「傾国のラヴァーズ」

ボディーガードの翔真は訳有の美青年社長・聖名(せな)の警護をすることに…(閲覧者様の性別不問) 更新情報はX🐦にて

■小説「傾国のラヴァーズ」71・聖名の告白

2023-10-15 22:39:00 | 傾国のラヴァーズその71~80
 そして、
「翔真、行かないでほしい…せめてあと2週間とちょっと、契約満了までここに住んでもらえないかなぁ。オレ、何もしないから」

「えっ? 」
 まず、名前で呼ばれたことに驚いたが…
「翔真にはオレ、ひとめ惚れだったんだ。ごめん、オレ、男の人も好きになるタイプだって隠してて」

 俺は固まってしまった。

 どうしよう…

 そう思いながらも、俺は聖名の背中に手をまわして抱き締めていた。
 気がつけば頬を寄せていた。

 聖名の気持ちに寄り添いたかった。

 聖名の体がびくっと揺れた。

「えっ? 」

 聖名はびっくりした表情で俺の顔を見た。



●小説「傾国のラヴァーズ」70・聖名の涙

2023-10-14 22:30:00 | 傾国のラヴァーズその61~70
 思えば、彼からはひと言もきちんとした謝罪の言葉もない。軽く謝られただけだ。
 俺を引き留めるのが形式上ということなのだろう。よくある話だ。

 それにしても、俺はどうしてらしくもなくこんなに怒っているのだろう。クライアントにこんなことを言い出すなんて。

 それだけ聖名を…想う気持ちがあったということなのだろう。
 そう思い至って恥ずかしくなり…その後、気づいた。

 聖名が、うちの会社との取引をやめると言い出したらどうするのか…聖名がぼうっとしている間に、後任を部長に決めてもらうしかない。
 俺はもうこの部屋に泊めてもらうのは嫌だった。
 でも聖名の警護がいない時間を作りたくなかった。

「すみません、会社に電話して、すぐに後任を…」

 すると聖名は口元を引き結び、目から涙をこぼしながら俺に近づいてきた。

 そして俺の真ん前に立ってためらうように見つめてくると、俺にしがみついてきたのだ。


★小説「傾国のラヴァーズ」69・立ち尽くす聖名

2023-10-13 22:45:00 | 傾国のラヴァーズその61~70
 意外な答えに俺は驚いたが、

「ありがとうございます。でも、その必要には及びません。もともとこちらでの仕事が終わったら退職して、違う仕事を探すつもりでした 」

「えっ、どうして…? 」

 俺は一瞬返事に困ったが、
「自分には向いてませんでした。疲れました。人の不幸に寄り添うことに。要人につくSPのように銃が持てるわけでもなく、権限があるわけでもない。もどかしいものを感じていて、それが今夜のことで抑えられなくなったのかなと思います」

 どうしてか、すらすらと出た。

 聖名はぼう然と立ち尽くしていた。



◆小説「傾国のラヴァーズ」68・聖名のとまどい

2023-10-12 22:55:00 | 傾国のラヴァーズその61~70
 ではなぜ? と言いたかったが、俺はこの真面目な男が自由にデートでも楽しみたかったのではないかと思い始め、痛々しくも思った。
 
 そして、それにショックを覚えて、そんな自分に驚いて。
 それでも、
「でも、私には社長の警護は務まらないようです。会社にこのことを報告して、ベテランのボディーガードと交代します」

 すると聖名は顔を上げ、毅然と、

「嫌だ 」
と言い切った。しかし、すぐに焦ったように、
「そ、その、センパイのキャリアに傷つけたないから…」



■小説「傾国のラヴァーズ」67・うつむく聖名

2023-10-05 07:25:00 | 傾国のラヴァーズその61~70
 もう俺は咎めなかった。

 どうせ俺の言うことは決まっていたし 聖名の答え も想像がついていたからだ。

 聖名はなかなか 浴室から出てこなかった。
 
 そのうち洗面所からドライヤーの音が聞こえてきた。
 髪が長いので彼のドライヤーの時間は長い。
 仕事が多い時は 生乾きのままパソコンに向かうと、いつだったか聖名は笑いながら言っていた。
 
 しかし今日は随分と長く感じられた。
 まあ、きっとしっかり乾かしているのだろう。

 ようやく 部屋着の聖名で出てくると、冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを2本出して、1本を俺の前に置いてすすめると自分も一口飲んでいた。
 俺は飲む気がしなかった。
 
 沈黙の後、聖名は諦めたように俺に尋ねてきた。

「それで話というのは? 」

「社長、さっきのように私に黙ってどこかに行かれるのは困ります。
私に不満があるというなら私に直接もしくは 会社の方に相談していただけませんか。
私と違って ベテラン の者もおりますし、上司なら適切なアドバイスができるかと思います 」
「… 」
 聖名は下を向いてしまいそのまま 震える声で

「センパイに不満なんかないよ…」