午後になっても、高橋さんには呼ばれない。
「海原、一応泊まれる用意だけはしてこい」
と言われて、トランクに荷物を詰めて会社に戻ったが、まだ連絡がなかった。
ようやく高橋さんから電話が来たのは夜で、近くの居酒屋の個室で、彼と高橋さんとやっと契約になった。俺ではなく、月曜の担当の先輩が彼らを迎えに行った。
「すみません。僕が予定を取り違えていたばかりに、今日は一日中ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
彼の謝罪から始まった。
高橋さんも何か言いあぐねているようだったし、彼に至っては、ほとんど俺と目を合わせてくれない。
ただ、今日からよろしく、と張りついた笑顔で言ってはくれた。
しかし、契約の方は無事に済んだ。
場は和やかだったが、俺以外はみんな時間が気になっているようだったので、早々におひらきとなった。
彼と一緒に帰るのは当然俺だが、俺は少し嬉しい気持ちになっていた。
高橋さんにも、
「プレッシャーをかけるわけじゃないけど、そちらの課長さんにもメールしたけど、社長は海原さんに決まって良かった、って言ってたんです。端から見ててもすごくウマが合いそうに見えたし」
…と、よろしくお願いします、と言われた。
…しかし、車の中で二人になってしまうと、彼はずっとうつむいていて、痛々しい感じがした。