徒然草庵 (別館)

人、木石にあらねば時にとりて物に感ずる事無きに非ず。
旅・舞台・ドラマ・映画・コンサート等の記録と感想がメインです。

黄金のポルトガル エストレマドゥラと王妃の村(2012年1月)

2020年05月08日 | 旅行
これは日本に帰ってきてから知ったのだが、『ヨーロッパ百名城』というものがあるそうだ。ノミネートされている100件のうち、実に52件が世界遺産に登録されているという。この選定における「ヨーロッパ」の範囲は「ウラル山脈・黒海・マルマラ海・エーゲ海以西」となっている。城を「防御的構築物」と定義し、古代ギリシャやローマのように市街を城壁で囲って防御している城郭都市も 「個別城郭と共にヨーロッパ城郭の重要な構成要素」という理由でリストに含まれている、とのこと。それぞれが観光名所なだけに、今までの旅で訪れたところも結構入っていて楽しい。

・ウィンザー城(ウィンザー/イギリス)  ・エディンバラ城(エディンバラ/イギリス)
・ロンドン塔(ロンドン/イギリス)  ・城郭都市ヨーク(ヨーク/イギリス)
・エステ城(フェラーラ/イタリア)  ・ヴェッキオ城(ヴェローナ/イタリア)
・スフォルツァ城(ミラノ/イタリア)  ・サンタンジェロ城(ローマ/イタリア)
・城郭都市ポルトヴェーネレ(ポルトヴェーネレ/イタリア) ・ロッカ・ペンネ(サンマリノ)   
・トームペア城(タリン/エストニア)  ・テオドシウスの城壁(イスタンブール/トルコ)
・ホーエンザルツブルグ城(ザルツブルグ/オーストリア) ・プラハ城(プラハ/チェコ)
・城郭都市トレド(トレド/スペイン)  ・ブダ城(ブダペスト/ハンガリー)
・スオメンリンナ(ヘルシンキ/フィンランド) ・クロンボー城(ヘルシンゲル/デンマーク)
・ハイデルベルク城(ハイデルベルク/ドイツ) ・リーメスとザールブルク城(ヘッセン/ドイツ)

ポルトガル国内では3件がリスト入りしている。
・サン・ジョルジェ城(リスボン)
・カステロ・ドス・モウロス(シントラ)=ムーア人の城砦
そして、偶然にも今日は最後のひとつを訪れることになった。向かうはリスボンから北へ80キロ「城郭都市 オビドス Óbidos」である。

  ☆

エストレマドゥラ(Estremadura)とはリスボンを含めたポルトガル中部、大西洋沿岸地方の旧名である。このノスタルジックな響きを持つ地名は、かつてレコンキスタの時代に「(イスラム勢力に対するキリスト教文明圏の)最果ての地」という言葉から生まれた。その意味ではスペインに今も残る同名の州も、また同じ語源を持っている。



この日リスボンを発った高速バスは、11時頃「カルダス・ダ・ライーニャ Cardas da Raihna」のターミナルに無事到着した。(片道7.40€) ここはオビドス観光の起点になる町。リスボンから直接オビドスへ向かうことも勿論可能だが、私たちが「ちょっとした寄り道」を決めたのにはちゃ~んと理由があった。
実はポルトガルに来てから使ったお金は、99%「飲食費」「交通費」「観光施設入場料」だけ。これほどに私の「買い物的好奇心」をそそらない国も珍しい。たとえば、ポルトガルの陶器は、やや厚めのぽってりとした地にブルー&ホワイト、あるいは黄を配した、好意的に言えば素朴な、悪く言えば洗練には遠いしろものである。リスボンやそこらの観光地のお土産屋さんでよく売られているが、芸術面から言うとタイル(アズレージョ)ならいざ知らず、残念ながら「日常の器」としてのクオリティに関しては「その程度のものなら、日本の百均でも買える」としか思えなかった。欧州各地で窯元巡りをしていたせいか、それなりに目も肥えたし、なにより重くて嵩張る陶磁器に関しては、余程気に入ったものでなければ、まず買わない。
しかし、カルダス・ダ・ライーニャの町には「ちょっと気になる」モノがあったのだ。陶器メーカー「ボルダロ・ピニェイロ」(1884年開窯)である。白っぽい粘土製の陶器に色鮮やかな釉薬をかけた「ロウサ・ダス・カルダス(louca das Caldas)」は、19世紀後半にカルダスの町で陶業が一大産業になる際に、大きな役割を果たしたという。当時、芸術家にして風刺画家でもあった創業者ラファエロ・ボルダロ・ピニェイロは、野菜や草花、魚や蟹などを実に見事に写し取った食器や装飾用陶器で一世を風靡する。リスボンには彼の作品を集めた美術館があるほどだ。現存している彼の作品やデザインからモチーフを取り、日常用の食器を作っているのが、現在のボルダロ社である。

