電車のなかで向かい側の席に座った西洋人の男に声をかけられた。
私はその時に、樋口一葉を読んでいた。
その人は、じょうずな日本語で、
「あなたがこのような本を読むのは職業的な理由からですか」
と聞いた。
現代では、スーツ姿の中年男が好んで読む種類の本ではなく、すでに文体からして古典といってもよい分野の本だけに、私を国語教師か研究者かと思ったのだろう。
日本語が上手ですね、と聞けば、奥さんは日本人だという。
いずれにせよ、普通の日本人よりは日本の歴史に通じており、日本のことに興味を深く持っている方であった。
しばらく話をしているうちに、東京駅に近づくと、彼は名刺をくれて、明日の日曜日の朝は空いているから、ぜひ続きの話をしましょうということで、家に招いてくれた。
名刺の肩書きはアメリカ大使館一等書記官。
住所はアメリカ大使館の職員住宅である。
おそらくは、生涯立ち入ることのできるような施設ではなく、めずらしいことでもあり、日曜は担当先の問屋さんたちも休みなので、遠慮なく訪ねることにした。
日本の警察官が警備する門を入ると、建物がいくつかありそれぞれにペリー・タワー、ハリス・タワー、グルー・タワーと名前がついている。
ペリーとハリスについては知っていたが、グルーについてはその時は未知で、帰って調べたら戦前の駐日アメリカ大使だという。
しかし、くわしい事跡は知らないままに時を過ごしていたが、昨年ミネルヴァ書房から出版された本のことを知り、正月休みに読むことができた。
収穫の大きい本だった。
知りえたことをいくつかメモしておきます。
・グルーは、最後の最後まで日米開戦を阻止するために奔走した
・天皇陛下はけっして開戦を望んでいなかった
・開戦に反対の政治家は少なからずいた
・軍部の暴走に歯止めがきかなかった
・大使館職員(日本人)とグルーをはじめとする外交官とその家族との素敵な交流があったこと
・日本人の名士たちとグルーをはじめとする外交官とその家族との紳士的で素敵な交流があった こと
・戦後の日本の皇室存続に尽力したこと
・政治や外交の局面には、関わる人によって大きな違いが発生すること
などなど。
・・・・・
廣部 泉 著
「グルー」
ミネルヴァ書房
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