「傾国のラヴァーズ」

ボディーガードの翔真は訳有の美青年社長・聖名(せな)の警護をすることに…(閲覧者様の性別不問) 更新情報はX🐦にて

小説「傾国のラヴァーズ」その40・朝はけだるくて

2023-05-02 22:07:03 | 傾国のラヴァーズその31~40
 聖名の変化に戸惑いつつも、俺はいつも通り、部屋着で布団に入った。聖名の方も部屋着だ。
 布団に入ると意外にも聖名は俺には背を向けて灯りを消すと無言だった。
 
 あれ?

 合宿を提案してきたのはお前の方だったよな?

(疲れて、話すのが面倒になったのかな)

 不思議なことに、俺の視線を感じて身を固くしたようにも見えて、俺は声をかけるのもやめ、俺の方も迷惑にならないように彼に背を向け、眠りについた。


 …気がつけば、朝だった。
 トイレの付き添いには起こされなかったようだ。
 隣を見ると、もう聖名の布団は畳まれていた。

 驚いて辺りを見まわすと、聖名はキッチンの丸椅子に座り、あらぬ方を見てぼーっとしていた。何と声をかけたものか迷った。
 やっぱり二人暮らしは憂うつなのかな、とまた思えたからだ。




小説「傾国のラヴァーズ」その39・リビング合宿

2023-04-27 22:03:05 | 傾国のラヴァーズその31~40
 聖名は俺にしがみついたままになっていた。
 その手を優しくほどきながら俺は、
「いやあ、こんなに面白いとは思わなかった。また一緒に見たいな」
「でしょでしょ、って、もうこんな時間なのか…」
と、寂しそうに言うと、
「ねえセンパイ、今夜はこのリビングで合宿しない?」
「合宿? どういうこと?」
「せっかくだから、さっきの心霊について語り合うの。オレ、来客用の布団出してくるから」
 俺はそんなに気がすすまなかったが、まあこんなのもいいかなと思ってOKした。
 そして、二人分の布団の用意を手伝った。

 本当に合宿という感じで、聖名の怖がりの原点でも聞けるのかとなぜかワクワクしてしまったが、いつしか彼からは笑顔が消えているのに気づいた。




小説「傾国のラヴァーズ」その38・聖名は小首を傾げて誘う

2023-04-26 21:50:00 | 傾国のラヴァーズその31~40
 それにしても聖名は怖がりだ。
 まあ、個人差だから、怖がる基準はまちまちだろうけど…

 照れくさそうに俺から離れた聖名は、ビールをひと口飲むと、もう次の動画を見ようとしている。

「次は何見るの?」

「せっかく 先輩がいて1人じゃないから、続いてまた心霊モノ見ようかなって」

 俺は必死で笑いをこらえた。

「いやあんなに怖がってるのになぜ見るの?」

「いや 大好きだから」

 まあ 現実逃避にはいいのかも…
 でも テーブルの上のビールの缶をひっくり返しそうになりながら大騒ぎになるのはどうなんだろう。

「ホラー映画も好きなの?」
「いやああ いう作り物はダメで」
「そうだよね。それに時間も長いし」
「そうですよね」

聖名は適当に相槌を打つと、

「さあ 次も おすすめの…」
 
 俺は何だかからかいたくなって、

「一人でトイレに行けますか?」

 すると聖名も負けじと(?)

「ついてきてよ。 ボディーガード なんでしょ」

「会社の暗いトイレにも?」

「おうともよ」

 そんなおっさん臭いことを言った… 次には

「だから見よ」

 女の子のような顔立ちだが…小首をかしげて誘う社長ってどうなんだろう。
 でも困ったことにすごく可愛いんだよな。


 次の動画はさっきのような心霊スポットの突撃ものではないが、東京に移住して以来霊障に悩まされている地方の旧家の話で、じわじわと恐怖が迫ってくるものだった。
 本当に怖かった。




小説「傾国のラヴァーズ」その37・聖名の悲鳴?

2023-04-22 20:31:24 | 傾国のラヴァーズその31~40
 そして、画面の中では、丑三つ時、廃村の中にあるという廃校に二人が入っていき…

ーリュウ君、何かねえ、すぐの教室の前に女の人が見えるの…

ー女の子?

ーううん、違うの。大人の女の人。

ー大人?



 隣の聖名を見ると、いつしかクッションは捨てていて、怯えた表情でもう腰が引けている。

 

 すると動画の中では、霊の声が…音とテロップで…


〈…あそんでいって…〉


「!!!」
 聖名が俺の腕にしがみついてきた。
 霊よりも、聖名がしがみついてきたことの方に俺はびっくりした。



ー音声アプリ使ってみようか…こんばんは。リュウといいます。今日はみなさんとお話し出来ないかと…


〈死ね〉〈帰れ〉〈やめてください〉


アプリの音声が暗い画面の中で赤い文字でも表示される。



「アプリ使ってるけど、機械の声だけど、霊の言葉なの! 怖い~」
 聖名はしがみついたまま、俺の胸に顔を埋めてくる。
 俺も画面にはびっくりで凝視してしまったが…


〈私は殺されました〉〈痛い〉〈憎い〉


「凄いけど、怖い~!」
と聖名の力はますます強くなる。
「怖いなら別の動画にしろよ~」
 そう言いながらも、無意識のうちに俺の右腕は彼を包み込むようにまわり、手は彼をなだめるように動いていた。
「でも好きなんだもん」
と言ってから、今度は聖名がびっくりしたようにあわてて体を離した。
「ごめん」
 俺も我に返ったが、言葉が出ない…

 そしてまた画面を見てわーだのぎゃーだの…
 おかげで20分くらいの内容が全く頭に入らなかった。





小説「傾国のラヴァーズ」その36・聖名は両方好き?

2023-04-22 10:24:10 | 傾国のラヴァーズその31~40
 すると今度は聖名が笑ってしまい、

「いや これは 前座。 大人のメインはこれからだよ。さあセンパイ、ここに座って」

 言われるがままに俺は彼の横に座った。「大人のメイン」という言葉が少し気になったが…

 彼は無言のまま、猫の動画を途中で終わらせ、手慣れた様子で、テレビで検索画面からお目当ての動画を見つけ出した。

 すぐに動画は表示されたが…

 黒い画面に赤い文字で、

〈警告〉
〈閲覧注意〉
〈不思議な現象が起こります〉

…とか書いてある…つまり、心霊動画のチャンネルだったのだ。俺には選択権がなかった。
「センパイ、ほんとに面白いんです。おすすめです。センパイは怖いの苦手?」
「見たことがないからわからないけど…そんなに苦手ではないと思う」
「よかったあ」
…ってことは、彼は実は怖がりなのか?

「これは〈ホラージャパンTV〉っていうチャンネルで、リュウ君と真弓ちゃんの男女ペアでやってるんだけど、真弓ちゃんの声がもう可愛くって、癒やしボイスなのぉ~」

と、クッションを抱いて身悶えする聖名の姿に、なぜか俺はモヤっとした。

「そしてリュウ君も俳優ばりのイケメンなの~」

 またもや俺はモヤっとした。

 しかし聖名はもちろんそれには気づかないようで、

「霊感体質の真弓ちゃんが動けなくなっても、1人でも霊の声がする深夜の廃墟の中を突き進んでいくリュウ君が、もうカッコ良くって…」

 もうこれ以上そんな言葉を続けないで欲しい…と思う自分にも戸惑っていると、動画の方では今日訪れた廃校や、これから検証する心霊に関するリュウ君の説明が始まり、


ーでは早速、中に入ってみたいと思います。

と、キリっとした表情でその場は締められる。