10年前、わたしは母国に妻子のいる留学生と道ならぬ恋をしていた。
ある満月の夜、わたしは妖しく光る月を指差して言った。「見て、なんてきれいな満月でしょう。」
すると彼は、「月を指差すと耳が切り取られてしまうよ」と言って、わたしのひとさし指を彼の手でそっと包んで下ろした。彼の国ではそのような言い伝えがあるのだという。
わたしが勤務する大学の博士課程に籍を置く彼は、頭脳明晰、人柄も良く、スポーツ万能で、カラオケに行けばプロの歌手並みの歌唱力を披露する。この人に出来ないことは何もないのでは?とみんなが思うほど、非の打ちどころのない人だ。誰もが彼に憧れた。
「もう遅いから帰ろう。早く寝るんだよ、お嬢さん」と、彼はからかうように言う。
それが、わたしが耳にした彼の最後の言葉だった。
翌日、彼は大学に姿を現さなかった。今まで一度も休んだことがなかった人なのに。
指導教授も心配して、彼に電話をかけてみたが繋がらない。
わたしは退勤後、彼のアパートへ行ってみた。呼び鈴を鳴らしても応答がないし、電話にも出ない。
翌日も、その翌日も、彼は大学へ来なかった。
さすがにみんな心配して、警察に届けようという話になる。同時に、アパートの大家さんにお願いして、彼の部屋のドアを開けてもらった。
部屋は、わたしが訪れたときと変わらない様子で、家具も電化製品も日用品もそのままに置いてあったから、引っ越したわけではないようだ。
いったい、何が起きたのだろう。何故彼は忽然と姿を消してしまったのだろう。
10年経った今も、彼は行方不明のままである。母国へ帰った形跡もないという。
もしかしたら、満月も彼に恋をして、呼び寄せてしまったのかしら。そんな突拍子もないことを考えたくなるほど、彼の失踪の理由が理解できなかった。
こんにちは。そうなんです、この満月の写真は
十五夜の夜6時半頃撮ったものなんです。
物語もこの月を見て思いついたので、タイムリーだったかな。
k-24さんも結末想像してくれたんですね、嬉しい!
どんな結末か、こっそり教えてください 笑。
コメントありがとうございました♪
こんにちは。うわ嬉しい!物語の結末を想像してくれたなんて、
わたしの狙い通りです 笑。
だからわたしはいつも結末を書かずにいるのです。
読み手によって、想像する結末はそれぞれ異なるだろうし、
それが面白いんだよな~、とわたしは思っているので。
彼が自分の身を犠牲にして「わたし」を助けた、というの、
良い感じ。実はわたしもちょっとその線を考えたのでした 笑。
コメントありがとうございました♪
月夜の二人の様子が、まるで現実のように浮かびました。
すごく引き込まれる文章で
結末を想像しながら楽しめました♪
または、耳を切る魔物は女で、彼に恋をしてしまい、そのまま魔界へと連れ去り、今は魔界のプリンスとなっている…
ダメだ。やはり私には物語のセンスがありません。
こんにちは。
ご挨拶が遅れましたが、とてもストーリーに引き込まれました。月夜の画像と物語の不思議さがリンクしていますね。彼はどこに消えたのでしょう…。