「ひどい、それだけの理由で……」ジェシルはつぶやく。「じゃあ、リタも気に食わなかったの?」
「それは、わたしよ」ミュウミュウは笑む。しかし、目は笑っていない。「あの世間知らずのわがままばばあには、うんざりだったからね。右に置い物を左に置き直せって言われて、そうしたら、やっぱり右にしようなんてさ。そんな感じの毎日だったわ。でも、生きるためって割り切っていたのよ。だけどさ、心の中では殺意が膨れ上がって行ったわ。もちろん、顔にも態度にも現わさなかったけどね」
「……リタを絞め殺したのって、あなたなの?」
「あれは、わたしじゃないわ」ミュウミュウは言うと、オーランド・ゼムを見る。「わたしは、あのばあさんを何とかしてほしいって、前から彼にお願いしていただけ」
「そう言うわけだ」オーランド・ゼムは笑む。「ハービィじゃなけど、ハニーに頼まれたら、イヤとは言えないだろう?」
「ふざけた事を言わないで!」ジェシルは声を荒げる。「そんな馬鹿な頼み事を受けるなんて、どうかしているわよ!」
「それだけ、真剣な頼みだったのだよ、ジェシル」オーランド・ゼムは真顔になる。「わたしも、リタと知り合った頃から、そのわがままさに辟易したものだったよ。まあ、本人はそう生まれ育ってしまったのだから自覚は全くなかったがね。それでも、さすがのわたしも辛くなった。リタから離れた理由の一つだね。それも、大きな理由だよ」
「じゃあ、あなたが殺し屋にやらせたのね……」
「そうよ。オーランド・ゼムが手筈を整えてくれたわ」ミュウミュウが言い、残忍な笑みを浮かべる。「でもね、本当に殺し屋が来るのか、本当に殺すのかって言うのが気になってね。……わたし、立ち会ったのよ」
「何ですってぇ!」ジェシルは驚く。「あなたって……」
「何とでも思うが良いわ」ミュウミュウは平然として笑みを浮かべている。「……あのばあさん、寝ていたから、大して苦しみもしなかったわ。でもね、最期に『ぐえぇ!』って変な声を出してね。可笑しかったわあ!」
「……あなた、イカレてるわ……」ジェシルは、笑うミュウミュウを見る。「人として終わっているわ……」
「まあ、そう言うなよ、ジェシル」オーランド・ゼムが言う。「良いじゃないか。わたしの後継者に相応しいよ。わたしは満足している」
「こんなヤツらに振り回されていたなんて……」ジェシルはため息をついた。「……それで、殺し屋はどうやったの?」
「殺し屋君は、用件を済ませたと言う事で、わたしに支払いの残り分を求めに現われた。出来によって残り分を増額すると言っておいたからね。殺し屋君は、どうだと言わんばかりに得意気な顔で現われたよ」オーランド・ゼムは思い出し笑いをしている。「わたしは配下のベスタの伝手で、このフリーランスの殺し屋君を使ったのさ。殺し屋君が異次元空間を出入りできたのもベスタに手を貸してもらったのだよ」
「じゃあ、ベスタが敵対していて、わたしたちを狙っていると言う話は嘘だったのね」
「そう言う事になるね」オーランド・ゼムはうなずく。「周囲に気を張る君の姿は中々滑稽だったね」
「うるさいわね!」ジェシルが噛みつく。「……それで、殺し屋を撃ったのね?」
「ああ、すっかり油断していたからね。ミュウミュウも殺し屋に優しく絡んでいたからね。殺し屋君の鼻の下がすっかり伸び切っていたよ。ちょっと妬けたね」
「あれも演技よ。銃を奪い取るためのね」ミュウミュウが言って、オーランド・ゼムの肩に寄り添う。「本気はあなただけよ」
「わたしもうんと殺し屋君の腕を誉めてね、専属の殺し屋にしたいとまで言ったよ。もちろん、演技だったがね」
「殺し屋が撃たれた時も傑作だったわよ」ミュウミュウは残忍に笑う。「オーランド・ゼムがすっと銃を向けた時、本当に驚いていたわね。金は要らない、殺さないでくれとか言っていたけど。丸腰の殺し屋って、みっともなかったわ。それで、撃たれて即死よ。仰向けに倒れてさ、驚いた顔のまんまだったわね。笑っちゃったわ」
「それから、ミュウミュウが奪った銃を殺し屋君に持たせて、君たちの所に行ったのだよ」
「わたし、戻って来た時に、あなたが肩にケガをしているのを見て、本当に驚いて心配したわ」ミュウミュウはオーランド・ゼムを見る。その眼差しは優しい。「殺し屋が最後の力を振り絞ったのかと思って、切り刻んでやりたい衝動を抑えるのに必死だったわ。……でも自演だと知ってほっとしたわ。ダメよ、無茶をしたら」
