追憶の彼方。

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トランプリスク・・・(2)

2018年07月20日 | 国際政治

アメリカ隣国メキシコに新興左派政権権が誕生した。前大統領はトランプに従属的で、NAFTAの交渉も弱腰、トランプの口から出続ける中傷にもメキシコ人の名誉を守ることさえ出来なかったのが大きな敗因であると報じられている。
第2次世界大戦後、ラ米諸国ではクーデターが頻発し、軍事独裁政権が数多く誕生したが、メキシコは文民統治体制を維持し「メキシコの奇跡」と呼ばれる高度経済成長を達成、1968年にはラ米地域初の近代オリンピック、メキシコオリンピックを開催している。
産油国メキシコは原油価格の上昇が追い風となったこともあって、経済は堅調を維持していたが、アメリカ等に倣って新自由主義を推進し社会改革よりも経済開発を優先、1992年アメリカの強い要請で米・加・メキシコ3国による北米自由貿易協定(NAFTA)を締結した。
しかし、この協定は徹底した合理主義・市場原理に貫かれて居た為に、大地主や資本家を大いに潤したが先住民や農民といった低所得者層の生活基盤を破壊し極端な貧富の差を生み出した。汚職が蔓延し人口の4割が貧困層という状況が麻薬や犯罪を生み治安の悪化に拍車をかけたが、漸くこの混迷した現状打破に庶民の夢を託され、身の危険をも顧みず颯爽と登場したのがロペス・オブラドール(愛称AMLO)新大統領である。香辛料で有名な「タバスコ」州出身のAMLOはトランプのように汚い手を使ってギリギリの線で大統領になったわけではない。ハンモックに寝ながら先住民インデイオに農業指導を続けてきた様な庶民に寄り添う筋金入りの人物、生まれながらの裕福な家庭に育ち、口先だけで誠意の欠片もないトランプとは凡そ住む世界が違う人物、メキシコ大統領選初めて50%超の票を獲得圧勝して、一般大衆の絶大なる信頼を得ている。夫人は作家で教養・知性・先見性等政治家としての資質はトランプなど足元にも及ばない。
必ずしも反米強硬派ではないが、反トランプである事だけは確かで今後理不尽な要求には断固たる強い立場で対応するだろう。強い相手には弱腰、腰砕けとなるトランプには難敵の出現であることは間違いない。
トランプはNAFTAのメンバーであり隣国でもあるカナダ・メキシコを貿易不均衡を理由に事ある毎に聞くに堪えないような下品な悪口雑言で非難を繰返しているがこの制度は元々アメリカが仕掛けたシステムであり3国の経済発展に大きく寄与してきた。
自国に都合が悪くなるとルールを変えようと主張するのは常に米欧社会の横暴極まりないやり方だ。スポーツの世界も全く同じ、自らの非力・努力不足は認めず成績が悪いのはルールや相手のせいにしたがるのはトランプはじめ西欧人の性癖、見慣れた風景である。
メキシコは第二次世界大戦でラ米ではブラジルとメキシコの2国だけがアメリカをサポートしドイツ・日本と戦った。カナダは9・11アメリカ同時多発テロ事件後のアフガン戦争にアメリカに協力し戦争で多くの自国民の血を流した。トランプには目先の自分ファーストの利益だけで恩義のある隣国への敬意や感謝の念など全く念頭にない。
オバマが努力したキューバとの関係改善策も単にオバマ嫌いというだけで制裁強化策を打ち出してぶち壊してしまった。ハイチ・エルサルバドルからの移民・難民を「肥溜めみたいな国からなんであんなにやってくるんだ」「ハイチ人はみんなエイズに感染している」、大統領が決して口に出してはいけない言葉である。
キューバ危機でもわかる通りカリブ海諸国はアメリカの南の玄関先である。
アメリカは何時までも世界のトップに居られるわけではない。特に経済力では中国に追い抜かれるのは時間の問題である。イギリスの例でも分かる通りトップの座を譲り渡すと国力の低下は加速度を増す。
そのような状況を考えれば地続きの隣国カナダ・メキシコ、更にはカリブ海諸国、南米各国と友好関係を維持して置く事が如何に大事であるか、やがて思い知る事になるだろう。
目先の利益しか見えない近視眼のトランプは当に「トランプリスク」其の物である。

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私にとってメキシコは心の故郷の一つである。メキシコオリンピックで日本がメキシコを下し、アジア初の銅メダル獲得、釜本が得点王、ユネスコ国際フェア―賞を受賞した。3位決定戦は「メヒコ!・メヒコ‼」の応援で始まったが日本のラフプレーの無いフェアーな戦い振りに最後は「ハポン!・ハポン!!」に変わったとも伝え聞いた。体操やマラソンの君原の活躍もあって日本人びいきの人が多く、出張や観光で訪れる度にメキシコ人から随分歓待された。水郷ソチミルコ、テオティワカン のピラミッド,有名なメキシコのダンス音楽マリアッチ発祥の地・グワダラハラ、当時南米はチェ・ゲバラの影響等もあって騒然とし始めていたがメキシコは未だ治安も良く天国の様な国であった。
何よりも懐かしいのは野外音楽堂で聞いたカルロス・サンタナのラテンロックである。「ブラックマジック・ウーマン」「Samba Pa Ti 」この2曲がクラッシック一辺倒からロック・ポップスへの扉を開いてくれた思い出の曲である。