「ムハンマイド……」ジェシルは呆れた口調になる。「あなた、天才とか言われているけど、世間知らずの自惚れ屋なだけね」
「ボクは信じていたんだ……」ムハンマイドがつぶやく。「……オーランド・ゼムは大ボス中の大ボスだ。そんな人物が、ボクの話を聞いて、シンジケートを潰そうと言ってくれた。これからは若者たちが中心になる時代だとも言ってくれた。ボクは感激した。話の分かる年寄りも居るんだとね……」
「それで、オーランド・ゼムを擁護するようなことを言っていたのね……」ジェシルは溜め息をつく。「でも、実際は、良いように転がされていただけだった……」
「そう言う事になるな……」ムハンマイドは悔しそうな表情でオーランド・ゼムを睨みつけ、声を荒げる。「ボクは信じていたんだぞ! シンジケートを粉砕するために、あの武器を作ったんだぞ!」」
「おお、怖ぁい……」ミュウミュウがわざとらしく肩をすくめ、オーランド・ゼムの背中に隠れて見せた。「ボクちゃん、そんなに怒らないで。ふふふ……」
「くそう……」ムハンマイドは座り込み、自分の腿を自分の拳で叩く。「なんて事だ…… 武器はユニットに分けて積み込んじまった……」
「感謝しているよ、ムハンマイド君」オーランド・ゼムが言って、軽く頭を下げる。「色々と、わたしたちの手間を省いてくれたからね」
「青臭いのよ!」そう言いながら、ミュウミュウはオーランド・ゼムの背後から出て来る。むっとした顔だった。「何不自由無く育って、しかも、みんなが認めるほどの才能もあって。でもね、世間知らずは、結局は利用されるだけなのよ。わたしたちは影では馬鹿にしていたわ」
「ひどい事をするものね……」ジェシルはミュウミュウを見る。「どうしてそこまで……」
「ジェシル……」オーランド・ゼムが言う。「ミュウミュウの出身の話、あれは本当の事なのだよ。ボスワイ星とベスワイ星とビスワイ星とがある宙域は、我々シンジケートも付け入る事が出来ないでいたのだよ。まあ、稼ぎが上がりそうもない場所だから構わないのだがね。……ミュウミュウはかなり辛い思いをしていたのは確かだ」
「生きる事に無頓着でいられるヤツらは、皆死ねば良いんだわ!」ミュウミュウは吐き捨て、ムハンマイドを見る。「そして、世間知らずの甘ちゃんたちもね!」
「ミュウミュウ……」ジェシルが言う。「苦労した事には同情するけど、考え方がひねくれ過ぎているわ」
「あなたは貴族出身じゃない!」ミュウミュウはジェシルを睨む。「それに一族は皆一流なんですってね。あのばあさんが常々愚痴っていたから、イヤでも聞かされていたわ」
「それはわたしが望んだ事ではないわ。たまたまなのよ」
「じゃあ、わたしが、あのどうしようもない星に産まれたのも、たまたまだって言うの? わたしが毎日死と隣り合わせで生きていた日々、あなたは優雅に過ごしていたんじゃないの?」
「はっきり言うけど、知った事じゃ無いわよ!」ジェシルが声を荒げる。「人って、与えらえたそれぞれの環境で生きるしかないじゃない! それに、あなたはその辛い中から抜け出したんじゃないの! それなのに、悪に手を染めるなんて!」
「ふん! 偉そうに言うんじゃないわ!」ミュウミュウも声を荒げる。「あなた、わたしの話を聞いて、すぐに評議院に手を回したじゃない? それよ! わたしが嫌いなのは! 権力を持つヤツはすぐにそれをひけらかす。わたしの星でもそうだった。互いが貧しいはずなのに、ちょっとでも優位に立つと、とたんに威張り散らし始める。思い出しても吐き気がするわ!」
「わたしは自分のためには使わないわ!」ジェシルが言う。「それに、あなたのためにでもないわ。あなたの星の、これからの人たちを助けようとしたのよ」
「それは権力を持つヤツらの言い草よね。ずかずかと乗り込んで来て、自分たちの正義の基準で裁くのよね」
「でも、今回のは、明らかにベスワイ星とビスワイ星とに問題があるじゃない! それに、あなたが話をしなければ分からなかったわ。わたしに話をしたって言う事は、わたしの持つ権力を知っていて、何とかしてほしかったんじゃないの?」
「そうね。それは言えているわ……」ミュウミュウは言うと笑む。しかし、残忍な笑みだった。「わたしは復讐がしたかっただけ。でも、わたしにはそんな力は無い。ところが、ここにそれが出来るヤツがいる。利用するしかないじゃない? ちょっと同情を誘う振りをすれば、思惑通りになったわ。……ジェシル、あなたの単純ね。やっぱり、貴族のご令嬢様だわ!」
「結局、あなたも権力を欲しがっているんじゃない!」
「うるさいわね! 生まれつき何も無い者はね、上を目指すのが当然なのよ! 生きるためにね、何でも利用するのさ!」
