徒然草庵 (別館)

人、木石にあらねば時にとりて物に感ずる事無きに非ず。
旅・舞台・ドラマ・映画・コンサート等の記録と感想がメインです。

黄金のポルトガル シントラ・ロカ岬・カスカイス(2012年1月)

2020年05月08日 | 旅行
"Aqui...Onde a terra se acaba e o mar começa"
「ここに地終わり、海始まる」

ポルトガルの詩人ルイス・デ・カモンイスの叙事詩「ウズ・ルジアーダス」の一節を知らなくても、一度は「大陸の果てる場所」に立ってみたいと思っていた私。今回の旅で、はからずも夢が叶うことになった。この日、天気を調べるとリスボン近辺は一週間ほど晴れが続くらしい。冬に雨が多い、曇りがち、と聞いていただけに運が良い。だったら天気のいい日は遠出しなくてはもったいない!罰が当たるというものである。



シントラからロカ岬は観光客にも人気の日帰りコースで、リスボンからの鉄道&バス周遊券が12.50ユーロで出ていると知り、出発日の朝に駅で購入することにした。先の「ロシオ広場」の横にかつてリスボン中央駅だった「ロシオ駅」がある。ロカ岬観光のスタート地点・シントラの町へはここから郊外へ向かう急行電車に乗って40分ほど。リスボンからは西に30キロ弱のところにある。


ロシオ駅の正面は馬蹄の形を模している。

シントラ(wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%A9

日本ではあまり知られていない世界遺産「シントラの歴史地区」は、ポルトガル宮廷がリスボンを離れてここに拠点を置いたことから出来た王の城や貴族の城館、街並みの総称で、昔からお金持ちの貴族や王族が住んでいただけあって、とても綺麗である。小さな駅を出ると、小高い山の中腹にある町の中心まではバスまたは徒歩での移動になる。
ここには7~8世紀にムーア人(北西アフリカのイスラム教徒)によって築かれた山城の石造りの城壁や櫓、塔が現存していて、そこに入れる&登れるようになっている。城壁は12世紀以降ポルトガル支配時代にも修復されたが、今ではほぼ廃墟になり、発掘作業が進められている。どのくらいの規模かというと、戦国時代の山城「春日山城」に登った私でも結構ビビるくらいの大きさ・・・しかも立地は似ている(大西洋から少し引っ込んだ山全体が城)ものの、海抜高度は遥かに高い!








全体像:駅からここまでたどり着くのに2キロ。右上の赤い人マークから、左下の青い「P」まで3キロ。いざ攻略開始!











粗く石で舗装された急勾配の山道をひたすら登って20分。ようやく入口にたどり着くと、今度は城壁の上に登って、さらに稜線伝いに頂上の塔を目指す。気の弱い人は真下を見てはいけない。山の頂に近い場所から、さらに30mはあろうかという城壁がほぼ垂直に築かれていて、うっかり見ようものなら腰から下が竦むこと請け合いである。重機も何にもない時代に、これだけの石だのセメントだのを山の上まで運んで、さらに城まで作った中世の人たちをホントに尊敬する。
天気は良く、日なたに出ると汗ばむほどだが、大西洋から直接に吹き付ける風は冷たく日蔭では身体を突き刺すように感じる。そして突風が吹くとヒヤヒヤドキドキする(笑)。







頂上までたどりつくまでどのくらいかかっただろうか。塔の頂きに翻る「白地に青十字」の旗は、初代ポルトガル王アフォンソ・エンリケスのものだそう(彼の父親がフランスのブルゴーニュ公だったことから似たデザインになっている)。他にも代々のポルトガル王朝の旗、アラビア文字で「シントラ」と記した緑の旗など、風にはためく様は美しい。



ところで・・・登ったら下りなくてはいけない。ここでそろそろ13時、ロカ岬への移動を考えなくてはいけない時間になった。その前に腹ごしらえも!シントラはポルトガルの伝統的なお菓子のいくつかが名産品で、中でもチーズタルト(ケイジャーダ)や定番のエッグタルト、パイ等が有名とのこと。中途半端なレストランよりも、こういう時は美味しいおやつをいっぱい食べよう!と観光客でにぎわう路地裏のカフェへ。

カフェ「ピリキータ ドイス Pitiquita II」




片言ながらもポル語で「あれとそれとこれ2つ!」と注文。

・ケイジャーダ(クリームチーズ入りタルト)×2
・トラウゼイロ(カスタードクリーム入りパイ)×2
・ナタ(エッグタルト)×2
・カフェオレ&エスプレッソ

   

