現代は街灯もネオンもある。時計の文字もテレビや携帯電話の液晶画面も鋭く明るい。
今、本当の夜は目の前にはない。
目の前にはなくて想像の中にある。
『百物語』 其の七十一 「竹林の再会の話」
娘は筍狩りに入った竹林で、同じ所を何度も行き過ぎる老人を見かけ、
気の毒に狐に化かされたかと思い声をかける。
「モシエ、コレサ、心をお付けなっし!」
その老人は娘をおっかさんと呼びつつ抱きついて、そのまま消え去ってしまう。
そんな娘時代の思い出を息子に語る、老いた母。
息子は思う。
自分が年取って爺さまになったら、竹林で娘姿のおっかさんに会うのだろうかと。
そして息子は年取ってからも竹林には入らずじまいだった。
一つの家には何かしら分らない話があり、
それをなんとかしようなどとは思わず、
当たり前のように人々は妖しいものと共に暮らしてきた。
いいか悪いか、さあどっちだろうねえ。
でもそこにいるものだからねえ。
夜が真っ暗だった頃。
江戸時代の人も妖かしもやさしい。
眠れぬ夜の百物語。