高齢者の転倒と、それに付随する大腿骨近位部骨折を始めとした脆弱性骨折は、患者の生命予後に影響する重篤な疾患であることが知られています。国内外で転倒予防の取り組みは数多く行われており、運動療法は転倒予防に有用であるという研究結果が報告されています。この論文ではイギリス全土の63の一般診療から70歳以上の9803人をランダムに選択し、①3223人はメールのみによるアドバイス、②3279人は転倒リスクスクリーニングを行い、メールによるアドバイスに加えて対象を絞った運動、③3301人は転倒リスクスクリーニングを行い、メールによるアドバイスに加えて、対象を絞った多因子転倒予防multifactorial fall preventionの3群に振り分け、その後の転倒や骨折を検討しました。Primary outcomeはランダム化後18カ月以上の時点における100人・年の骨折率、secondary outcomeは転倒率に加えてSF-12, EQ-5D-3Lなどを用いたQOL評価です。
(結果)参加者の平均年齢は78歳で、女性が53%でした。転倒リスクスクリーニング質問票は、グループ②3279人中2925人(89%)から返送があり、そのうち1079人は転倒のリスクが高く、運動介入への参加の招待状が送られました。グループ③3301人中2854人(87%)が転倒リスクスクリーニング質問票を返送し、そのうち1074人(28%)に多因子転倒予防評価への参加の招待状が送られました。転倒リスクスクリーニング質問票に回答しなかった人の方が、回答した人よりもフレイルの患者割合が高率でした。結果として介入の骨折予防効果は示されませんでした。グループ①に対するグループ②の骨折の割合は1.20(95%信頼区間[CI], 0.91-1.59)であり、グループ③は1.30(95%CI, 0.99-1.71)でした。また18ヶ月間の100人年あたりの転倒数にも有意差はありませんでした。運動介入は、健康関連のQOLのわずかな向上と全体的なコスト低下に関連していました。
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今回の結果は最近報告されたRCTの結果(Bhasin S et al., A Randomized Trial of a Multifactorial Strategy to Prevent Serious Fall Injuries. N Engl J Med. 2020 Jul 9;383(2):129-140. doi: 10.1056/NEJMoa2002183)とも一致するものであり、改めて転倒・骨折予防の難しさが証明されました。転倒予防、骨折予防については根本的に戦略を考えなおす(転倒しても骨折しないような介入を行うなど)必要があるのかもしれません。
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