学生時代、都内の結婚式場で配膳のアルバイトを3~4年していたことがありまして、冠婚葬祭から会社のパーティにディナーショー、だいたい年間で70~80件位の宴会を担当していました。
配膳とは、ホテルで食事を出したり下げたりする仕事で、それなりにテーブルマナーからホテルマンとしてのマナーなど、徹底的に教育されたりします
慣れてくると、1日に多いときは2~3件の結婚披露宴をやることもあり、感動もそこそこ時間に追われることもしばしばといった状態も頻繁にありました。
トータルでは200件以上の披露宴を見てきたのではないかと思われますが、そんな中忘れられない披露宴もいくつかあります。
今回のお話はそんな中で最も忘れられない披露宴を思い出したので
その日も何事もなく披露宴の準備を進め、開演前のテーブルチェックとその日のコース料理の説明を受けた後、裏導線と呼ばれる宴会場の裏でお出迎えをする開演時間まで待機していた時のこと。
黒服と呼ばれる、ユニフォームではなく黒いタキシードを着た、まぁマネージャー兼その宴会の責任者(各宴会に1人は必ずいる)が突然呼び出され、すぐに戻ってきても電話をかけたり行ったり来たりといったなんだか事件の様子
会添人呼ばれる新郎新婦の付き添い人まで現れて、そうこうするうちに開演時間もあと数分に迫った頃、黒服が汗だくになりながら慌てた様子で私たち配膳スタッフに言った言葉はこんな言葉でした
「花嫁が消えた」
え--っっっっ
一瞬、母親が好きな火曜サスペンスが思い浮かんだりしましたが、これは現実
花嫁は式が終わってすぐにウェディングドレスのまま姿をくらましたそうな
とんでもない緊急事態に全員声を失いました
とにかく控え室にいる来賓と厨房に開演時間が遅れる旨を伝えるようスタッフの1人命じて、ただし遅れてる理由は決して来賓に言わないようしっかり口止めをして、黒服はどこかに走り去っていきました
残された私たちはとりあえず待機
多分大勢のスタッフが広い館内をあちこち花嫁を探して走り回っているだろうことは容易に想像がつきましたが、この日は大安吉日
館内では20件以上の婚礼が催され、表には来賓にスタッフに、それこそ花嫁は20人以上
他の客に迷惑をかけるわけにもいかないし、雰囲気をぶち壊したりはもちろんのこと、この緊急事態を軽く1000人以上いる館内の関係者以外の誰にも悟られずに行方不明の花嫁を見つけだすことがホテルマンの使命であり、とにかく花嫁の顔を知っている親族とスタッフのみで広い館内を捜し回ったそうです。
前代未聞の花嫁大捜索が館内の表と裏で展開されている頃、私たち配膳スタッフは、花嫁が見つかり次第披露宴が即開始できるよう裏導線で何もできずひたすら待機していました。
待機している間にも情報はちょいちょい入ってくるもので、
最初はパニくったスタッフの面白半分の不確かな想像と妄言の数々
あんな派手で目立つウェディングドレスのままいなくなったのだから見つからないのは“神隠し”に違いない
いやいやいや“誘拐か連れ去り”だろ
ドラマのように結婚式打ち壊して花嫁連れ去った男がいるんじゃない
etc・・・
から、
今日は新婦朝から顔色悪くて全然嬉しそうじゃなかったらしいわよ
具合が悪くてトイレにこもってるんじゃない←ウェディングドレスのまま1人でトイレは無理でしょ
なんか新郎があまり慌ててないんだよね
皆好き勝手思いつくままにいい加減なことを言い合っていましたが、まぁ皆数百件の婚礼を担当してきてもこんな事件は初めてだったので、とにかく何が何だか全然わからずただ興味半分に後はイライラしていました
開演時間を30分も過ぎた頃、花嫁失踪から約1時間あまり・・・
黒服が戻ってきまして、ようやく全ての事実関係を説明してくれました。
まず、花嫁がいなくなったのは結婚式が終わり、一旦控え室に戻って来て披露宴までの間にヘアメイクをなおしたりしている間だったそうです。
部屋には花嫁とヘアメイクだけ。
すると花嫁は突然、
「コンビニに行きたい」
と言ったそうです。
ヘアメイクは、ドレスを着て披露宴を控えた花嫁がこの短時間にコンビニに行きたいなんて、おかしなことを言うな、と思いつつ、必要なものがあれば自分が用意するからと花嫁をなだめたそうです。
すると今度は、