「じゃあ、あなたは、オーランド・ゼムも利用しているって事じゃない!」ジェシルはオーランド・ゼムを見る。「あなた、それで良いの? こんな小娘に振り回されて?」
「振り回されるねぇ……」オーランド・ゼムはつぶやく。「そうかも知れない、いや、確かにそうだな。でもね、わたしはそれで構わないのだよ。実はわたしの方が惚れ込んでしまったのさ。この悪人っぷりにね。ミュウミュウなら、わたしの後継者となれるだろう」
「どうして、そこまで肩を持つの?」
「知りたい?」ミュウミュウが言う。悪人全開の黒い笑みを浮かべる。「おんぼろの宇宙船で脱出を計画したって話したでしょ?」
「決行日に密告があって、あなただけが脱出したって言ったわね……」そう言って、ジェシルは、はっとする。「まさか、密告者って……」
「そう、わたしよ。……あの時の男どもなんてチョロかったわ。普段から、気の弱い大人しくて純情な娘を演じていたからね。わたしが何も言わなくても、わたしだけを脱出させてくれたわ。ま、そうなるように色々と仕向けていたんだけどね」
「あなたって、極悪人ね……」
「そう言う所にわたしが惚れ込んだのさ」オーランド・ゼムはそう言うとミュウミュウを熱い眼差しで見つめる。「……まあ、もちろん、女性としてもね」
「もうたくさんだわ!」ジェシルは思い切りイヤな顔をする。その顔のままオーランド・ゼムを見る。「オーランド・ゼム、じゃあ、シンジケート潰しって、本当の目的は何なの?」
「わたしに敵対するグループが僅かだが存在する。邪魔くさくてねぇ。一掃してやろうと考えたのだよ。ムハンマイド君が役に立ってくれたよ。まあ、武器を作るように言ったのはわたしだけどね。それを正直に受け止めて、素晴らしい武器を作ってくれた。改めて感謝するよ。……そうだ、これを使って、宇宙パトロールの本部も攻撃しようかね。ビョンドルには昔お世話になったからねぇ……」
「執念深い年寄りね……」ジェシルはうんざりする。「アーセルは、この事を知っていたの?」
「アーセルか……」オーランド・ゼムは含み笑いをする。「あいつは、単にわたしの気まぐれで参加させたのだよ。わたしはあいつが嫌いだったのさ。いつも酔っぱらっていて、乱暴で、思慮が無い。あいつのせいで、何度も危ない目に遭ったからねぇ。そのお返しさ」
つづく
「ボクは信じていたんだ……」ムハンマイドがつぶやく。「……オーランド・ゼムは大ボス中の大ボスだ。そんな人物が、ボクの話を聞いて、シンジケートを潰そうと言ってくれた。これからは若者たちが中心になる時代だとも言ってくれた。ボクは感激した。話の分かる年寄りも居るんだとね……」
「それで、オーランド・ゼムを擁護するようなことを言っていたのね……」ジェシルは溜め息をつく。「でも、実際は、良いように転がされていただけだった……」
「そう言う事になるな……」ムハンマイドは悔しそうな表情でオーランド・ゼムを睨みつけ、声を荒げる。「ボクは信じていたんだぞ! シンジケートを粉砕するために、あの武器を作ったんだぞ!」」
「おお、怖ぁい……」ミュウミュウがわざとらしく肩をすくめ、オーランド・ゼムの背中に隠れて見せた。「ボクちゃん、そんなに怒らないで。ふふふ……」
「くそう……」ムハンマイドは座り込み、自分の腿を自分の拳で叩く。「なんて事だ…… 武器はユニットに分けて積み込んじまった……」
「感謝しているよ、ムハンマイド君」オーランド・ゼムが言って、軽く頭を下げる。「色々と、わたしたちの手間を省いてくれたからね」
「青臭いのよ!」そう言いながら、ミュウミュウはオーランド・ゼムの背後から出て来る。むっとした顔だった。「何不自由無く育って、しかも、みんなが認めるほどの才能もあって。でもね、世間知らずは、結局は利用されるだけなのよ。わたしたちは影では馬鹿にしていたわ」
「ひどい事をするものね……」ジェシルはミュウミュウを見る。「どうしてそこまで……」
「ジェシル……」オーランド・ゼムが言う。「ミュウミュウの出身の話、あれは本当の事なのだよ。ボスワイ星とベスワイ星とビスワイ星とがある宙域は、我々シンジケートも付け入る事が出来ないでいたのだよ。まあ、稼ぎが上がりそうもない場所だから構わないのだがね。……ミュウミュウはかなり辛い思いをしていたのは確かだ」
「生きる事に無頓着でいられるヤツらは、皆死ねば良いんだわ!」ミュウミュウは吐き捨て、ムハンマイドを見る。「そして、世間知らずの甘ちゃんたちもね!」
「ミュウミュウ……」ジェシルが言う。「苦労した事には同情するけど、考え方がひねくれ過ぎているわ」
