とはずがたり

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BCGワクチンが高齢者感染症予防効果を示した

2020-09-02 08:51:20 | 新型コロナウイルス(疫学他)
オランダのNeteaらは以前から"自然免疫記憶(trained immunity)"に着目して研究を行っています。Trained immunityとは、ウイルス感染などの記憶が自然免疫細胞においてヒストン修飾変化やDNAメチル化などのepigeneticな変化を誘導し、その結果再感染に対してT細胞とB細胞に依存せず自然免疫系の応答をもたらすという現象で、獲得免疫のような非可逆的な変異や組み換えには依存しない現象であるとされています(Netea et al., Nat Rev Immunol. 2020 Mar 4. doi: 10.1038/s41577-020-0285-6)。 
彼らはBCGにはtrained immunityを刺激する効果があり、そのために他の感染症を抑制する可能性があるとの仮説から、65歳以上で何らかの理由で入院していた高齢者に対するBCGとプラセボ投与の感染症予防効果を検証するRCTを行っています。ACTIVATE(A randomized Clinical trial for enhanced Trained Immune responses through Bacillus Calmette-Guérin VAccination to prevenT infections of the Elderly)と名付けられたこの臨床研究は2017年から開始されたもので、当然COVID-19の予防を目的として行われたものではありませんでした。しかしBCGがCOVID-19に有効ではないか、というような都市伝説があったため、その結果に期待が集まり、今回前倒しで中間解析が行われました。
組み入れられた患者はプラセボ群78人、BCG群72人で平均年齢はそれぞれ79.6歳、79.9歳です。基礎疾患や併存症におおむね群間差はありませんでした。投与後12カ月までで何らかの感染症を新たに生じたのはプラセボ群42.3%、BCG群25.0(hazard ratio 0.55, 95% CI 0.31-0.91, P=0.039)と有意差があり、特に呼吸器系のウイルス感染症は17.9% vs 4.2%(HR 0.21, 95% CI 0.06-0.72, P=0.013)と大きな差を認めました。この理由としてはBCGワクチン投与によってTNF-αやIL-6などの遺伝子の制御領域にepigeneticな変化が生じてこれらの遺伝子発現が上昇していたことから、BCGによってtrained immunityが活性化されたのではないかと考察しています。
研究途中での解析になったため、解析できていない被験者がかなりの数いること、COVID-19を予防できるという保証はないことなどの問題はありますが、BCGワクチンの感染予防効果をRCTで示したという点では重要な研究結果かと思います。こんな結果がでると、またBCGワクチン投与を希望する成人が増えそうで、それはそれで問題になりそうです。。あと蛇足ながら子供の時にうけたBCGの効果が示された訳ではありませんので、誤解なきよう。
Giamarellos-Bourboulis et al., CELL DOI:https://doi.org/10.1016/j.cell.2020.08.051
https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(20)31139-9






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