映画"Where the Crawdads Sing" （ザリガニの鳴くところ）

小説が映画化されるたび、複雑な気持ちになる。観ようか、観ないほうがよいか。特に、原作に強く感動した場合は要注意。映画を観てがっかりしてしまうこともあるからだ。

わたしの場合、"Killers of the Flower Moon"と "The Goldfinch"がそうだった。だから、数年前アメリカでベストセラーとなった原作"Where the Crawdads Sing"が2022年に映画化され、それがNetflixで視聴できると知ったときも、迷ってしまった。原作がものすごく衝撃的で深く考えさせられる内容だっただけに、映画がそれを再現できるのか、と。

（原作："Where the Crawdads Sing" by Delia Owens)

それでも、観ることにした。

観終わって、ああ、観て良かったな、と素直に思えた。原作の細かな描写はとても2時間の映画では表現しきれない。それでも、主人公の生まれ育った環境の特異性、それが彼女の人生にどう影響したのか、ということは映像からきちんと伝わってきたし、主人公の心の叫びも感じ取ることができた。原作より美しい物語になっていたのも、映画だからその方が良いのかも、と思った。

衝撃のラスト。わたしは原作を読んだとき、愕然として、そして胸が締め付けられたのだった。幼少時の経験が彼女の価値観を決定づけ、その後どんな素晴らしい出会いがあったとしても、それを変えることはできないものなのか、と。その部分が映画ではオブラートで包んだように描かれていた。原作を読まず映画だけ観た人に、あのラストの深い意味が伝わったのか、それが少し気になった。

自分にとって辛く苦しい環境に置かれたとき、そこから抜け出すか、そのままそこに留まり生き続けるか。どちらを選ぶかはその人次第だし、それぞれ理由があるのだと思う。何が正解か、ということではないだろう。

主人公は、過酷な環境のなかで生きる知恵と美しいものを見出す力を身に付けた。それでも、主人公には一度で良いから別の世界を見て欲しかった、とわたしは思ってしまう。

映画"Where the Crawdads Sing"（邦題：「ザリガニの鳴くところ」）