菓子メーカーの老舗、不二家でシュークリーム賞味期限の偽装を皮切りに発覚した、一連のずさんな品質管理、衛生管理の問題は、今も新たな事実が明らかになってきている。会社は去年11月には、このことを知っていたにも関わらず、「これが明らかになれば雪印の二の舞になる」と握りつぶしていたらしい。今回そのことも発覚したことによって、不二家は消費者を二重に裏切ったと非難され、皮肉にも会社が最も恐れていた“雪印の二の舞”は避けられそうにない状況である。
不二家の問題は「食の安全を脅かしかねない」などと言われているが、では不二家が品質管理や衛生管理をしっかりやっていたら、食の安全は守られたのだろうか。法律や内規に違反していないということと、作られている食材、製品が安全で安心できるものであることとは、本質的に違うことだと私は思うのだが。
昔、グリコ森永事件というのがあった。事件は結局、迷宮入りのまま終わったが、この事件で私がよく覚えていることがある。“かい人21面相”によって青酸カリを混入された森永製の菓子が、「どくいり きけん たべたら しぬで」という紙が貼られてスーパーの棚に置かれたことで、全国の小売店から森永の菓子が一斉に撤去される事態となり、森永に対する同情論が広がっていたときの話だ。朝日だったか読売だったかに、こんな内容のコラムが載ったのである。
毒入り菓子を置いたことで“かい人21面相”が非難されている。しかし、犯人は確かに青酸カリを混入したが、青酸カリを入れた菓子には間違って食べる人がいないように「どくいり きけん たべたら しぬで」という紙を貼っていた。それに対して、食品メーカーは法律で定められた基準量いっぱいの合成着色料や合成添加物を混入させた食材を「体にいいですよ、健康になりますよ」と言いながら売っている。“かい人21面相”と食品メーカーの一体どちらに信義があると言えるのだろう。
例えば、日本マクドナルドという会社がある。故・藤田田(ふじた でん)が単身アメリカに渡り、アメリカのマクドナルド社と契約を結び、今日の外食産業の雄の地位にまで育て上げた会社だ。藤田はそのためにさまざまなビジネス戦略を駆使したが、その一つに「マックのお店でお誕生会を」というのがある。まだハンバーガーを食べるという習慣がなかった日本で、こういう形でマックのお店に子供を来させ、マックの味を刷り込ませれば、大人になってもマックのお店に来てくれる。その人たちに子供ができればその子供も連れてくるから、その子供もマックの味を覚えて大人になっていく、という仕掛けだ。
それはビジネスモデルとしては申し分ないほど優れたものだし、もちろん何ら法律にも違反していない。しかし、日本マクドナルドが東証1部上場した時、私は鍼灸学校に通っていたのだが、そこの講師が口を揃えて言っていたものだ。「あんな会社が1部上場するなんて、世も末だ」と。それくらいマックの商品はひどいものだったのだ。最近、マックも健康志向を受けて──本当はそれ以上に、価格戦略に失敗して失った顧客を取り戻すために──少し変わりつつあるようだが、ひどいものであることはあまり変わっていないように思われる。
マックをやり玉に挙げたが、多くの会社は不二家や雪印と違って、製造年月日や賞味期限を偽装したり製品の中に虫が混入していたりはない(かもしれない)から、「食の安全を脅かした」と非難されることはないが、その実、もっと根底のところでは、やっていることはそう変わらないように思えてならない。例えば、“健康食品”というものがあるのが私には不思議でならない。健康食品の反対は“不健康食品”だ。健康食品を出しているメーカーは、暗黙のうちに“健康食品”と銘打っていない他の食品は“不健康食品”だと言っているのである。しかし、健康食品「だけ」出しているメーカーはないから、そのメーカーは「私のところでは、体に悪い製品も出しています」と、いわば公然と宣言しているのである。そんなメーカーの何が信じられるというのだろう?
しかし、そんな奇妙なことがまかり通ることの一端は消費者にもある。
最近、スーパーで納豆が早々と売り切れ、値段も妙に高いと思っていたら、そのきっかけとなったらしい“納豆ダイエット”を紹介した『発掘!あるある大辞典Ⅱ』の放送内容が捏造だったというニュースが流れている。報じられているところでは、放送された「納豆を食べることで中性脂肪が正常値になった」などとされた実験結果やアメリカの大学教授のコメントなどは全くの虚偽のもので、被験者が痩せたとする比較写真も別人のものだったという。
こうした「体にいいですよ、健康になりますよ」といった情報に踊らされて何でも買ってしまう“おバカ”な消費者がいる限り、食品業界、健康業界はまだまだ仕掛ける余地はあるし、明らかな法律違反でもしない限りは当分、安泰だろう。ところで、高橋克彦の江戸川乱歩賞受賞作『写楽殺人事件』の中に、美術業界のこんな裏話がある。美術品には贋作というものがついてまわるが、コレクターや画商は自分が贋作を掴まされたと気づくと、それをそっとマーケットに戻すのだという。マーケットに戻された贋作は別の「見る目のない」人の手に渡り、場合によってはまたマーケットに戻される。そして長い時間がたった後には、贋作は最も「見る目のない」画商とコレクターのところに集まるのだと。
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