「ははは、心配をかけたね」オーランド・ゼムが笑う。「でもね、少しは大変そうにしておかないとね。ジェシルは優秀な宇宙パトロール捜査官だ。少しでも疑われないようにしなくてはならないのさ」
「そんなに、ジェシルって凄腕なの?」ミュウミュウは疑わしげにジェシルを見る。「たしかに暴れっぷりは凄かったけど、頭の方はどうかしらね?」
「ふん!」ジェシルは鼻を鳴らす。「悪知恵なら、あなたに完敗だわね!」
「悪知恵ですってぇ!」ミュウミュウが声を荒げてジェシルを睨む。「さっきも言ったじゃない! これが生き残るための、貧しい者の、精一杯の知恵なのよ!」
「みんながみんな、悪知恵で生きているわけじゃないでしょ? あなたは、元々が悪人だって話なのよ!」
「何とでも言うが良いわ!」ミュウミュウは熱線銃の銃口をジェシルの顔に向けた。「もう話す事は無いわ。あなたも用済みね。死んでもらうわ。でも、ただ殺すのはつまらない。熱線銃のパワーを下げて、あなたのその可愛い顔を焼いてやるわね。それでもがき苦しませて、その後に殺してあげるわ」
「あなた、銃が無ければ、何も出来ないのね」
「そうよ、それがどうかしたの? あのケレスと互角に闘うような女と、まともに組み合うわけ無いじゃない? ダメよ、そんな挑発をしても」
「そう言う事だ、ジェシル」オーランド・ゼムも光線銃の銃口をジェシルに向ける。「下手な動きをすると、その豊かな胸とお尻に穴が開くぞぉ」
「……やれやれ……」ジェシルはどっかりと床に座った。「分かったわよ。勝手にしたら?」
「あら、覚悟が良いのね。泣いて命乞いをすると思っていたのに……」ミュウミュウがつまらなさそうに言う。「それって、貴族のプライドなのかしら? ……まあ、良いわ」
ミュウミュウの笑みが残忍なものに変わり、指が引き金を絞り始める。ジェシルはじっと銃口を見つめる。
「待て!」
叫んだのは、ムハンマイドだった。ミュウミュウは面倒くさそうにムハンマイドを見る。
「何よ! これから良い所なのに!」
「ジェシルに何かするつもりなら、ボクはこの宇宙船を直さないぞ!」
ムハンマイドはありったけの勇気を搾り出して言うと、ミュウミュウとオーランド・ゼムを睨みつけた。
つづく
「それは、わたしよ」ミュウミュウは笑む。しかし、目は笑っていない。「あの世間知らずのわがままばばあには、うんざりだったからね。右に置い物を左に置き直せって言われて、そうしたら、やっぱり右にしようなんてさ。そんな感じの毎日だったわ。でも、生きるためって割り切っていたのよ。だけどさ、心の中では殺意が膨れ上がって行ったわ。もちろん、顔にも態度にも現わさなかったけどね」
「……リタを絞め殺したのって、あなたなの?」
「あれは、わたしじゃないわ」ミュウミュウは言うと、オーランド・ゼムを見る。「わたしは、あのばあさんを何とかしてほしいって、前から彼にお願いしていただけ」
「そう言うわけだ」オーランド・ゼムは笑む。「ハービィじゃなけど、ハニーに頼まれたら、イヤとは言えないだろう?」
「ふざけた事を言わないで!」ジェシルは声を荒げる。「そんな馬鹿な頼み事を受けるなんて、どうかしているわよ!」
「それだけ、真剣な頼みだったのだよ、ジェシル」オーランド・ゼムは真顔になる。「わたしも、リタと知り合った頃から、そのわがままさに辟易したものだったよ。まあ、本人はそう生まれ育ってしまったのだから自覚は全くなかったがね。それでも、さすがのわたしも辛くなった。リタから離れた理由の一つだね。それも、大きな理由だよ」
「じゃあ、あなたが殺し屋にやらせたのね……」
「そうよ。オーランド・ゼムが手筈を整えてくれたわ」ミュウミュウが言い、残忍な笑みを浮かべる。「でもね、本当に殺し屋が来るのか、本当に殺すのかって言うのが気になってね。……わたし、立ち会ったのよ」
「何ですってぇ!」ジェシルは驚く。「あなたって……」
「何とでも思うが良いわ」ミュウミュウは平然として笑みを浮かべている。「……あのばあさん、寝ていたから、大して苦しみもしなかったわ。でもね、最期に『ぐえぇ!』って変な声を出してね。可笑しかったわあ!」
「……あなた、イカレてるわ……」ジェシルは、笑うミュウミュウを見る。「人として終わっているわ……」
「まあ、そう言うなよ、ジェシル」オーランド・ゼムが言う。「良いじゃないか。わたしの後継者に相応しいよ。わたしは満足している」
