「傾国のラヴァーズ」

ボディーガードの翔真は訳有の美青年社長・聖名(せな)の警護をすることに…(閲覧者様の性別不問) 更新情報はX🐦にて

●小説「傾国のラヴァーズ」その66・聖名ではなく…

2023-09-10 23:24:00 | 傾国のラヴァーズその61~70
 家に着いても、俺はス一ツのままでいた。
 聖名、ではなく、鈴崎社長にしっかり話をしたいと思ったからだ。
 
 聖名のスマホの電源は入らない。

 結局、言っていた通り、二時間ほどして聖名は帰ってきた。

「ただいまー…」

 玄関のドアが開き、聖名の声がした。

 意外にも聖名はしらふだった。

「ごめんね。断れなくて…あれ? 着替えないの? 」

 声は軽かったが、聖名は顔色が悪かった。
 
 しかし、俺は立ち上がり、
「鈴崎社長、お話しがあります」
 すると聖名は驚いたように、
「ちょっとごめんね。シャワー浴びてから聞かせて 」
 何とも軽い言い方に、俺はますます怒りを覚えてしまった。

 
 ふっ、と聖名のものではないような香りがした。


 それにも俺はどうしてか怒りを覚え、固まった一瞬の隙に、聖名は着替えに自分の部屋に向かってしまい、更には俺の方を見ず、さっさと浴室に向かってしまった。
 



★小説「傾国のラヴァーズ」その65・好きにすればいい

2023-09-08 23:13:35 | 傾国のラヴァーズその61~70
 さっきのFAXは、敵対している人間からの怪文書と、聖名にはわかっていたのだろう。

(でも、そんな状況なのに、こうやってボディーガードを振り切って出ていくなんて…俺は敵の目くらましにしか過ぎなかったのか…)

 しかし、聖名の、FAXの件の時の必死さは嘘ではなかったと思うのだ。

 (せめてこういう予定だとあらかじめ…)

 いや、言えないからこうなったのだろう。

 もう、好きにすればいい。

 そんな気持ちになった。

 もう、ボディーガードとしてではなく、友だちとしてというか、「センパイ」として怒っていたのだと思う。

(もう俺はやめるんだし、何よりこんなことを思うようになったらプロじゃない)


 俺は聖名の部屋に戻って、彼を待つことにした。





◆小説「傾国のラヴァーズ」その64・行方不明の聖名

2023-09-06 23:16:00 | 傾国のラヴァーズその61~70
 とにかく聖名を追わなければと、スマホでGPSをチェックしようとするが、その時、聖名からLINEが来た。
ー3時間後ぐらいに帰ります。

(何だよそれ! どこにいるんだ! )

 GPSを確かめようとしても、スマホの電源はもう切られていた。

(何のために俺は…)

 なぜか強く、裏切られた、という気持ちになった。

 聖名は一体どこへ…あの一団

 それにしてもこんなことをして、危ないとは思わないのか?

 電話にさえ、FAXにさえおびえていたお前が、一体何をしているんだ?


 ここと同じぐらいのグレードのホテルで2次会、ということがあっても、そこまで聖名に声がかかるとは思えない。
 出席者だって多そうだ。

 どういう相手と一緒にいるのかわからないので、店の見当もつかない。何より聖名には行きつけの店のようなものはないと聞いていた。
 家でも仕事が多く、たまに高橋さん達役員や、取引先と飲むことはあるそうだが。

 (本当は、聖名にも政治家の後ろ盾とかがあるのかもしれない…)




■小説「傾国のラヴァーズ」その63・聖名は知らんぷり

2023-09-05 23:06:00 | 傾国のラヴァーズその51~60
 聖名が男性であるのを幸いに、俺はこの警護期間が終わるまで自分の気持ちを隠し通すことに決めた。
 
 聖名だってボディーガードに想われているなんて嫌だろう。
 まあ、俺には襲われてもいいなんて冗談を言ってはいたけれど。

 でも、対象に恋愛感情を持ってしまったら、ボディーガードとして失格だ。

 その時、エレベーターから黒スーツのSPが多数降りてきて、俺は慌てて立ち上がった。
 SPに守られる人々が通り過ぎていくが、聖名はなかなか現れない。それどころか、やっと現れたと思ったら、SPや他のボディーガードに囲まれて、誰かと談笑しながら、俺のことなど忘れたように、出口へと歩いて行ってしまった。
 SP達が立ちはだかって、俺は聖名に近づくことができなかった。




●小説「傾国のラヴァーズ」その62・聖名と離れて

2023-09-04 23:13:00 | 傾国のラヴァーズその51~60
 しかし、いざ会場に行ってみると、聖名も俺も驚くほど客の数は多かった。

 その中には、かなりのお偉いさんもいるようで、ひと目でSPとわかる人間が多く、許可証がない俺や他の一般のボディーガードはそのスペースから追い出されてしまった。

 俺は危険性も考えて、一階のロビーで待つことにした。

 そのことを聖名にLINEで送ったが、既読はつかなかった。

 気づくまで待つことにしたが`、俺は複雑な気持ちで、エレベーターに一番近いソファに座り込んでいた。

 この仕事は、やめた方がいい気がする。

 聖名と出会う前から、仕事柄、そう考えることがないではなかったが…


 もう、俺は引き返せない。


 この一流ホテルの豪華なロビーで見た、長身の美しい聖名に…

 仕事とはいえ、聖名を守リ始めたばかりなのに…

 これまで知らなかった不思議な感情を抱き始めた…

 認めてはいけないのだが。