徒然草庵 (別館)

人、木石にあらねば時にとりて物に感ずる事無きに非ず。
旅・舞台・ドラマ・映画・コンサート等の記録と感想がメインです。

太陽の棘 彼はなぜ彼女を残して旅立ったのだろう (初日・ネタバレあり)

2014年12月11日 | 舞台
キャラメルボックスの冬公演、先日の『ブリザード・ミュージック』に続いて、もうひと作品の初日です。
それがこちら。



企画発表時からいろいろと気になっておりました。

・鍛治本さん初主演!
・脚本はCB内作ではなくて「空想組曲」のほさかようさん。
・しかも東京Onlyで8公演しかない!(爆)

12月10日、この日は元々のスケジュールとして、某・20年前にとても好きだったアーティストの全国ツアー千秋楽が東京国際フォーラムで予定されていました。ツアーは千秋楽だけ行って、舞台は9日にブリザード良席で観よう、太陽の棘は週末マイ初日でよかろう、と思っていた私でしたが…やっぱり「そうもいくまい」と心の声が囁くのですよ。(決して「昔の男より今の男だろう?」という邪悪な声ではないw)

結局…

9日の舞台良席を他に振り替えてコンサートに行くことにして、
10日のコンサートチケットは知り合いに「20%オフでいいから」と言って売り払い、
改めて10日の舞台チケットを買い直し…ここまでするか普通?! 

ライヴ友にはだいぶ不義理を恨まれました。(^^;
でもいいの、私が決めたことだから。





『太陽の棘 彼はなぜ彼女を残して旅立ったのだろう』


というわけで、初日のサンシャイン劇場に行ってきました。





ストーリーは公式サイトをご参照ください。
http://www.caramelbox.com/stage/taiyonotoge/


≪キャスト≫ ※敬称略 数字は劇中年齢

永沢亮二(20・大学生):鍛治本大樹
永沢恭一(24・亮二の兄):多田直人
星宮明音(24・恭一の恋人):岡内美喜子
草見はるか(20・恭一・亮二の従姉妹):小林春世
水田陽子(明音の姉):石川寛美
水田康介(陽子の夫、明音の義兄):筒井俊作
菊池新平(24・恭一・明音の大学時代のサークル仲間):左東広之
富家大吾(花巻の農家):久松信美





ストーリーの詳細については今後ご覧になる方も多いと思うので、あらすじ的には触れません。でもひとことで言えば「死にネタ」です。事故死した兄・恭一やその恋人であった明音、彼らを取り巻く人々の想いや主人公・亮二の葛藤や決意を描いています。

しかし。

宮沢賢治の『ペンネンノルデの伝記』という(『ブリザード~』と)同じ題材を扱ったはずのこのシナリオ、しかもキャラメル舞台の脚本が、成井さんでもなく真柴さんでもない人によって書かれたものだというのは、観る側に「新鮮な驚き」とともに「衝撃」をももたらした…これが最初の感想でした。

何せ「死にネタ」ですから。
誤解を恐れず言うならば「死んだ人のことで生き残った人間が苦しむ話」です。

ダークファンタジー、と言う前宣伝の記事を呼んだように記憶していますが、確かに「キャラメルボックスらしからぬ」痛くてしんどい舞台です。苦いリキュールを飲み干すような息苦しさを感じるお芝居と、胸抉られる言葉たちに容赦なく心の隙間を攻められているようで、まだ(初見では)底に潜むはずの「微かな甘み」を味わう余裕はありませんでした。

近しい人を亡くす悲劇。
残された人々の苦しみや悲しみ、葛藤。
罪を犯したものの苦しみや贖罪への願い。

キャラメルボックス的な(と、あえて言います)脚本なら、ここまで生々しい描写はしないだろう。
ここまで人の心を抉るような、あるいはささくれ立たせるような言葉の使い方はしないだろう。

登場人物たちが搾り出す喜怒哀楽――精神の軋み、魂の叫びも含めた感情表現を見ていると、感動して泣く、と言うよりも何か自分の中にある「共鳴できる要素」のせいで、涙が零れ落ちるシーンが多々ありました。

