「街はすっかりサッカー一色ですね」
「なんか始まったの?」
「まだです」
「ワールドカップ?」
「週末からです」
「前回はフランスだっけ?」
「フランスは90年代です」
「こういう関心の無い人間もいるんよ」
「朝、ブレンドコーヒーって言うと、アイスコーヒーが出てくるんだけど」
「コーヒーって付けるからいけないんだよ」
「ブレンドって言えばいいのか」
「それなら聴こえにくくてもアイスは出てこないと思う」
午後から年1回の排水管清掃なので、流しの下と洗濯機の周りを片付ける。
足拭きマットをどけた。
床はきれいなもんだ。
「ほぅ、足拭きマットの裏は黒い糸でかがってあんのか」と納得しかけたが
全部髪の毛、一面髪の毛だった。
すばらしいクイッ来るワイパーだ。
久々に自分の席で昼飯を食う。
まずバナナ1本。
皮をむき始めたら、あっちで笑ってる。
「またバナナ一本ですか?」
「いや、これだけじゃあんまりなんで、ちゃんと次も用意してあるんよ」
と、2本めのバナナを袋から出す。
「全然、同じもんじゃないですか」
「いや、黒くなってる場所がちがうんよ」
電車で座って寝ているとだんだん前のめりに体が倒れてくる。
すっとした姿勢で眠っていられなくなった。
背筋が弱ってきたらしい。
前のめりになると、よだれも垂れる。
顎の筋肉も弱ってきたらしく、ダアダア垂れる。
きったねえし臭い。
蒸かし鍋で蒸かした人参を小鉢に盛り付ける。
湯を捨てようと鍋を持ち上げたら底にいっぱい空いてる穴の向こうに
動くものが見える。
カイワレのかけらがバラバラ泳いでいる。
カイワレ先週金曜のじゃん。
湯も激しく臭い。
食って大丈夫か人参。
昼休み、外へ行くのに上着を着ようとしたら驚かれた。
「暑いですよ。着るんですか?」
「着なかったら、財布や小銭入れや老眼鏡や手帳や
ティッシュペーパーや歯ブラシはどうやって持つん?」
「歯ブラシ、ポッケに入ってるんですか」
「はい。ゴマが必ず歯に挟まるんで」