工場ならきっとアウトレットやファクトリーショップがあるはずだ!
買わなくても見るだけでもきっと楽しいはずだ!
行って損はない・・・はずだ!

カルダス・ダ・ライーニャとは直訳すると「王妃の温泉」。15世紀末にこの地に沸いた温泉を気に入ったレオノール王妃が、療養所(病院)を建てたことから町ができた。今でも町の中心には病院や湯治のための施設がある。5分も行けば端までたどり着きそうな旧市街地の中心が「共和国広場」。近隣の農家がその朝取れたばかりの瑞々しい野菜や果物、オリーブ漬、ドライフルーツ、パンやお菓子、乳製品を並べている。ヨーロッパの町なら馴染みの風景だ。冬の最中とはいえ温暖なポルトガルらしくレモンやオレンジも山盛りになっている。





巨大なキャベツは私の腕でひとかかえしても足りない。葉にシワの入った「チリメンキャベツ」はこのあたりの特産で、スープや煮物によく使われる。煮込むととても甘くて美味しいらしい。


ちなみにボルダロ社の食器にも「チリメンキャベツ型のスープボウル」がある。





日当たりの良い公園を抜けて、その名も「ラファエロ・ボルダロ・ピニェイロ通り」の53番地に工場はあった。


Bordallo Pinheiro
Rua Rafael Bordalo Pinheiro 53, 2500-246 Caldas da Rainha

成型や絵付けといった作業工程は見ることはできないが、ファクトリーショップとレストランが併設されている。
ちなみにショップの営業時間は月~土:10時~19時(12~13時は昼休み)、日:14時~19時。 (2012年現在)


↑奥まったところに故ラファエロ・ボルダロ・ピニェイロの邸宅兼ミュージアムもある。







カップルが家で使う器を探していたり、家族で来て結婚式の参加者へのギフトを選んでいたり、私たちのような観光ついでに寄ったお客さんもいたり。値段は鯛や蟹を精緻にかたどった大きな作品はそれなりにする(数百ユーロ~)ものの、皿やカップ、ボウルの類は3ユーロほどからと手頃なものがほとんど。


驚いたのは装飾用タイルが15センチ四方くらいのサイズで1枚60ユーロもしていたこと!思わず値札をマジマジと見た。

旅先での買い物に全く興味のない相方が、珍しくシリアル用のボウルを購入。「こういうのは余りシュミじゃないんだけど、見てるうちに欲しくなっちゃって」丸い大きなレモンを二つ割りにしたようなデザインで、かなり可愛い。私は葡萄の葉を象ったシンプルなパスタサイズの白い平皿2枚と、オリーブやスナック用の小皿をひとつ(2枚欲しかったが白は1つしかなかった)。実家へのお土産用で、淡い緑地の上にレモンの花と実を立体的に描いた飾り皿を1枚。それから深い藍色のマグを1個。これを全部かついでオビドスの町まで行くかと思うと少々げんなりするが、仕方ないではないか。オビドス行った後にここまで戻ってる時間はないのだ!
オビドス行きバスがちょうど良いタイミングであり、町歩きからターミナルへ戻った私たちはそれに乗ることにした。片道1.20ユーロ。ちなみにバスターミナルの壁もボルダロ社のタイルで飾られている。





■     ■     ■

カルダス・ダ・ライーニャの起源もそうだが、城郭都市オビドスの別名は『王妃の村』。1282年のこと。小さな山上の村を訪れた、時の王妃イザベルがここを気に入って、夫君であるディニス王が「だったらこの村を貴女にあげよう」とプレゼントしたのが由来である。さすが、王様ともなると村や城のひとつやふたつ、気前の良いことである。それから数百年の間(~1834年)ポルトガル諸王朝歴代の王妃は結婚の時に「ウェディング・ギフト」として人口1000人にも満たないこの地を贈られ、直轄領として治めることになったのだ。


