下記の記事はダイアモンドオンラインからの借用(コピー)です
消費者庁も警告
健康不安に付け込む手口
新型コロナウイルスが感染拡大した2020年、消費者庁は「新型コロナウイルスに予防効果がある」と表示した製品に警告を発した。有効性が証明されていないにもかかわらず効果をうたったためである(参照:消費者庁HP 商品表示に関する注意喚起)。
その中には「マルチ商法」として知られる製品への警告と思われるものもあった。筆者の耳にも、「マルチ商法」の会員がウイルスの予防効果を口実に勧誘するようなケースが増えたという声が入る。
コロナ禍において、マルチ商法の勧誘はどう行われているのだろうか。さまざまな不安が渦巻く現在、その不安に付け込む形は増えているのか。一方、人との面会や集会が難しくなる中、どんな手法で勧誘しているかも気になる。
そこで話を聞いたのが『妻がマルチ商法にハマって家庭崩壊した僕の話。』(ポプラ社)を1月に出版したズュータンさんだ。ズュータンさんは結婚後、妻がマルチ商法に傾倒して離婚。娘も妻に引き取られ、その後数回しか会えていないという。妻を最初に勧誘したのは、地域の民生委員だった。以来、彼はマルチ商法の被害者の声をnoteで発信しており、自身の体験談や被害者のエピソードを著書にまとめた。
今回ズュータンさんに聞きたいのは、コロナ禍でのマルチ商法の実態だ。この1年、彼らの勧誘手法や動きは変化しているのだろうか。
コロナの「孤独」も餌食に?
「寂しいなら仲間になろう」
あくまで筆者の意見だが、コロナ禍での不安は、マルチ商法の勧誘に利用できる要素ばかりではないだろうか。健康やお金、仕事への不安、人と会えない孤独…。その疑問に対して、ズュータンさんはこう答える。
「そういった面もあると思います。特に健康不安を切り口にした勧誘は多く、『コロナに効く』とうたったマルチ商法の製品や宣伝は問題になりました。昔のマルチ商法といえば料理器具を売り込む話をよく耳にしましたが、最近は健康や美容のアイテムが増えています。コロナ禍の不安は、その流れにも合致しているのではないでしょうか」
健康だけでなく、コロナ禍の孤独や将来の不安をフックに勧誘された人もいるようだ。
「ある大学生は家庭の事情から大学を休学し、アルバイトで生活資金を稼いでいました。毎月いくらかのお金を両親に渡していたといいます。しかしコロナ禍でアルバイトがなくなり、さらに同年代の学生友達は就活の真っ最中。孤独と不安が募っていきました。その気持ちを埋めようとSNSで女性と知り合ったのですが、最終的に彼女からマルチの勧誘を受けたようです」
大学生の孤独に対し、女性はたびたび「寂しいなら仲間になろう」「私たちと一緒になれば将来は大丈夫だよ」と言ってきたという。誘いは断ったようだが、勧誘の切り口になったのは孤独や将来の不安だった。
「“仲間”や“経済的な安定”をほのめかして勧誘する手法は昔からありましたが、コロナ禍で強まっている印象があります。副業として勧める事例もより増えていますね」
ここまで読んで「自分はそんなものにハマらない」と思った人もいるかもしれない。現にズュータンさんも、ハマる人は「全体の中でも少数派」だという。しかし少数だからこそ、自分はもちろん、家族や恋人、友達が「だまされるわけない」と疑わず、いつの間にか身近な人が引きこまれているケースが多い。
「つい先日も、配偶者がマルチ商法にハマってクレジットカードで高額決済を繰り返し、自己破産に追い込まれた方の話を聞きました。その後は何年も別居しているそうです。『自分は大丈夫』と思っていても、周りで知らぬ間にハマっていることはあります。しかも気付きにくい。それがマルチ商法の怖さです」
男性が狙われるケースが続出
オンラインでは「録画禁止」
マルチへの勧誘手法も、コロナ禍で変化している。以前からマッチングアプリでの勧誘は増えていたが、出会いの場が減る中でその傾向はかなり強くなった。「若い人の7~8割はマッチングアプリ経由ではないか」とのことで、特に男性が誘われるケースが多いようだ。
「ある男性はアプリで知り合った女性と付き合い、交際1カ月後に、マルチ会員であること、彼にも一緒に活動してほしいことを告げられたそうです」
付き合って1カ月後のタネ明かしにはゾッとするが、「計画的な勧誘だと思います」とズュータンさん。実際、こういった長期計画の勧誘は増えているという。
