ある日、荘周が山を下りて遊行していると荒れ果てた墓が並んでいました。
少し歩くと新しい墓があり、盛られたばかりの土はまだ湿っています。
墓の傍に若い婦人が喪服を着て白い扇で墓をあおいでいました。
荘周が不思議に思って「墓の中に埋葬されたのは誰ですか?なぜ扇で土をあおいでいるのですか?」
婦人は扇をあおぎながら「墓の中にいるのは夫です。不幸にも死んでしまい、ここに埋められました。生きている間は私を愛してくれたのですが、死んでからも私を離そうとせず、こう遺言しました。『埋葬が終わっても墓の土が乾かなければ、他の男と再婚してはならない。』新しく造ったばかりの墓の土はなかなか乾きません。だから扇であおいでいるのです。」
荘周が仙術を使って扇を数回動かすと、あっという間に土の水分が飛んで乾燥しました。
荘周が家に帰ると妻の田氏が扇を見て「その扇はどこから持ってきたのですか?」と問いました。
荘周は墓であったことを詳しく話します。
聞き終えた田氏は憤激して婦人の不貞を罵り、荘周にこう言いました「そのようは薄情な女はめったにいないでしょう。」
荘周が言いました「言うだけなら簡単だ。しかしもし不幸があってこの荘周が死んだとしよう。おまえはまだ二十半ばだ。三年も五年も一人でいられるか?」
妻は「もし不幸が私の身に起きても、そのように恥知らずな事は三年五年どころか一生かかってもあり得ません。」
数カ月後、荘周が突然病にかかり息を引き取りました。田氏は白衣を着て朝から夜まで棺の横で泣いていました。白は中国の喪服の色です。
七日目、一人の若者が来ました。背が高くて凛々しい好青年で、衣服も冠もしっかりしています。一人の年老いた従者を従えていました。
青年が顔を挙げて言いました「先生は亡くなりましたが、弟子の思いは尽きません。尊居(家)の一室を百日間借りることができないでしょうか。一つは先生の喪に服し、二つは先生が残した著作を読んで遺訓とするためです。」
田氏は断るわけにもいかず、一室に住むことを許可しました。田氏は霊前に食事を運んだり香を焚く必要があるため、一日に数回、位牌が置かれた部屋に足を運びました。青年はいつも鋭い眼差しで書に没頭しています。
まだ二十代半ばの田氏は凛々しい青年の真剣な姿に惹かれ始めました。
半月ほど経った頃には、青年に対して好意を抱き、関係をもちたいと思うようになります。
幸い、閑散とした山奥なので、近隣に人はいません。弔問客も数日前から途絶えています。
とはいえ、喪に服したばかりです。女から男を誘うわけにもいきません。
躊躇しているうちに、更に半月ほど経ちました。田氏の想いはますます強くなります。
http://ncode.syosetu.com/n0155de/3/ 「荘子と若い妻」から