弟が兄を思う気持ち。
恋人が相手に向ける想い。
姉が妹を心配する姿。

どれにも自分の中に何か「心当たり」があって、対比させてしまう…。人が人を思う、あるいは自分でない誰かのために何かをしたい、そうした純粋で不器用な登場人物たちの心の機微に、観る側の心が震わされて涙する、そんなお芝居でした。

一方「これを観てはいけない人がいるんじゃないか?」と危惧してもいました。大切な人を不意に失ったことがある人は、あの芝居を(出来とはまるで関係なく)観てはいけない…観たら、心の奥底の傷が取り返しの付かない形で抉られるんじゃないか、と。最後に分かりやすい形の救いがない分(これも「キャラメルらしからぬ」部分)余計に傷ついてしまうのでは、とも。舞台はナマモノ感情に訴えかけてくる部分が大きく強い上にチャンネルを変えたりして「逃げられない」ですし…。(個人的なことですが事故や病気で若くして大切な家族を失ってしまった友人たちも周囲にはいまして、明音さんを観ていると、彼女たちの姿がオーバーラップしてしまってホントに辛かった、と言うのもありました)

終演後に書こうとしたアンケートに「頑張っているあの人にこの芝居について伝えるなら」というような項目がありました。私は(らしくもなく)躊躇し…結局、何も書けませんでした。「頑張っている人」がたとえば自分であったら、この芝居を勧めたいか?キャラメルの「いつものストーリー」が好きな友人に、これを勧められるか?私には良い言葉が浮かびませんでした。一方、キャラメルボックスに「いつもの何か」を期待してくる人は、観ちゃいけないんじゃないか、とも。ものすごく迷ってしまったのです。

設定、台詞の(時にストレートすぎるほどの)切り込み力。
ストーリーの展開と登場人物たちの心情変化。
いたたまれなくなるほどの感情の共鳴。

お芝居は所詮フィクション、それは事実ですが、ちょっと今日の作品は賛否分かれるところかと思います。私自身は「この内容なら他の劇団で、違う役者さんで観たかったかもしれない」と言うのが本音です。ひょっとしたら個々のお客さんの持つ「キャラメルに求めるもの」の性質しだいで評価の分かれる作品だとも思いました。

なので、今日はカテコの写真撮影は「心情的にムリ」――この『太陽の棘』に関しては観終わった後の気持ち的に『ブリザード』みたいなステージを巻き込んだお祭り感!!!とは真逆の心境で、ちょっと観劇後の余韻が「台無し」な感じもしなくはなかった…と感じています。作品の雰囲気もあると思うのですが、今日はちょっと素直に喜べない自分がおりました。





この日は昨日の『ブリザード』に続いて、二度目のHappy Birthdayを劇場中から祝われた鍛治本さん。春世ちゃんからケーキを差し出され、多田さんからツッコミされて、劇場中が家族のように心から祝っているあったかい雰囲気が最高でした!

鍛治本さんの初日&誕生日挨拶はこんな感じ。
いつものように温かな劇場の拍手が心地よい瞬間です。



(挨拶1度目)
まさか今日祝ってもらえるとは思っていなかったので、何にも用意してませんでした!31歳最初の日にこのような機会をいただいて本当に嬉しかったです、ありがとうございました!(劇場大拍手)

こうして『太陽の棘』も無事初日を開けることが出来ました。キャラメルボックスではもう一本『ブリザード・ミュージック』というお芝居もしていますので、そちらを観ておられない方は是非足を運んでいただきたいと思います。よろしくお願いします。

『太陽の棘』は公演回数が少なくて、あと7公演だけしかありませんので、是非お友達とか誘っていただいて、観に来ていただければと思います。皆さんとまたこうして劇場でお目にかかれる日を楽しみにしております。本日はどうもありがとうございました!(拍手)



(挨拶2度目)
温かい拍手を本当にありがとうございます。

僕は、劇場と言う空間が大好きです。僕たちは1ヶ月稽古してきた空間をお見せして、お客さんたちはずいぶん前からチケットを買っていただいて、その日を楽しみに待ってくださっていて…あ!当日券のお客さんでもいいんです!(爆笑)…時間をかけて劇場に足を運んでくださって、2時間舞台を観ていただいて…僕はこの2時間が本当に好きで、このカーテンコールが本当に大好きなんです。皆さんの笑顔をこの舞台上から見ていると、ホントに「生きててよかったな」って思えるんです。(劇場拍手)

