山中理事長(ポーラのクリニックの院長)から、みなさまへ。
「アーンして」
ころりん。
舐めかけの黒色の輝いた飴玉は、喉を診察中の患者のべろからコロコロと診察室の机の足元にまで転げ落ちた。
私は「あ!」とだけ一言発した。
飴玉の出所は、」75歳の背の高い超色黒の男性。
いつもにこにこして、大声なんてあげたことはない。
北海道生まれで職歴不明。
いつも診察室では、左右から袈裟にかけた肩カバンが十文字に、おそらく10年以上は洗っていない夏冬兼用のジャケット。
2年まえの初診の時は、足はわに革のような分厚い皮膚で「洗ってないもん」と。
この世のものとは思えないほどの悪臭を放っていた。
もともとしゃべらないタイプで、しゃべりかけてもまともな返事は返ってこないから、普通は喋りかけない。
飴玉がころりんした後、私と患者はずっと目を合わせたまま約数10秒無言で見合った。
沈黙に我慢できなかったのは、私。
耐えかねて「落ちたよ。」
そしたら患者は座ったまま、しばらくして右足をあげたかと思うと、飴玉のほうに足をのばし、靴底で黒飴をこっちに来い、こっちに来いと手繰り寄せた。
足もとまでクリニックの診察室の床を転がされた飴は、ほこりをまとい、本来の輝きを失っていた。
捨てるんだろうな。
渡した左手で近くのゴミ箱を手にすべく、椅子を回転。
患者のほうへ向きなおったとき、その瞬間。
「パクリ」
男は眼だけにこにこしながら、無言で飴を再開した。
「まだ食べんの!?」と聞いたら、珍しく返事が返ってきた。
「飴だよ。もったいないじゃん」と一言だけ。
ちなみに、患者の病名は“糖尿病”である。
BE WITH YOUさなぎ達
「アーンして」
ころりん。
舐めかけの黒色の輝いた飴玉は、喉を診察中の患者のべろからコロコロと診察室の机の足元にまで転げ落ちた。
私は「あ!」とだけ一言発した。
飴玉の出所は、」75歳の背の高い超色黒の男性。
いつもにこにこして、大声なんてあげたことはない。
北海道生まれで職歴不明。
いつも診察室では、左右から袈裟にかけた肩カバンが十文字に、おそらく10年以上は洗っていない夏冬兼用のジャケット。
2年まえの初診の時は、足はわに革のような分厚い皮膚で「洗ってないもん」と。
この世のものとは思えないほどの悪臭を放っていた。
もともとしゃべらないタイプで、しゃべりかけてもまともな返事は返ってこないから、普通は喋りかけない。
飴玉がころりんした後、私と患者はずっと目を合わせたまま約数10秒無言で見合った。
沈黙に我慢できなかったのは、私。
耐えかねて「落ちたよ。」
そしたら患者は座ったまま、しばらくして右足をあげたかと思うと、飴玉のほうに足をのばし、靴底で黒飴をこっちに来い、こっちに来いと手繰り寄せた。
足もとまでクリニックの診察室の床を転がされた飴は、ほこりをまとい、本来の輝きを失っていた。
捨てるんだろうな。
渡した左手で近くのゴミ箱を手にすべく、椅子を回転。
患者のほうへ向きなおったとき、その瞬間。
「パクリ」
男は眼だけにこにこしながら、無言で飴を再開した。
「まだ食べんの!?」と聞いたら、珍しく返事が返ってきた。
「飴だよ。もったいないじゃん」と一言だけ。
ちなみに、患者の病名は“糖尿病”である。
BE WITH YOUさなぎ達