【ML251 (Marketing Lab 251)】文化マーケティング・トレンド分析

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「クチコミ」について雑感 (第108回 安原マーケティングワークショップに参加して)

2012年05月21日 | マーケティング話
5月19日土曜日は、安原マーケティングワークショップの土曜セッション。
「通算108回目という煩悩完結に相応しく、最先端の煩悩の研究」ということで、テーマは『クチコミ品質』」(安原さん)。

■「偶然性×恣意性」という態度における軸

今回は参加者7名で1グループ。
まだ同テーマの「平日セッション」(平日参加者には詳細をお知らせしないほうがいい)があるので、ここでは詳細は記さないが、参加者から出た意見と安原さんのまとめから自分が得たもの、そして自分が考えたことを記しておこう。
(と言いつつ、写真までアップしたが・・・)



まず、基本的なことであるが、この10年以上、マーケティングの世界をはじめ、ジャーナリズムでも、重要なキーワードとして、やたらと語られてきた「クチコミ」は、たぶん、有史以来、人が生きる上で常に存在していたわけだ。ネットなどなくても。
ワークショップでは、ネット「クチコミ」に多く見られる「恣意性」に対し、自ら能動的に情報を求めるわけではない(例外はあるものの)「クチコミ」を「偶然性」と特徴づけた(「態度」の軸)。

では、ネット上の「クチコミ」の本質とは何か?
「目的」は、時間と空間に係る手間の軽減、圧縮。
「態度」は、上述の通り「能動的」であること(最近では、SNSでたまたま眼にするような「偶然性」もあるが)。
「手段」は、「編集」ということになるだろう。
それは「コミュニケーションの進化」には違いない。

しかし、昨今、比較サイトやamazonのようなECサイトの評価・レコメンドが、「クチコミ」のメインのように言われているが、あくまでもリアルな人と人のプリミティブな「クチコミ」こそ基本であることは、忘れないでおいたほうがいいだろう。


■セルフディスクロージャーの効用

まず、「クチコミ品質」について考察する場合、自らが「クチコミ」の発信者となるケースを考えれば、思考の幅が拡がっていくように思う。
ワークショップでは、自分が「クチコミ」の影響で購買行動をした結果が題材だった。
軸を絞り込むには、時間のないセッションで「発信」を入れると収束できなくなる可能性があるので、それはそれでいい。

考えてみると我々は、「いいクチコミより、悪いクチコミのほうほうが拡散しやすい」耳にタコができるほど見聞してきた。
最近では、リアル・オンラインを問わず、自らについて語ること、つまり「セルフディスクロージャー」が人間にとって快感であるという貴重な脳科学の研究結果もある。
人間って程度の差はあれ、自分のことを語りたいものなのだ、ということは銘記しておいたほうがいいだろう。
定性調査での「グループダイナミクス」が生まれるのもこういった人の心性によるものだろう。

「一般的に、セルフディスクロージャーを行うと中脳辺縁系ドーパミン経路に関わる脳の領域の活動が高くなる。ここは食べ物やお金、セックスなどで得られる満足感や快感と関係している部分だ」

■ブレイン・サイクルと「クチコミ」

あと、マーケティング・アドバイザーの私には、「トレンド研究」という重要なドメインもある。
時間の幅は、戦後、ジャンルは社会・政治・経済・文化・メディア・サブカルなどの総合。
まだ明らかにはできないが、「ミュージックソムリエ協会」でも、この“武器”は大いに活用させて頂くつもりだ。
(冗談だが、日本史の試験とか受ければ、近代ならほぼ満点はとれると思う。大学受験の選択は世界史と政治・経済だったけどね・・・。そちらは完璧でした-笑)

で、一口にトレンド研究といっても、歴史的事実を元に、著名人の方々の貴重な知見を参考にさせて頂いている。
そのうちの一人は、拙著でも引用させて頂き、過去、このブログの記事でも援用させて頂いた、黒川伊保子先生である。
黒川先生の「ブレイン・サイクル」は、特に重用している。

