新月のサソリ

空想・幻想・詩・たまにリアル。
孤独に沈みたい。光に癒やされたい。
ふと浮かぶ思い。そんな色々。

薄いベールの向こうから en

2024-08-12 11:05:00 | Short Short

目覚めると《ピンクの象》が来ていた。
あれ、久しぶり。
相変わらず不機嫌そうにのしのしとそこいらじゅうを歩き回っている。

この前来てからずいぶん経つ。
こちらも忙しくしていたので、もしかすると気づかなかっただけかも知れないが、まぁ時期としては今頃がビンゴといったところか。
このところ環境が変わり、自分をよく知る友人たちといささかご無沙汰になっていた。なので久しぶりに訪れたピンクがすこし愛おしいような懐かしいような、いつもよりほっこりとした心持ちで歓迎している自分がいる。勝手なものだ。

それにしてもこのピンク、ここへ来るタイミングはぴんと来るようになってはきたが、一体ここへ来て何だというのだろう。こちらとしては彼(又は彼女)が来ることで、ある種自分のバロメーターになっている側面はあるが、ピンクにしてみればこちらの心情やら何やらがあちらの事情に関係して、それでここへ来るというような関連性があるのだろうか。

今日はどんな様子だろう。
とは言えいつも通り不機嫌の中の薄いグラデーションを窺うだけなのだが。
「ん?」
ピンクの向こう側に何か見えた気がした。
覗き込むとピンクよりもふたまわり程小さな、ピンクよりもすこし淡いピンクの象がヨチヨチと元祖ピンクにくっついてまわっている。
「あぁっ」思わず声が出た。
元祖ピンクがチラッとこちらを見たが、愛想もなくぷいっとまた背を向けのしのしと行く。しかしチビピンクがこちらを見て立ち止まり、短いしっぽをふさふさとかわいい素振りで振っている。元祖に隙がない分、このチビ、たまらなく可愛い。

思わず手を出しかけてふとためらった。触ってもいいのだろうか。
こちら側の我々とあちら側の彼らとは次元が違う。と、思う。次元が違う相手を果たして不用意に触ってしまっては、均衡を保っている何かが崩れるのではないか、そんな気がして躊躇した。
するとこちらの思いを察知したように元祖ピンクが素早くのしのしと間に割って入った。
「あぁ、やっぱり駄目なんだ、ごめんごめん」

それでも元祖は、チビをこちらから見える位置にお尻でぷんっと突いて移動させ、その向こう側をのしのしと歩いて行く。ヨチヨチとチビがついて行く。
なんだ、いいとこあるんじゃない。

久しぶりに穏やかな気持ちで、彼らが部屋中をのしのしヨチヨチ歩き回るのをひとしきり眺めていた。
今日は、すこしゆっくりしていけばいいのにな。



(関連・次話前話)




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