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腹腔内のGATA6陽性マクロファージが組織修復および癒着に関与する

2021-03-06 08:25:07 | 整形外科・手術
体腔coelomic cavityが存在する無脊椎動物(例えばウニなどの後生動物metazoansなど)では、体腔の損傷が生じると食作用を有する免疫細胞である体腔細胞coelomocytesが速やかに損傷部位に集積して損傷修復を行うことが知られています。このような細胞集積は極めて速やかに生じ、哺乳類における血小板凝集による止血反応に類似した過程です。
哺乳類にも腹腔や胸腔、心嚢などの体腔が存在しますが、その損傷もやはり速やかに修復されます。一方腹腔内の手術後には約66%の患者で無菌的な癒着が生じ、これがイレウスの原因になるなど、様々な問題を起こすことが知られています。この論文で著者らは腹腔内のGATA6陽性マクロファージ (GATA6+Mφ)が、腹膜損傷の修復に関与するとともに術後の癒着にも関与することを明らかにしました。
マウス腹膜にレーザーで熱傷を起こすと、腹腔内の損傷部位にGATA6+Mφが接着・集積して細胞塊aggregatesを形成することで損傷修復を行います。この反応は15分程度で完成する極めて速やかな過程であり、血小板の凝集に匹敵するものです。GATA6+Mφの凝集過程は様々な点で血小板凝集に類似していますが、後者が血管内で生じるのに対し、前者は血管外で生じるという空間的な違いがありました。
このような腹腔修復に関与するGATA6+Mφは、腹壁に存在するGATA陰性Mφとは異なって正常状態では腹腔液中に浮遊状態で存在しますが、腹膜の損傷によってfluid shear stressを介して損傷部位へ接着・凝集します。In vitro細胞培養においてもGATA6+Mφは細胞塊を形成し、この過程は2価カチオンのキレート剤EDTAで抑制され、ATP添加で促進されました。
著者らはこのGATA6+Mφの凝集に関与する分子を検討しました。GATA6+Mφの凝集はインテグリンやセレクチン、そしてICAMなどのimmunoglobulin-like adhesion moleculesなど様々な接着分子をブロックしても変化しませんでしたが、ヘパリンによって抑制されました。海綿動物の体腔細胞において、scavenger receptor cystein-rich (SRCR) domainを有するSRCR superfamily proteinsが接着分子として働くことにヒントを得て、マウスのGATA+マクロファージの接着においてもSRCR family分子が関与する可能性を検討し、MARCO (macrophage receptor with collagenous structure)およびMSR1 (macrophage scavenger receptor)という2つのclass A scavenger receptorsのブロックによってGATA6+Mφの凝集が強力に抑制されることが明らかになりました。
最後に同様の現象が無菌的な腹腔内癒着にも関与する可能性を、マウス腹腔内癒着モデルを用いて検証し、3時間で癒着部位に多数のMφが集積し、この過程はscavenger receptorsのブロックによって抑制されることを示しました。
この研究は腹腔内GATA6+Mφが血小板と類似した動態を示して組織修復に働くこと、この過程にSRCR family分子が関与すること、またこの修復過程が無菌的癒着にも関与することをin vivo imagingを利用して見事に示したという点で非常に重要なものです。術後癒着は外科領域における大きな課題であり、SRCR family分子の抑制がその解決に寄与する可能性を示しています。
余談ですが、この論文を読んで、ずっと前に読んだscavenger receptorがMφの接着に重要であることを示した論文を思い出しました (Fraser I et al., Nature. 1993 Jul 22;364(6435):343-6)。しかしこの論文ではMφの接着はdivalent cation-independentとなっているのですが、この違いはどのような機序なのでしょう?
J. Zindel et al., Primordial GATA6 macrophages function as extravascular platelets in sterile injury. Science  05 Mar 2021: Vol. 371, Issue 6533, eabe0595 DOI: 10.1126/science.abe0595




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