下腿の蜂窩織炎(cellulitis)は比較的一般的な感染症ですが、入院の原因として軽視すべからざる病態です。またしばしば再発することが知られており、Coxは3年以内に下腿蜂窩織炎の47%が再発すると報告しています(Br J Dermatol 2006; 155: 947-50)。ペニシリンなどの抗菌薬の予防的投与が再発予防に有用ですが、投与中止によって予防効果は失われることが報告されています(Thomas et al., N Engl J Med 2013; 368: 1695-703)。さて下腿浮腫は主として静脈流やリンパ流のうっ滞が原因で生じる病態ですが、慢性的な浮腫の存在が下腿蜂窩織炎のリスクを高めることが知られています。この論文で著者らは機械的圧迫による下腿浮腫の予防が下腿蜂窩織炎の再発を抑制することを明らかにしています。
組み入れ基準としては2年以内に2回以上の下腿蜂窩織炎を経験し、また同側、あるいは両側の下腿浮腫が3カ月以上持続する患者です。すでに下腿の圧迫帯(compression garment)を週に5日以上着用している人や下腿に創のある人は除外されています。参加者は浮腫予防の教育と圧迫帯着用群(compression群)、教育のみの群(control群)の2群に分けられました。圧迫帯は患者の下腿の状態に合わせたもので、膝下までの弾性ストッキングあるいはcompression wrap(マジックテープでとめる包帯のようなもの)が処方されました。Control群で蜂窩織炎を発症した場合にはcompression群へのクロスオーバーが認められています。
(結果)Compression群に41人、control群に43人の患者が割り付けられました。途中でリンパ浮腫のセラピストから両群に大きな違いがあるのではという報告があり、予定されていた中間解析の結果、その時点で生じていた23例の蜂窩織炎再発例のうち6例(15%)がcompression群、17例(40%)がcontrol群から発生しており、、両群に重大な不均衡が存在することが判明しました。このため倫理委員会は研究の中止を推奨しました。
結果としてcompression群で蜂窩織炎のhazard ratioは0.23(95% confidence interval, 0.09-0.59; P=0.002)、relative riskは0.37(95% CI 0.16-0.84; P=0.02)でした。Compression群の3例(7%)、control群の6例(14%)に入院加療が必要でした(hazard ratio, 0.38; 95% CI, 0.09-1.59)リンパ浮腫のQOL指標であるLYMQOL, EQ-5D-3Lには両群で差はありませんでした。
単施設での研究であること、途中で中止となったため観察期間が短かったこと(中央値186日)、症例数が少ないこと、open label試験であることなどのlimitationはありますが、下腿の圧迫帯着用が浮腫予防だけではなく、蜂窩織炎再発予防にも有用であるのは大変重要な情報と思います。
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