Set me free!!!

storytellerです。本当に短い物語を書いたり、思い出話や日常の諸々について綴ります。

それは一枚の名刺から始まった

2024-05-17 16:41:38 | 物語

読書が趣味の彼女は、週に一度近所の公共図書館に足を運ぶ。たいてい一度に数冊借りて、面白いと思えば最後まで読み、合わないと思った本は途中で止める。なにより無料というのが、節約を心がける彼女にとってありがたい。

唯一の難点は、すべての本には大勢の人の手垢がついている、というところ。コーヒーや紅茶の染みならまだいいが、ひどく汚らしい、ぎょっとするような染みもある。そういうときはそこのページを触るのが嫌で、本を閉じてしまう。せっかくの面白い話も染みのせいで台無しだ。

それから、本の間には栞紐以外にもいろいろなものが挟まっている。食べ物のかすや人の髪の毛、スーパーのレシート、走り書きのあるメモ用紙。小さい虫の死骸なんていうのもあった。どうせ挟むなら、一万円札にしてほしいと彼女は思う。

ある週末のこと。その日は何も予定がなかったので午前中図書館へ行き、3冊借りてその中の一冊を読み始めた。半分ほど読み進めたところで、一枚の名刺が挟まっているのに気づく。その名刺に印刷されているのは氏名と電話番号のみで、所属機関の名前も所在地も無い。

別に汚いものでもないし、捨てるのは気が引けるので、名刺は本に挟んだままにして読み進めていくことにした。

その日の夕方までには最初の一冊を読み終え、夕食後、二冊目にとりかかる。そして数ページ読んだところで、また同じ名刺が挟まっていることに気づく。

いったい何なの、これ。さすがに彼女は気になった。もしかして、と思い、最後の一冊をぱらぱらっとめくると、果たしてその本にも同じ名刺が挟まっているではないか!!!まるで、彼女からの連絡を待っているかのように。

好奇心の強い彼女は名刺の主の正体を知りたい衝動を抑えらえず、そこに記された番号に電話をかけてみた。

すると、「お電話ありがとうございます。」という魅惑的なバリトンボイスで始まる自動応答メッセージが流れてきた。

「今から3つの質問をいたしますので、お答えください。1.あなたは文書を読むことが好きですか。はいは1、いいえは2を押してください。」

彼女は迷わず1を押す。

「2.あなたは口が堅く、秘密を守れる方ですか。はいは1、いいえは2を押してください。」

これはほんの少し迷ったが、1を押す。

「3.空いた時間でできる報酬の良い副業をお探しですか。はいは1、いいえは2を押してください。」

現在は非常勤で働いている彼女、収入を増やすために副業を探しているところだったので、1を押した。

「ご協力ありがとうございました。お答えいただいた内容について折り返しお電話いたしますので、最後にお電話番号をご入力ください。」

これには躊躇してしまった。この人を信用してもいいのだろうか。詐欺か何かだったら、自分の電話番号を悪用されてしまうかもしれない。とはいえ、3つの質問に答えたことが何に繋がるのか、知りたい気持ちもある。彼女は迷いを振り切って自分の電話番号を入力し、通話を終了した。

30分後。

彼女の携帯電話に電話がかかってくる。見ると、名刺の主の電話番号だ。

「おめでとうございます。あなたは我が社の採用試験に見事合格しました。つきましては、業務内容をご説明しますので、〇月〇日の〇時に、これから申し上げる場所までお越しください。なお、今回の採用については一切他言しないようくれぐれもお願いいたします。」

ここまで来てしまったら後戻りという選択肢はない。危険な匂いに包まれた、彼女の人生の新たな一章が始まる。

 


最新の画像もっと見る

8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ピエリナ)
2024-05-17 21:19:59
こんばんは🤗

私が言うのも何ですが、文章力ありますね。
読んでいてドキドキハラハラしました😅
続きが気になる💦
返信する
サスペンス (storyteller)
2024-05-18 05:49:25
ピエリナさん、おはようございます。
ドキドキハラハラしていただくのが狙いなので、
とっても嬉しいです 笑。
サスペンス調の物語が好きなので、結末はどうしようかな。
どんでん返しにするか、なるほど、となる展開にするか。
まだ迷ってます。続きは少し先になりそうです。