「こんなヤツらに振り回されていたなんて……」ジェシルはため息をついた。「……それで、殺し屋はどうやったの?」
「殺し屋君は、用件を済ませたと言う事で、わたしに支払いの残り分を求めに現われた。出来によって残り分を増額すると言っておいたからね。殺し屋君は、どうだと言わんばかりに得意気な顔で現われたよ」オーランド・ゼムは思い出し笑いをしている。「わたしは配下のベスタの伝手で、このフリーランスの殺し屋君を使ったのさ。殺し屋君が異次元空間を出入りできたのもベスタに手を貸してもらったのだよ」
「じゃあ、ベスタが敵対していて、わたしたちを狙っていると言う話は嘘だったのね」
「そう言う事になるね」オーランド・ゼムはうなずく。「周囲に気を張る君の姿は中々滑稽だったね」
「うるさいわね!」ジェシルが噛みつく。「……それで、殺し屋を撃ったのね?」
「ああ、すっかり油断していたからね。ミュウミュウも殺し屋に優しく絡んでいたからね。殺し屋君の鼻の下がすっかり伸び切っていたよ。ちょっと妬けたね」
「あれも演技よ。銃を奪い取るためのね」ミュウミュウが言って、オーランド・ゼムの肩に寄り添う。「本気はあなただけよ」
「わたしもうんと殺し屋君の腕を誉めてね、専属の殺し屋にしたいとまで言ったよ。もちろん、演技だったがね」
「殺し屋が撃たれた時も傑作だったわよ」ミュウミュウは残忍に笑う。「オーランド・ゼムがすっと銃を向けた時、本当に驚いていたわね。金は要らない、殺さないでくれとか言っていたけど。丸腰の殺し屋って、みっともなかったわ。それで、撃たれて即死よ。仰向けに倒れてさ、驚いた顔のまんまだったわね。笑っちゃったわ」
「それから、ミュウミュウが奪った銃を殺し屋君に持たせて、君たちの所に行ったのだよ」
「わたし、戻って来た時に、あなたが肩にケガをしているのを見て、本当に驚いて心配したわ」ミュウミュウはオーランド・ゼムを見る。その眼差しは優しい。「殺し屋が最後の力を振り絞ったのかと思って、切り刻んでやりたい衝動を抑えるのに必死だったわ。……でも自演だと知ってほっとしたわ。ダメよ、無茶をしたら」
「ははは、心配をかけたね」オーランド・ゼムが笑う。「でもね、少しは大変そうにしておかないとね。ジェシルは優秀な宇宙パトロール捜査官だ。少しでも疑われないようにしなくてはならないのさ」
「そんなに、ジェシルって凄腕なの?」ミュウミュウは疑わしげにジェシルを見る。「たしかに暴れっぷりは凄かったけど、頭の方はどうかしらね?」
「ふん!」ジェシルは鼻を鳴らす。「悪知恵なら、あなたに完敗だわね!」
「悪知恵ですってぇ!」ミュウミュウが声を荒げてジェシルを睨む。「さっきも言ったじゃない! これが生き残るための、貧しい者の、精一杯の知恵なのよ!」
「みんながみんな、悪知恵で生きているわけじゃないでしょ? あなたは、元々が悪人だって話なのよ!」
「何とでも言うが良いわ!」ミュウミュウは熱線銃の銃口をジェシルの顔に向けた。「もう話す事は無いわ。あなたも用済みね。死んでもらうわ。でも、ただ殺すのはつまらない。熱線銃のパワーを下げて、あなたのその可愛い顔を焼いてやるわね。それでもがき苦しませて、その後に殺してあげるわ」
「あなた、銃が無ければ、何も出来ないのね」
「そうよ、それがどうかしたの? あのケレスと互角に闘うような女と、まともに組み合うわけ無いじゃない? ダメよ、そんな挑発をしても」
「そう言う事だ、ジェシル」オーランド・ゼムも光線銃の銃口をジェシルに向ける。「下手な動きをすると、その豊かな胸とお尻に穴が開くぞぉ」
「……やれやれ……」ジェシルはどっかりと床に座った。「分かったわよ。勝手にしたら?」
「あら、覚悟が良いのね。泣いて命乞いをすると思っていたのに……」ミュウミュウがつまらなさそうに言う。「それって、貴族のプライドなのかしら? ……まあ、良いわ」
ミュウミュウの笑みが残忍なものに変わり、指が引き金を絞り始める。ジェシルはじっと銃口を見つめる。
「待て!」
叫んだのは、ムハンマイドだった。ミュウミュウは面倒くさそうにムハンマイドを見る。
「何よ! これから良い所なのに!」
「ジェシルに何かするつもりなら、ボクはこの宇宙船を直さないぞ!」
ムハンマイドはありったけの勇気を搾り出して言うと、ミュウミュウとオーランド・ゼムを睨みつけた。
つづく
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