オビドス遠景(高速バスより撮影)









村自体は今も中世の小さな家々と通り、そしてこれまた変わらぬ堅固な城壁に囲まれて残っている。白壁に町のシンボルでもある黄色や青色の縁取りを施した町並みが陽光に眩しい。700mほどのメインストリート脇には特産のチェリーリキュール「ジンジャ」を売るお店がたくさんある。やっぱりチョコレートのカップ入りで1ユーロ。


オビドス城と城外を結ぶ水道橋(16世紀のもの) 


オビドスの城。ここも「ポウサダ」に改装され、全国でも特に人気のある施設だという。レストランも併設。

城壁へは城から少し行ったところの登り口から上がって行く。山の上、さらに崖に沿って高く石壁を築くシントラと同じスタイルなので、当然スリル満点!その代わり、遮るもののない海(西)側の城壁上からはエストレマドゥラの丘陵地と春浅い林や畑、その向こうに広がっている大西洋まで見渡せる。夢中で写真を撮っていたらコンデジのバッテリーがなくなった!というわけで、オビドスの写真は携帯からのものばかり・・・無念。





城壁一周に1時間少々かかった。その後、遅めのランチのための良いレストランがないかガイドブックを見る。せっかくだから、先ほどの城を改装したポウサダにあるレストランはどうか、と再び足を運んでみることにした。ホテルの受付でランチの利用がしたいと申し出ると、非の打ち所なく丁寧な物腰のホテルマンが、城の上階にあるレストランまで案内してくれた。予想通りとても上品なしつらえである。幸いカジュアルな装い(それでも二人ともジャケットは着ていた)だったものの、スタッフが快くホールの中ほどのテーブルを勧めてくれた。その時、私は一段高い出窓のそばにしつらえられた空きテーブルに気づいた。確か、ガイドブックにも「人気があり予約の取れない席」と書いてあった、あの窓際の席だ。





私 「あの席ではいけませんか?」
スタッフ「残念ながら予約が・・・(ここで上役らしき男性が後ろから何か囁いた)少しお待ちください」

暫くして戻ってくると、スタッフは笑顔で「失礼しました。構いません、どうぞ!」と言った。何でもこのテーブルを予約したお客さんは13時半に来ることになっていたのだが、14時現在になっても来ないので「キャンセル扱い」にしてしまったとのこと。これはラッキー!

ランチは食前酒(地元産ジンジャをシャンパンで割り、オレンジを絞ったもの)、前菜2品、メイン。折角なのでこのあたりの食材のものを、とお願いすると「ラムはいかがですか」と来た。ハイ、好物です♪ 飲み物は最初にヴィーニョ・ヴェルデ、そのあとは土地の赤ワインを1杯ずつ。


前菜 インゲンマメの天ぷらっぽいもの


イイダコのサラダ(食器はボルダロ社製!)             


ラムのグリル


相方がメインに頼んだのはシーバス(スズキ)のグリル。いわゆる塩焼きなので、普通に皿に盛られて出てきたが・・・なんと、ウェイターが骨から魚の身を外して、別皿に取り分けるという。衝撃!!な、なんてモッタイナイことを・・・・・・!(←私の心の声) そんなことしなくっても魚は食えるのに。フィレ以外の部分がムダになってしまうではないか!

私 「あの~~~、せっかくなので、取り分けてしまう前に写真撮らせて下さい!」
スタッフ「いいですよ!私たちも一緒に写して貰っていいですか?(と、ポーズをとるw)」
この辺、やはりノリがいいw 


しかし日本人として見てるのがツライ光景でしたよ・・・折角のお魚が~~~お箸持ってこーい!骨だけ残して食べてやる!orz
とはいえ、サービスも味も申し分なし。素晴らしい!!ゆったり食べ過ぎて?既にレストランを出たら16時少し前。リスボン行きのバス(1日22便、午後に限れば4~5便)にはちょうど良い時間帯だった。



行きはRede社のバス、帰りはTejo社の高速バスを利用する。サッカーチーム「スポルティング・リスボン」のホーム「ジョゼ・アルヴァラーデ・スタジアム」脇にあるカンポ・グランデ・バスターミナルに到着したのはちょうど日没直前の時刻となった。

ヨーロッパの美しさは都市よりもむしろ地方にあるのかもしれない。この日は「王妃の村」を文字通り満喫した。



一番気に入っている写真♪