「以前より、目的や社名を明かすまでに長い時間をかけている印象です。ネット上にマルチ商法の情報が相当数出ているので、早めに明かすと警戒されるのでしょう。簡単には切れない深い関係を築いてから誘う傾向になっています」
大前提として、マルチ商法は事前に勧誘目的だと告げずアポをとってはいけない。特定商取引法で禁止されている。だが、実態として「ほとんど守られていない」とズュータンさん。加えて正体を明かすのも深い関係になってからなので、被害者のショックは大きくなる。
コロナ禍ではセミナーや集会のオンライン化も進んでいるが、マルチ商法の場合はこんな特徴もあるという。
「ミーティングの録画を禁止するケースが多いですね。専用アプリを開発して、録画禁止、名前・身元を明かすシステムのもと実施している組織もあるようです」
録画を禁止するのは、勧誘の詳細が漏れるのを防ぐためだろう。ちなみに、最近流行の兆しを見せているアプリ「クラブハウス」は、知らない人との会話を楽しめる音声SNS。その特徴のひとつが「録音の禁止」だが、ネット上ではこの特徴に対して「マルチ勧誘に使われそう」という声も聞かれた。
オンラインのマルチ勧誘は録音防止がポイントになっているため、その実情を踏まえた意見だろう。
いずれにしても、マルチの勧誘に欠かせないのは定期的なターゲットとの接触。そこで関係値を高め、考えを少しずつ浸透させていくことだ。このために今やオンラインミーティングは欠かせなくなっている。
ヨガやエステの教室は
なぜマルチの勧誘が多いのか
最近特に多いのは、ヨガやエステ、ピラティスなどの教室と称して、レッスンを行う先生が徐々に勧誘を行うケースだという。
「コロナ前から、この分野での勧誘は多かったといえます。マルチ商材にはアロマオイルやサプリが多く、相性が良いのでしょう。ヨガやピラティスのオンライン教室もコロナ禍で一般的になりましたが、そこで勧誘された例もよく聞かれます」
ズュータンさんは「先生が生徒を勧誘するだけでなく、先生を狙って会員が勧誘するケースも増えている」と話す。まず先生を説得し、広告塔となってもらう。そうして生徒の勧誘を任せるのだ。
「最近は、真面目にヨガやエステ、ピラティスの仕事をしている方から相談されることも増えていますね。他の教室で勧誘されたお客さまが多くて困っていると。業界自体に偏ったイメージが付いてしまいますから、誠実に仕事をしている方からするとつらいですよね」
このほか、ズュータンさんのもとには、英会話教室の先生や保険相談窓口の担当者から勧誘された話も届いている。
先ほど、SNSを使ったマルチ勧誘に触れたが、SNS経由の勧誘が増えるほど「深く依存してしまう人も増えるのではないか」とズュータンさんは指摘する。
「SNSは、友達や知り合いのつながりが見えやすいですよね。仮にマルチ関連の知り合いが1人でもいると分かれば、他のマルチ会員からも狙われるでしょう。一度ハマった人は、他のグループや会社からも勧誘される危険があるのです」
SNSでの勧誘は周囲が気付きにくい
家族が悲しまないように注意すること
コロナ禍で心に不安を抱える人は確実に多くなった。そしてその不安は、マルチ商法の沼にハマるきっかけとなる可能性がある。ズュータンさんも、改めて警鐘する。
「仕事や人生にやりがいを感じている人は引っかかりにくいかもしれません。ただ、どこか将来への不安や自分自身の存在意義に揺らぎを感じている人は、心のスキを突かれて傾倒することが多いといえます」
ズュータンさんは、30~50代の専業主婦がマルチ商法にハマるケースをよく見てきた。ある企業の顧客データでも、この年代の女性が非常に多い。旦那さんが一人で家計を担う中、自分も「しっかりしなければならない」「良き妻でならなければならない」という思いが引き金になるという。
「しかもSNSなどのオンライン勧誘は、家族や友人が気付きにくいといえます。スマホを頻繁に触っているだけで、周囲の人がマルチ商法だと察知するのは難しいでしょう。だからこそ『自分の家族や友人に限ってそんなことはない』と思わないでほしいのです」
彼のもとには、マルチ商法の体験談や相談が毎日寄せられているという。妻がハマって困っている30~50代男性の声も多い。少しでもそんな悲しみが減るよう、今後も情報発信をしていくという。
マルチ商法は、ハマった当事者の人生を変えるだけでなく、周りにいる大切な人の人生も変えてしまう。コロナ禍でさらなる悲しみの連鎖が起きないよう、気を付けてほしい。
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