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とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

リスクとベネフィット

2020-03-13 08:39:35 | その他
患者に検査や治療について説明する際に “risks vs benefits”という構図が良く用いられます。「〇〇という手術をしたらこんな良いことがありますが、××というようなリスクもあります」というような感じです。最近ではエビデンスに基づいて「××という合併症が起こる可能性が**%です」というような言い方も良く行われます。ところで“risk(リスク)”の和訳は「危険」ということになりますが、その意味をOxford English Dictionary(OED)で調べると” the possibility of loss, injury, or other adverse or unwelcome circumstance; a chance or situation involving such a possibility.”という説明が出てきます。つまり「なんだかよくないことが起こる『可能性がある』」ということで、確実に悪いことが起こるというニュアンスは薄れます。一方で”benefit”についてのOEDの説明は”A thing well done; a good or noble deed.”となっており、『かもしれない』というニュアンスはありません。このように“risks vs benefits”という構図を用いると、良いことと悪いことのバランスに不均衡があり良いことを強調しすぎている、という考え方から、最近では”risk”を”harm”に言い換えようという動きがあるようです。このあたりのニュアンスは我々にはわかりにくいですが、「リスク」ではなく「有害事象」を用いるという感じでしょうか。言葉だけの問題ではなく、harmの中には一般的な有害事象だけではなく、例えば治療後の不安や抑うつ状態、予約をとったり通院したりすることの負担なども含めてコミュニケーションをとるべきである、と考えられています。とはいえ(若い優秀な医師にありがちなように)エビデンスを背景にして細かい数字(合併症の確率など)を並べ立てるだけでは患者の正確な理解を得るのは困難である点にも注意が必要です。
自分自身も患者とのコミュニケーションにおける言葉の重要性や危険性は痛感しており、「こういう言い方は自分の都合の良い方向にもっていってるなー」と反省することも多いのですが、「先生にお任せします」などと言われると気が楽になるのも事実ではあります。。
教訓:反省だけならサルでもできる
JAMA. 2020 Mar 9. doi: 10.1001/jama.2020.0354. [Epub ahead of print]


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