葉子は躊躇う事なくエリのそばに寄った。
生々しく痛々しい傷口が幾つもあった。葉子の目から涙が溢れた。・・・わたしのせいだ、わたしの・・・
葉子はベッドの脇に座り込むと、エリの手を取った。冷たく精気が無い。・・・助けてあげたい! わたしはどうなっても良いから! エリの手を強く握った。エリの様子は変わらない。・・・そう言えば、妖介は妖魔から受けた傷に手をかざして直してくれたわ。葉子はエリの手をそっとベッドの上に置いた。
・・・わたしに出来るかしら。不安がよぎる。妖魔から受けた全身の傷を直すことは出来た。しかし、それは自分の意志で行なったものではなかった。葉子を包んでいた揺らめきが、葉子の意思とは係わり無く作用した結果だった。・・・そう、わたしは守られていた。でも、この力が自分にだけ向くとしたら、わたしはどうしようもない馬鹿女だわね。
葉子は手の平をエリの傷口の上へかざし、目を閉じた。・・・お願い、直って! 内側から力は湧いてこない。呆然と、手の平を見返す。・・・わたしはやっぱり馬鹿女なの? 自分の事だけしか出来ない、どうしようもない女なの? 涙が溢れる。
「・・・そんなお涙頂戴の腐れ芝居じみた事じゃ、エリを直すことは出来ない」
背後で声がした。
思わず振り返る。
妖介が立っていた。犬歯を剥き出しにした笑みを浮かべている。
「お前が妖魔を始末した時の強い波動が、オレの意識を回復させたようだ」
「・・・妖介・・・さん・・・」驚いて硬直していた葉子はやっとのことで声を出した。途端に涙が溢れる。「・・・あああ! 妖介ぇ!」
葉子は妖介に抱きついた。頬を妖介の胸に当て、両腕を背中に回す。
「ごめんなさい!」肩を震わせ、泣き声が続く。その合間から言葉が漏れる。「わたしをかばって・・・ わたしのせいで・・・」
「そのわりには、オレより先にエリへ向かったな」
「・・・そんな意地悪な事、言わないで・・・」
「葉子・・・」妖介は泣きじゃくる葉子の顎に手をかけ、顔を上げさせた。葉子は驚いて泣き止む。「良くやった。お前も始末人だ」
葉子は改めて涙を流す。しかし、これは口惜しさや後悔とは違っていた。
「感激して大泣きするのは後にしろ」妖介は葉子の顎から手を放す。視線をベッドに移す。「エリが先だ・・・」
妖介は葉子を脇に退け、ベッドへ向かう。エリをじっと見下ろしている。
「・・・どう・・・?」
葉子が不安そうに声をかける。
「・・・派手にやられたな・・・」妖介はつぶやくように言った。「これは無理だな・・・」
つづく
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生々しく痛々しい傷口が幾つもあった。葉子の目から涙が溢れた。・・・わたしのせいだ、わたしの・・・
葉子はベッドの脇に座り込むと、エリの手を取った。冷たく精気が無い。・・・助けてあげたい! わたしはどうなっても良いから! エリの手を強く握った。エリの様子は変わらない。・・・そう言えば、妖介は妖魔から受けた傷に手をかざして直してくれたわ。葉子はエリの手をそっとベッドの上に置いた。
・・・わたしに出来るかしら。不安がよぎる。妖魔から受けた全身の傷を直すことは出来た。しかし、それは自分の意志で行なったものではなかった。葉子を包んでいた揺らめきが、葉子の意思とは係わり無く作用した結果だった。・・・そう、わたしは守られていた。でも、この力が自分にだけ向くとしたら、わたしはどうしようもない馬鹿女だわね。
葉子は手の平をエリの傷口の上へかざし、目を閉じた。・・・お願い、直って! 内側から力は湧いてこない。呆然と、手の平を見返す。・・・わたしはやっぱり馬鹿女なの? 自分の事だけしか出来ない、どうしようもない女なの? 涙が溢れる。
「・・・そんなお涙頂戴の腐れ芝居じみた事じゃ、エリを直すことは出来ない」
背後で声がした。
思わず振り返る。
妖介が立っていた。犬歯を剥き出しにした笑みを浮かべている。
「お前が妖魔を始末した時の強い波動が、オレの意識を回復させたようだ」
「・・・妖介・・・さん・・・」驚いて硬直していた葉子はやっとのことで声を出した。途端に涙が溢れる。「・・・あああ! 妖介ぇ!」
葉子は妖介に抱きついた。頬を妖介の胸に当て、両腕を背中に回す。
「ごめんなさい!」肩を震わせ、泣き声が続く。その合間から言葉が漏れる。「わたしをかばって・・・ わたしのせいで・・・」
「そのわりには、オレより先にエリへ向かったな」
「・・・そんな意地悪な事、言わないで・・・」
「葉子・・・」妖介は泣きじゃくる葉子の顎に手をかけ、顔を上げさせた。葉子は驚いて泣き止む。「良くやった。お前も始末人だ」
葉子は改めて涙を流す。しかし、これは口惜しさや後悔とは違っていた。
「感激して大泣きするのは後にしろ」妖介は葉子の顎から手を放す。視線をベッドに移す。「エリが先だ・・・」
妖介は葉子を脇に退け、ベッドへ向かう。エリをじっと見下ろしている。
「・・・どう・・・?」
葉子が不安そうに声をかける。
「・・・派手にやられたな・・・」妖介はつぶやくように言った。「これは無理だな・・・」
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