とはずがたり

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SARS-CoV-2による病態形成メカニズム

2020-04-24 18:57:12 | 新型コロナウイルス(疫学他)
平野俊夫先生、村上正晃先生によるSARS-CoV-2による病態形成メカニズムに関するreview articleがImmunity誌に掲載されました。最初の段階としてウイルスは受容体であるACE2に結合して細胞に侵入しますが、その際にTMPRSS2やcathepsin B/Lといったプロテアーゼのアシストを必要とし、この経路が治療標的になることを最近の論文に即して説明されています。しかし真に死亡へとつながるのはウイルス感染が生じる顕著な炎症であり、それがacute respiratory distress syndrome(ARDS)へとつながること、その過程にACE2が結合したウイルスとともにendocytosisされ、細胞表面のACE2のdownregulationの結果生じる血中angiotensin II(AngII)上昇が関係している可能性があると述べられています。その根拠としては、マウス肺損傷モデルにおいてもACE2のdownregulationが見られ、recombinant ACE2によってARDSに類似した肺損傷が抑制されること、またSARSウイルス(SARS-CoV)感染によって生じるマウスARDSモデルにおいて、angiotensin receptor type 1(AT1R)阻害薬が有効であったというJoseph Penningerのグループによる研究結果を挙げられています。またAngIIは血管以外にもAT1Rを介して炎症惹起にも作用することが知られており、①AngII-AT1RシグナルはNF-κBの活性化およびdisintegrin and metalloprotease 17(ADAM17)誘導を生じる、②ADAM17によって成熟型epidermal growth factor receptor(EGFR)リガンドやTNF-αの産生が促進され、やはりNF-κBを活性化する、③ADAM17により膜結合型interleukin-6受容体α(IL-6Rα)のprocessing↑→soluble IL-6Rα↑→様々な免疫細胞におけるIL-6-sIL-6Rα-STAT3経路活性化→IL-6 amplifier (IL-6 Amp)の活性化→サイトカインストームといったメカニズムがSARS-CoV-2による臓器損傷に関与する可能性があると説明されています。現在sIL-6R抗体であるトシリズマブがCOVID-19に対する治療薬として期待されていますが、その理論的な根拠としても極めて興味深い知見です。
Hirano and Murakami, "COVID-19: A New Virus, but a Familiar Receptor and Cytokine Release Syndrome" Immunity DOI:https://doi.org/10.1016/j.immuni.2020.04.003 


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