トラウゼイロとはポル語で「枕」。その名の通りコロンとした羽根枕のような形に見える。甘さ控えめで皮はパリパリ、確かに美味しい!お酒の入らない席で、昼間、かつ空腹だったのも手伝って、甘いものを食べない私もペロリと3個を平らげた。さらに食後酒と称して、同じ路地にあるバーで、チョコレートカップに一杯のチェリーリキュール「ジンジャ」を楽しむ我々であった。町のジンジャ屋さんの店先では、有料試飲のように1ユーロでチョコレートの薄いカップに入った甘いジンジャを気軽にふるまってくれる。1杯ずつもらえますか?と2ユーロを差し出すと、美人のお姉さんが「どうぞ!ジンジャも良いですがアーモンド酒もありますよ。こちらの小瓶はお土産に便利です」と愛想よくカップにリキュールを注いでくれた。
「ひと口目はリキュールのみで味わって、ふた口目はチョコのカップをかじって一緒に食べてください」とのこと。





シントラ土産に購入。6ユーロ也。
しかし・・・我々はお菓子とリキュールに浮かれて大事なことを忘れていた!そう・・・ロカ岬行きのバスの時間だ。この旧市街から1.5キロほど離れた駅に向かうバスは1時間に1~2本しかない。そもそも日本ほど頻繁にバスだの電車だのが出ているわけではない。ふと私はガイドブック(注:2011~12年版)を見た。
「つ、次のロカ岬行きのバス!14:10って!」
「今・・・14:05。その次は?」
「15:25」
駅までまだ1キロ弱はある。慌てて走り出す。食べた直後にツライ、と息を切らせてようやくバス停にたどり着いたとき、時計は14:17を指していた。バス停にはバスがいたが、違う路線番号だった。他にも観光客らしいグループがいたので、おそらくロカ岬行きのバスはまだ来ていないのだろう。5分後、無事ロカ岬方面へ向かうバスが来た。
ここからロカ岬を経て、カスカイスに向かう路線バスは観光客でいっぱいだが、沿線の小さな村で止まるたびにおばあさんや地元の小学生が乗り降りしていく。山の上に聳えるシントラの城壁がはるかな遠くに霞んだ頃、バスは田舎道を文字通りの猛スピードで(笑)突っ走っていた。空は青く、緑の丘の合間に黄色いタンポポに似た花が咲き、小さな南欧の村が白い壁をキラキラさせて佇んでいる。バスがひときわ高い丘の上に出ると、一瞬で眼下に大西洋が広がった。いっせいに乗客から「わぁ~!」と歓声が上がる。シントラを出て1時間、もうすぐ到着だ。







到着!!!
乗客みなが興奮気味に岬のほうへ向かうのを横目に、先程ひどく懲りた私は「次のカスカイス行きバス時刻」を確かめるのを忘れなかった・・・。

 ※カスカイス~ロカ岬~シントラの逆路線もある。


ロカ岬全景




カモンイスの詩を刻んだ碑








灯台と大西洋(崖の上に立っているのが分かる)

遮るもののない断崖の上に吹き付ける風は容赦なく、身を切るような強さ。この国ではこの西風を活かして風力発電を始めとする代替エネルギーで国内消費電力の66%を賄っているというが、まさにそれが実感できる。団体旅行のツアーバスも結構来ていて「最西端の地」やはり人気である。5ユーロ払えば「最西端到達証」も発行してくれるというサービスぶり。お約束の記念写真の後は、暫く写真や動画を撮るのに夢中になっていた。
灌木すら生えない中、松葉ボタンを大きくしたような花が地表一面を覆っていた(花の時期にはまだ早いのか、咲いているのはほんのひとつふたつだった)。柵を超えて海面からそそり立つ断崖の真上まで行ってる人もいたけど、さすがにそれは遠慮・・・あの打ち寄せる波の勢いを見ていたら、落ちたら死体は上がるどころかバラバラになって魚の餌、がオチであろう。実際にセルフィーを取っていて転落死した観光客もいるらしい。それにしても圧倒的な風景である。来れて本当に良かった!