だから、これからも、もっともっと頑張って、嘘をつかずに!役者として、頑張って恩返しをしていきたいと思います!なので、またこの劇場でお会いできるのを楽しみにしています。本日はどうも!ありがとう!ございました!!!(劇場大拍手)


その心からの喜びを全身で表現する様子、見守る共演の皆さんの温かな眼差しが、観る側の心の救いにもなりました。
ありがとう、鍛治本さん。





キャスト&今日のお芝居について。




ストーリーについては先に書いた通りです。
そして主役について!今日はあえて手厳しめの感想を書かせてください。

決して内容が悪かったわけではないんです。
でもお芝居として感じたことは、ちょっと別でして。








(ここから先、素人の辛口コメントを読みたくない方は「閲覧中止」推奨)








あんなにハタかれる主役観た事ないわ…。 ←(違


冗談はさておき、本公演で初の主役を演じる鍛治本さんは、全身が緊張の塊。緊張し過ぎてて痛々しいほどでして(舞台上の姿を観るとこちらも背中が張り詰める緊張)…しかも「お兄ちゃん(=多田さん)」に全部!持っていかれてたような…(^^;あの舞台登場の瞬間に、劇場中を満たす空気が一瞬で「さぁーっ」と音を立てて色を変えた!と思うほど。

「あれ、今日の主役って…?」

多田さんの放つ『有無を言わせぬ主役力』と『圧倒的なオーラ』…これは大げさ(あるいは慣用句的)な表現ではありません。あの場に居合わせたら、全身総毛立つほどに圧倒的な「視覚的・精神的効果」を感じることが出来たと思います。
今日の芝居で(申し訳ないことながら)一番印象的だったことは、多田さんの恐るべき「主役パワー」!これに尽きます。静かな芝居なのに舞台から叩き付けるエネルギーが、まさしく段違い…空気が色を変えた、と言うのも、たとえるなら「青から赤に変わった!」というくらい「可視の」衝撃波です。

初主演の鍛治本さんに、秋の公演『無伴奏ソナタ』で観客の記憶に生々しい「クリスチャン」を壮絶に演じきった多田さん。この二人を舞台で同等に対比させるキャスティングにも唸りましたが、それにも増して感じたのは、多田さんの「大人げない凄まじさ」(絶対「やる気満々」だったのでは、と推測w)――その後も筒井さんや石川さん、岡内さん、小林さんといった周囲の登場人物たちのお芝居に「主役が呑まれていた」印象がぬぐい切れませんでした。

大丈夫かな?
今日の「亮二」は「主役の弟」にしか見えなかったよ?
出てる時間が問題なんじゃない、観てる側に与える印象の問題。

脇が主役喰ってどうする!芝居のバランスやアンサンブルは?というご意見もあると思いますが、今日初日を観る限り、お芝居のレベルで彼我の差は火を見るより明らかでした。シナリオ的なしんどさもあって、涙を流しながらも「これでいいの?」という疑問符がぐるぐる。決して満足のいく終演後ではありませんでした。

でもまだこれから化けるはず!
たった8回しかない舞台。あと7回。

初回を観ておかないと次回やラストまでの変化は私にはわからないでしょう。だからこそ万難を排して東池袋に足を運びました。その価値があると思って舞台を観に行った、その結果「確かにこれを観ておいてよかった」とも思いました。

次は週末、15日に観に行く予定です。

実は全8回のうち4回分のチケットが手元にあり+初日チケも2日分持ってまして・・・つまり最初から行ける日は全部行く気という(笑)だからこそ初回の「う~ん」を何とか飛び越えて次に進化してほしいと思っています。

公演期間の最後には「初日はあんなこと書いたけどすみません、やっぱりすごいです!」とスライディング土下座するくらいの勢いで変化を遂げていてくれることを、心の底から期待しつつ…。






・・・勝手なこと書いて、ごめんなさい。m(_ _)m