「あなたは貴族出身じゃない!」ミュウミュウはジェシルを睨む。「それに一族は皆一流なんですってね。あのばあさんが常々愚痴っていたから、イヤでも聞かされていたわ」
「それはわたしが望んだ事ではないわ。たまたまなのよ」
「じゃあ、わたしが、あのどうしようもない星に産まれたのも、たまたまだって言うの? わたしが毎日死と隣り合わせで生きていた日々、あなたは優雅に過ごしていたんじゃないの?」
「はっきり言うけど、知った事じゃ無いわよ!」ジェシルが声を荒げる。「人って、与えらえたそれぞれの環境で生きるしかないじゃない! それに、あなたはその辛い中から抜け出したんじゃないの! それなのに、悪に手を染めるなんて!」
「ふん! 偉そうに言うんじゃないわ!」ミュウミュウも声を荒げる。「あなた、わたしの話を聞いて、すぐに評議院に手を回したじゃない? それよ! わたしが嫌いなのは! 権力を持つヤツはすぐにそれをひけらかす。わたしの星でもそうだった。互いが貧しいはずなのに、ちょっとでも優位に立つと、とたんに威張り散らし始める。思い出しても吐き気がするわ!」
「わたしは自分のためには使わないわ!」ジェシルが言う。「それに、あなたのためにでもないわ。あなたの星の、これからの人たちを助けようとしたのよ」
「それは権力を持つヤツらの言い草よね。ずかずかと乗り込んで来て、自分たちの正義の基準で裁くのよね」
「でも、今回のは、明らかにベスワイ星とビスワイ星とに問題があるじゃない! それに、あなたが話をしなければ分からなかったわ。わたしに話をしたって言う事は、わたしの持つ権力を知っていて、何とかしてほしかったんじゃないの?」
「そうね。それは言えているわ……」ミュウミュウは言うと笑む。しかし、残忍な笑みだった。「わたしは復讐がしたかっただけ。でも、わたしにはそんな力は無い。ところが、ここにそれが出来るヤツがいる。利用するしかないじゃない? ちょっと同情を誘う振りをすれば、思惑通りになったわ。……ジェシル、あなたの単純ね。やっぱり、貴族のご令嬢様だわ!」
「結局、あなたも権力を欲しがっているんじゃない!」
「うるさいわね! 生まれつき何も無い者はね、上を目指すのが当然なのよ! 生きるためにね、何でも利用するのさ!」
「じゃあ、あなたは、オーランド・ゼムも利用しているって事じゃない!」ジェシルはオーランド・ゼムを見る。「あなた、それで良いの? こんな小娘に振り回されて?」
「振り回されるねぇ……」オーランド・ゼムはつぶやく。「そうかも知れない、いや、確かにそうだな。でもね、わたしはそれで構わないのだよ。実はわたしの方が惚れ込んでしまったのさ。この悪人っぷりにね。ミュウミュウなら、わたしの後継者となれるだろう」
「どうして、そこまで肩を持つの?」
「知りたい?」ミュウミュウが言う。悪人全開の黒い笑みを浮かべる。「おんぼろの宇宙船で脱出を計画したって話したでしょ?」
「決行日に密告があって、あなただけが脱出したって言ったわね……」そう言って、ジェシルは、はっとする。「まさか、密告者って……」
「そう、わたしよ。……あの時の男どもなんてチョロかったわ。普段から、気の弱い大人しくて純情な娘を演じていたからね。わたしが何も言わなくても、わたしだけを脱出させてくれたわ。ま、そうなるように色々と仕向けていたんだけどね」
「あなたって、極悪人ね……」
「そう言う所にわたしが惚れ込んだのさ」オーランド・ゼムはそう言うとミュウミュウを熱い眼差しで見つめる。「……まあ、もちろん、女性としてもね」
「もうたくさんだわ!」ジェシルは思い切りイヤな顔をする。その顔のままオーランド・ゼムを見る。「オーランド・ゼム、じゃあ、シンジケート潰しって、本当の目的は何なの?」
「わたしに敵対するグループが僅かだが存在する。邪魔くさくてねぇ。一掃してやろうと考えたのだよ。ムハンマイド君が役に立ってくれたよ。まあ、武器を作るように言ったのはわたしだけどね。それを正直に受け止めて、素晴らしい武器を作ってくれた。改めて感謝するよ。……そうだ、これを使って、宇宙パトロールの本部も攻撃しようかね。ビョンドルには昔お世話になったからねぇ……」
「執念深い年寄りね……」ジェシルはうんざりする。「アーセルは、この事を知っていたの?」
「アーセルか……」オーランド・ゼムは含み笑いをする。「あいつは、単にわたしの気まぐれで参加させたのだよ。わたしはあいつが嫌いだったのさ。いつも酔っぱらっていて、乱暴で、思慮が無い。あいつのせいで、何度も危ない目に遭ったからねぇ。そのお返しさ」
つづく
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