 
(*2010年に書いたシリーズ記事で使用。黒川先生の著作をもとに私が作成したもの)

詳細はここには書かないが、2012年は「女性脳の時代=アナログ期」のピークにあたる。
(正確には2013年。2012年は「アナログ ブレイク期」の最後)
「女性脳の時代=アナログ期」に移行したのは1999年だが、「男性脳の時代=デジタル期」のピークであった1985年から2012年の現在に至るまで28年間は、人々の脳のサイクルと感性トレンドが「男性=短軸索系」から、「女性=長軸索系」へと変化し続けたわけである。
このあたりのことは後日、書くとして、マーケティングの世界のみならず「クチコミ」の重要性が語られるようになったのは、1999年以降であることは驚くにはあたらないことだ。
「多様化」「適量少量生産」も「女性脳の時代=アナログ期」の大きな特徴だ。
こちらは、1999年以前から言われてきたことだが、「デジタル期」から「アナログ期」に向かう「ソフト期」ならではのことだ。
経済の側面だけみると、戦後復興から高度経済成長が「バブル」で終焉したことが、時代の転機というのが主論調であるし、間違ってなどいないものの、「ブレイン・サイクル」の観点からみれば、一層、ものごとが見えてくるのだ。
97年にピークに達した「CDバブル」だって、「女性脳の時代=アナログ期」に向かう「ソフト期」だからこそと私は考える。もちろん、人口動態的要因もあるが、「マス・マーケティング」がパワーダウンし、「多様化」が進む中であったのにも関わらず、今では想像できないような売上枚数をはじき出したことは、「ブレイン・サイクル」抜きにしては説明できないだろう。

マーケティング・リサーチの世界でも、「男性脳の時代=デジタル期」からコンシューマ・インサイトが重要であったことに変わりはないが、「シーズよりもニーズ」という“スローガン”が幅を利かせるようになったのは、「女性脳の時代=アナログ期」である。
私の師でもある故 油谷遵先生をはじめ、日本の定性調査で抜きんでたマーケターのご活躍が目立ったのは、「デジタル期」から「アナログ期」に向かう時代(「ソフト期」)の最先端を走っていたからではないか? とさえ考えられる。
で、今現在は、どの調査会社でもマーケティングサービス企業でも広告代理店でも、「定性調査」の“新しい手法”でヒートアップしている。

「で、これからはどうなるのでしょう?」かって?

2013年の「女性脳の時代=アナログ期」のピークから、「男性脳=デジタル期」に向かっていく「ハード期」が始まるわけだ。
「理屈抜きでカッコイイものに憧れる」時代に向かっていく。
人間の最大の特技の一つは「飽きること」。飽きなければ文明の進化はない。
大衆の気分が変化する中で、相変わらず「クチコミ」は存在するし、有用であることは変わらない。
ただし、マーケティングの世界でもマスコミの論調でも、「クチコミ」が今までのように騒がれることは確実に減っていくだろう。
マーケティングの世界でも、ユーザーニーズとウォンツ探求の重要性は変わらずとも、各メディア・媒体で騒がれることは減っていくであろう。

黒川先生はこう仰せだ(黒字部分)。

とはいえ、ソフトからハードへの転換点まで、あとわずかである。(引用者注『なぜ、人は7年で飽きるのか』の刊行は2007年)
メーカーは20年以上続いた市場ニーズ優先の体質に染まりきってはいるが、大衆は、徐々に「用途度外視でカッコイイもの」を潜在的に求めるようになってくる。現場の企画に、「コンセプトがあいまい」「使い方がはっきりしない」「市場ニーズの調査は? 市場の評価は?」など、だらだらダメ出しをしていると、時代の波に置いていかれるかもしれない。
(『なぜ、人は7年で飽きるのか』黒川伊保子著、中経出版、2007年、93ページより)

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