース番組になっていて、ゲストらしい、50代前半ぐらいに見えるなかなかのイケメンがスタジオでインタビューを受けていた。

 大河ドラマにでも出ていそうな 渋い いい男だが、意外と笑顔が優しい。
 しかしこの番組で取り上げられる政財界の実力者にしては まだまだ 器が小さいと言った感じに見えた。

 …聖名から何もいってこないので、俺は聖名の様子を見に行きたくなリ、テレビを消して立ち上がった。インタビューには興味はわいていなかった。





■小説「傾国のラヴァーズ」その47・聖名のタキさん?

2023-05-13 22:10:29 | 傾国のラヴァーズその41~50
 しかし、返事はない。
 仕方なく、俺はもう一回ノックをしたが、返事がない。
 やむなく、失礼します、と言ってドアを開けた。
 
 部屋に入ってみると、聖名はベッドにもぐりこんでいて、羽根布団を頭まですっぽりとかぶってもぞもぞしていた。

「聖名、 大丈夫? 具合悪いの?」

 すると 聖名は布団から顔だけ出して、

「うーん ゆうべ眠れなくて、湯冷めもしたのかな。なんか気分が悪い…」

「午後から出社とかできないの? あと 思い切って休むとか」

「そうだね…」
と、聖名は考えていたが、

「センパイ、スポーツドリンク持ってきてもらっていい? 水も飲めなくて…」

 それは大変だと、俺が冷蔵庫の奥からスポーツドリンクのボトルを持ってくると、聖名は眠っていた。
 しかし、なぜかはっきりと、
「…タキさん!…」
と寝言で叫んだのだ。

 たきさん? 悪いが俺は少し笑ってしまった。
 新規事業のために調査に行った畑で知り合ったおばあさんとか?
(なぜか俺はテレビでしか見たことのない、昭和の、もんぺ姿の地味な方を想像していた) 

 影響を受けてるのかなあ…
 そこで聖名は目をさました。





●小説「傾国のラヴァーズ」その46・聖名が起きてこない

2023-05-11 21:33:00 | 傾国のラヴァーズその41~50
 電話が終わると聖名はコーヒーを入れてくれて、
「ごめん。でも助かった。ありがとう」
「いや、 こちらこそごめん。矢野さんっていうと、聖名の味方か 会長の味方かわからなくなっちゃって」
 そっかごめんねと言って聖名は 育ての母であるおばさんのことを再度説明してくれた。
「おばさんは 単に非通知設定を解除するのを忘れてたみたい。センパイに住んでもらうのはおじさんにしか話していなかったから…」
 
 そこまで言うと 聖名は何か言葉を選びながら、
「センパイ、大丈夫? 湯冷めとかしてない?」
 なーんだ、それであんなに必死でジェスチャーを送っていたのか…
 俺はクスッと笑ってしまった
「なんだよ、俺はすごく心配してたのに。こっちが余計な心配させたから」
「あーごめんごめん。ジェスチャーを送ってくれる聖名がすごく可愛かったから…」

 可愛いはさすがにまずかったかなと思ったが 聖名はぷい、と横を向いただけだった


 しかし、次の朝はすごく困った。
 聖名が起きてこない。LINEを送っても既読もつかない。
 俺は心配になって 聖名の部屋のドアをノックした。