次のバスは定刻(16:02)より15分程遅れてロカ岬にやってきた。日没を眺めるには、この時間に着くのが一番便利である(その場合、次の17:47のバスは満員で乗れないというケースもあり得るのが怖いが)。先に並んでいたお陰で座れてホッとする。これは幸運だった。というのも、カスカイスまでの1時間弱、このバスの運転手のヒヤヒヤするような飛ばしっぷりに、ポルトガル人乗客からも「もっとゆっくり走ってぇ~!」と悲鳴が上がるほどだったのだから・・・。陽が大西洋に落ちかかる頃、心臓に悪いバスはカスカイスの町に到着した。

カスカイス(wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%82%A4%E3%82%B9




カスカイスのビーチと漁港

ここはテージョ河が大西洋に注ぐ土地、折角だから綺麗な夕陽が撮れる場所はないか、と小さな町を海辺に沿って歩いてみた。リゾート地らしく、ヨットがたくさん係留してあるマリーナ沿いに灯台があるスポット(昔の要塞跡)を発見。待つことしばし、今日もいい一日の締めくくりになりました。



カスカイスからリスボンの西玄関カイス・ド・ソドレ駅までは約40分。この日の夕食は、バイロ・アルト(繁華街)の裏通りにある、家族経営の小さなポルトガル料理レストランへ。どこも似たような裏通りが続くエリアには他にも小さなレストラン、バーやファド(ポルトガルの伝統民謡)を聴かせるレストランがいっぱい。客引きもいる。



「ア バイウカ A Baiuca」
http://www.tripadvisor.jp/Restaurant_Review-g189158-d2238952-Reviews-A_Baiuca-Lisbon_Estremadura.html

こじんまりとした店内は5つのテーブルでギリギリいっぱいになるほど。どうやらママともう一人がシェフで、ホール長は息子で、手伝ってるのが娘さんかな?と観察。このホール長が大変愛想がよく、英ポ仏伊西の5ヶ国語を駆使しながらテーブルの合間をくるくると小気味よく立ち回り、合間に外のメニューボードを覗きこむ客に「どうぞどうぞ」と声をかけている。
ポルトガル名物「干し鱈料理」を一度食べてみたかったので、何が良いか聞くと「バカリャウ・コン・ナターシュ(干し鱈のクリームかけ+オーブン焼き)」を勧められる。相方は「何かお米料理が食べたい」ということで「アローシュ・デ・パット(ローストダックの炊き込みご飯)」をオーダー。
身体が冷えていたので前菜は「クレーメ・デ・マリーシュコ(温かい海鮮クリームスープ)」をそれぞれ注文。


エビが沈んでます。美味!               


ポルトガル名産ヴィーニョ・ヴェルデ。この「ヴィーニョ・ヴェルデ」、直訳すると「緑のワイン」だが、実際は若めの白で微かにガスが混じった爽やかな飲み心地のポルトガルワインである。特にエビや海鮮系には相性抜群で、滞在中だいたいこればかり。


ソーセージとオリーブが添えてある
        

細かくほぐした干し鱈にあっさりクリームが美味

2品ともとても美味しかった!ものの、量がそれぞれ2~3人分くらいあるので、とても食べ切れない。
ホール長「デザートはいかがですか?チョコレートスフレが特にお勧めですが」
私 「ハハハ・・・これも大変に申し分なく美味しいのだけど、すみません満腹で・・・」
あれだけ空腹だったのに、である。恐るべし、ポルトガル料理の質と量!ちなみにスープが3ユーロ、メインはそれぞれ11ユーロ、ワインも10ユーロ程度で大変に満足のいくCPだった(+パンとバター)。日本人なら4人で来ても多分前菜を2品、メイン2品、で充分なはずだ。



満腹のまま「さて、どうやって帰ろうかな」(ホテルまでは徒歩圏内)・・・とバイロ・アルトの坂を上っていくと、ケーブルカー乗場発見!これは「グロリア線」だ。これに乗ると、ホテルのあるリベルダーデ大通りまですぐである。そしてもうひとつ、いいものを見つけた!



「ソラール・ド・ヴィーニョ・ド・ポルト Solar do Vihno do Porto」
http://www.tripadvisor.jp/Attraction_Review-g189158-d195862-Reviews-Port_Wine_House_Solar_do_Vinho_do_Porto-Lisbon_Estremadura.html



ポートワイン協会直営バーで、選りすぐりのポートワインが格安で飲める!これは行かねばなるまい!本格的な「バー」なので食べ物はハムやオリーブ、チーズ程度。ここのお店はあくまでも「ポートワインの試飲と販売」がメイン・・・と、一応そういうことになっている。ちなみに1杯1.5~4ユーロ程度が手ごろなライン。満足満足♪ 一日の良い締めくくりになった。