下記の記事は日経グッディからの借用(コピー)です
心臓、血管などの循環器の健康状態が良好な高齢者ほど、認知症の発症リスクが低く、認知機能の低下の速度が遅いことが、フランスの疫学研究で示されました。
中年期の高血圧、脂質異常症、肥満、糖尿病などは、脳卒中、心筋梗塞に代表される循環器疾患だけでなく、認知機能の低下にも関係することが知られています。循環器疾患の危険因子の中には、認知症の危険因子と重複するものが多いため、循環器疾患の予防を心がければ、認知症のリスクも下がることが期待できます。
そこで、フランス国立保健医学研究所(INSERM)の研究者らは、米国心臓協会(AHA)が2010年に公表した「循環器疾患を予防する7つの方法(Life’s Simple 7)」の達成度と、認知症の発症や認知機能の低下の間にどのような関係があるかを調べました。
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循環器疾患を予防する7項目とは
AHAの提唱する「7つの方法(Life’s Simple 7)」は、以下の4つの生活習慣と3つの検査値からなります。
【循環器疾患を予防する7つの方法(Life’s Simple 7)】
(1)タバコを吸わない
(2)適切な体重の維持
(3)活発な運動
(4)健康に良い食事
(5)コレステロール値の管理
(6)血圧の管理
(7)血糖値の管理
これら7項目のうち、最適な状態にある項目数が多いほど、循環器系の健康状態は良好で、死亡、冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症など)、脳卒中(脳梗塞、脳出血など)のリスクが低いことが確認されています。
今回の分析では、これら7項目の達成レベルを項目ごとに3段階に分けて、それぞれにスコアを割り当て、それらの合計を循環器健康全般スコア(0~14ポイント)としました(表1)。対象となったのは、フランスの3都市(ボルドー、ディジョン、モンペリエ)に住む、調査開始時点で循環器疾患または認知症ではなかった約9300人の高齢者です。
(出典:JAMA. 2018 Aug 21;320(7):657-664.)
対象となった高齢者に、1999~2000年に面接調査を行い、生活習慣、健康状態、医薬品の使用、余暇活動などを尋ねました。食物の摂取頻度の調査、神経心理学的検査、身体測定、血圧測定、血液検査(血中脂質量と血糖値)なども行いました。
さらに2016年7月まで、2~3年ごとに複数回、面接による認知機能の評価を行いました。4種類の認知機能検査を行い、4つの検査の結果に基づくZスコア〔Z=(本人のスコア-平均スコア)/標準偏差〕を計算し、Zスコアの平均値を求めて全般認知機能スコアとしました。高スコアほど認知機能は良好であることを意味します。
最終的に、必要な情報がそろっていた6626人(平均年齢73.7歳、63.4%が女性)を分析の対象にしました。
■循環器系が健康な人ほど認知症発症リスクは低い
追跡期間の平均が8.5年(レンジは0.6~16.6)となった時点で、745人が認知症と診断されていました。認知症の罹患率は、全体では100人-年当たり1.32(対象となった人々100人を1年追跡した場合に1.32人が認知症と診断されることを意味する)でした。
「Life’s Simple 7」で最適なレベル(2ポイント)に達している項目の数が、0または1項目の人の、100人-年当たりの認知症罹患率は1.76でした。2項目の人ではそれより0.26低く、3項目では0.59、4項目では0.43、5項目は0.93、6または7項目の人は0.96低くなっていました。最適なレベルに該当する項目数が1つ増加するごとに、認知症発症リスクは10%低下していました。
続いて、循環器健康全般スコアと認知症発症の関係を調べたところ、同様の結果が得られました。スコアが1ポイント上昇するごとに、認知症発症リスクは8%低下していました。さらに、循環器系が健康な人ほど、全般認知機能スコアの経時的な低下は小さい(認知機能の低下速度が遅い)こともわかりました。
これらの結果は、循環器系の健康を高めるために生活改善をはかれば、認知機能の低下と認知症発症も予防できる可能性を示しています。
論文は、JAMA誌2018年8月21日号に掲載されました[注1]。
[注1]Samieri C, et al. JAMA. 2018 Aug 21;320(7):657-664. doi: 10.1001/jama.2018.11499.
大西淳子
医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。
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