「母親を呼んできてほしい」
と言ったそうです。
ヘアメイクは快く別室の花嫁の母親を呼びに部屋を出ました。
たった数分。
母親と供に部屋に戻ると花嫁はすでにいなくなっていたそうです。
ウェディングドレスのまま・・・ 。
その後はもちろんスタッフ、関係者は大騒ぎでしたが、不思議だったのは、花嫁の両親と新郎が一時は大慌てしたものの、すぐに冷静になってしまったことだそうで。
下手したらホテル側の不祥事として大騒ぎしてもおかしくないところを、捜索打ち切りも新郎から指示されたとのこと
そんなことから黒服が言うには、花嫁の両親と新郎には花嫁が失踪する心当たりがあったのではないかと言っていました
結局のところ、花嫁が消えたのは自主的な失踪だろうってところしかわからなかったのですが、失踪するからには、この結婚が本意ではなかったってことでしょう。
朝から浮かない顔をしていたという証言もありましたから
どういう経緯があったのか、私たちにはわかりませんが、結婚式当日に花嫁に逃げられた新郎が何だかとても可哀想に思いました。
で、スタッフ皆事情を知って残された新郎や両親などになんとなく思いを馳せて、騒動は終わったかに思えました。
スタッフ全員、黒服の次の言葉に仰天しました
「新郎の希望により、披露宴は新婦不在のまま続行する!」
マジで
「ただし、友人や会社関係をはじめ親族や新郎の両親も花嫁の失踪を知らないので、何を聞かれても花嫁は体調不良により医務室で休んでいると答えるように」
とても信じられませんでした
でも披露宴中止っていうのも確かに来賓集まってて更には30分以上待たせているこの状況ではあり得ないんですけどね
披露宴って通常2時間半~3時間
時間なげ~
そして披露宴は始まりました
新婦が体調不良で披露宴には出れないことを司会者が詫びるところから始まりました
いつもは淡々と料理のスケジュールと担当テーブルの来賓の食事のペースを考えながらこなす仕事も、この日は来賓と親族と新郎の顔色をうかがいながら何だか居たたまれない気持ちで仕事に励みました
何も知らない来賓たちはスピーチ、ビール片手に挨拶回り、友人たちの出し物と花嫁が不在ということ以外はごく普通のお祝いムードで進んで行きました
新郎の両親が知らないって
途中花嫁の母親と、新郎が涙する場面もありましたが、事情をしらない来賓たちは、
「よっぽど嬉しいんだな」
なんて呑気に言ってました
うぅ
関係ない私の方が見てるの辛い
事情を知ってる私たちスタッフの方がこの状況が辛かった
いつかこの事実を知るであろう来賓のことや、会社関係の人たちも来ていたので、その後の新郎の立場とか、どう考えても重すぎる現実
よく花嫁の意にそわぬ結婚式の式場から、相思相愛の彼が花嫁を連れ去りハッピーエンド的なドラマは見たことがあるけれど、置き去りにされた新郎が主人公のドラマは聞いたことがない
その時目の前に繰り広げられていた現実は、まさに花嫁に逃げられ置き去りにされた新郎の悲劇のドラマの幕開け・・・
とんでもなく長く感じられた披露宴も、花嫁のお色直しなどがなかったことから(花嫁いないのにできるわけがない)通常よりかなり早く終わり、私たちスタッフはいまだかつてないほどの疲れを覚えました。
どんな事情があったのか、もう永久に知ることはできませんが、逃げた花嫁も、結婚式当日に花嫁に逃げられた新郎も、そしてそれぞれのご両親も、その後幸せになっていてほしいと、強く願わずにはいれないできごとでした
・・・ところで、消えた花嫁はウェディングドレス姿でどうやって逃げたんでしょうか
相当目立ったでしょうね
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ウチは旦那が式前日に「辞めたい」とか言い出したよ。人前に出るのが嫌いな人だから・・・ま、無事終わりましたけど。
ちなみに式の後お食事したレストラン、次期大統領候補の人が披露宴行った場所なんだ。マネするなよ!(ってか、大統領候補なのに地味な場所選んだなぁ・・・)
旦那さんマリッジブルーだったんだ(笑)
でもこの話は明らかな花嫁脱走&失踪だからね
単なるマリッジブルーではないと思う。
本人よくても周りの人がなんか微妙だよ~
特に旦那と両家両親だよね