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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第三章 窓の手形の怪 27

2022年01月12日 | 霊感少女 さとみ 2 第三章 窓の手形の怪
 一限目から全く身が入らないさとみだった。頭の中では、ずっとみつの事を考えている。先生が「では次のページ」と言っても教科書を繰らないし、「ここは書き取っておくように」と言って板書したものもノートに書かない。そもそもノートを広げていないし、芯の出ていないシャープペンは閉じたノートの上に転がっている。右手で頬杖をついたまま、ぽうっとしている。
 一限目が終わり、休憩時間になった。麗子がさとみの机の前に立つ。
「さとみ、どうしたのよう?」麗子が言う。しかし、さとみは反応しない。相変わらず頬杖をついたままだ。「さとみぃ!」
 麗子はばんとさとみの机を叩く。周りのクラスメイトが驚いている。さとみはやっと、ゆっくりと顔を上げた。
「あら、麗子……」
「あら、じゃないわよ。どうしたのよ、ぼうっとしてさ。得意の目を開けたまま寝るってヤツだったの? 朝早かったから」麗子がまくし立てる。「わたしだって、早起きしたわ。でも、眠くなんかないわ。あなた、たるんでんじゃないの?」
「だからぁ……」さとみは面倒くさそうに応じる。「今それどろじゃないって言ったじゃない。大事な人が危機なのよ」
「それにしちゃ、ぽうっとしているだけじゃない? 傍から見たら、本当、目を開けて寝ているだけだわ!」
「寝ていないわよう!」さとみはむっとした顔で立ち上がる。「考えているのよ! どうやって助けたらいいのかって! 『弱虫麗子』になんて、ごちゃごちゃ言われたくないわよう!」
「なっ……!」麗子は絶句する。途端にさとみに顔を寄せ、声を落とす。「……さとみ、本当に、そっち系の話なの?」
「そっちって?」
 さとみは座り直す。それに連れて麗子も前屈みになり、更にぼそぼそとした話し方になって行く。
「だからぁ…… ほら、あれよ…… わたしの苦手な……」
「そうよ、その通りよ」さとみは大きくうなずく。「分かっているんなら、放っておいて」
「……分かったわ……」
 麗子は軽く身震いすると自分の席に戻ろうとする。
「あ、麗子」さとみが声を開ける。「気に掛けてくれてありがとう。でも、寝てはいないから、大丈夫よ」
 麗子はうなずくと席に座り、黙々と次の授業の準備をする。
 二限目。現代文の授業だ。取りあえず授業の教科書とノートを出したさとみだが、一限目と同じだ。いや、教科書も開いていない。相変わらず頬杖をついたままだ。あからさまな様子に中年の男性の先生がさとみをちら見している。
 ……学校の中か。どこだろう? わたしは学校の隅々まで知らないし、もし、秘密の部屋があるなんて言われても見当もつかないわ。豆蔵たちが居てくれれば、手分けして探してくれるかもしれないけど、今はそれが出来ないし。百合恵さんは明日でも大丈夫だと言っているけど、早い方が良いに決まっているわ。何しろ、ていそうの危機(さとみは意味が分かっていないが、大変らしい事は分かる)だって言ってたし。あ~あ、こんな気分で放課後にサークルの集まりなんて、やる気にならないわねぇ。
 そこまで考えたさとみは、はっとして目を大きく見開く。そのままの顔でついていた頬杖を外し、机の上で両手を組むとじっと正面を見つめる。何となく視線が先生に向いている。先生は、突然のさとみの様子の変化に驚いている。
 ……そうだ、北校舎! あそこって誰も使っていないわ! それに、階段での出来事もあったし。そうよ、あそこのどこかにいるんだわ! どうしよう、豆蔵たちに伝えてもどうにもできないし、百合恵さんは今頃寝ちゃっているだろうし。どうしよう。昼休みに回ってみようかな? いや、それまで待てないわ。と言って今すぐ教室を抜け出せないし。
 と、さとみはにやあっと笑みを浮かべる。先生は困惑の表情を浮かべながら、君の好意は嬉しいが、わたしには妻子があるのだ。それに先生と生徒なんて大問題になる。君まだ若いんだから、もっと相応しい相手を見つけたまえ、などと、良く分からない事を思っている。
 ……そうよ! 霊体を抜け出させちゃえばいいんだわ! ちょっと遠いけど、すぐに戻ってくれば問題ないわ。まだ二限目は終わらないし。
 さとみは霊体を抜け出させた。さとみはにやあっと笑みを浮かべたまま動かなくなった自分の生身の姿がちょっとイヤだったが、今はみつを探すのが優先だと思い直し、そのまま教室を出た。


つづく

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