コメントありがとうございました♪
返信する
Unknown (fairy333)
2024-05-18 07:43:16
storytellerさん

おはようございます🌞
これはサスペンスなのか、ファンタジーなのか、もしかしたら、主人公は王子様に出会えるのかもしれない。
私だったら公衆電話から電話してみて、その時点でstopしたでしょう。
だから冒険心がある主人公が羨ましいです!
この先の展開、ドキドキです。

図書館の本、時々食べ物のカケラが挟まってたり、奇妙な匂いかする時がありますね。
本のページをめくる時に指を舐める人がいるでしょ。
本屋でも、そんな光景を見ることがあり(たいていはオッサンか爺ちゃん)
あ〜イヤだな! と思ってたら、アメリカ映画では、紳士や綺麗なお姉さんがこの指舐めをやってるじゃないですか!
アメリカにいた友達が、ごく普通のことよと言ってたので驚きました。

そんな私も新聞を読みながら、指をなめてページをめくってましたわ~m(_ _;)m
お粗末さまでした。🧚‍♀
返信する
斬新なアイディア! (storyteller)
2024-05-18 12:07:09
fairyさん、こんにちは。

ファンタジー、王子様、公衆電話。

わあ、わたしには思いつかない斬新なアイディア!
fairyさんの発想、面白いです。良いです!

しかし、今時どこにあるかもわからない超少数派の公衆電話を
探しに出かけるだけ、その努力に拍手したいです 笑。
本当にどこにあるのかしら、わたしの近所では見かけたことない。

ははは!指舐めね!確かに透明だから目には見えないけど匂いは!?
うわあ、そんなこと想像したら、もう図書館で本借りられないじゃないですか。
といいながら、今日も4冊借りてきちゃいました 笑。

コメントありがとうございました♪
返信する
Unknown (ポンまま)
2024-05-18 21:27:39
これは続きが気になる~( ≧∀≦)ノ
アッと驚く結末なのか
はたまたう~ん、なるほどね、なのか
どちらにしても、ホント楽しみです。
時間が掛かっても全然良いので
是非続きを書いてくださいね~♪
待ってますよ~(*^。^*)
因みにワタクシ、電話もしない小心者です(^^ゞ
返信する
続編 (storyteller)
2024-05-19 06:09:11
ポンままさん、おはようございます。
続きを待っていてくださるというコメント、
とっても励みになります。嬉しいです!
大筋は頭の中で出来上がっているのですが、
なんかありきたりの展開かなあ、
もう一ひねり欲しいなあ、と悩んでいるところです。

ポンままさんは、慎重で現実的なんですよ。
生きる知恵が備わっているってことです。
この「彼女」は危なっかし過ぎますね。
いつ大事件に巻き込まれるか分からないタイプ。
若い頃のわたし自身のようです 苦笑。

コメントありがとうございました♪
返信する
Unknown (ponkd7171)
2024-05-19 10:21:50
storytellerさーん^ - ^
おはようございますm(_ _)m
あ〜人生の岐路!
右か左か?
選ぶか選ばざるか?
実は私も最近、そんな岐路に😅
あ、残念ながら恋愛ではないですよ!
選んで良かった?選ばなくて後悔?
本当に人生って面白いですね^ - ^

このお話しと連動していて、電波発信の
面白さも感じられるお話しでした!

あ、それに本は大切に扱って欲しいですね〜
彼女の選択はいかに〜😊

楽しかったです!
ありがとうございました♪
ひいこより🥰💓🌀
返信する
岐路 (storyteller)
2024-05-19 14:02:20
ひいこさ~ん、久々にブログが更新されていて、
ほっとしました&小躍りしました!
しばらくはお忙しい日々が続きそうだけど、
無理せずマイペースでね。

人生の岐路。気になるメッセージです。
もしかして?(恋愛でないとしたら?)
ひいこさんにとって吉と出るお話なら
応援します!!!フレーフレー。

コメントありがとうございました♪
返信する

コメントを投稿