宮澤賢治の里より

下根子桜時代の真実の宮澤賢治を知りたくて、賢治の周辺を彷徨う。

〈藤根禁酒会へ贈る〉

2016年10月03日 | 『詩ノート』
一〇九二    藤根禁酒会へ贈る        一九二七、九、一六、
   わたくしは今日隣村の岩崎へ
   杉山式の稲作法の秋の結果を見に行くために
   ここを通ったものですが
   今日の小さなこの旅が
   何といふ明るさをわたくしに与へたことであらう
       …(略)…
   この会がどこからどういふ動機でうまれ
   それらのびらが誰から書かれ
   誰にあちこち張られたか
   それはわたくしにはわかりませんが
   もうわれわれはわれらの世界の
   一つのひゞを食ひとめたのだ
   この三年にわたる烈しい旱害で
   われわれのつゝみはみんな水が涸れ
   どてやくろにはみんな巨きな裂罅がはいった
   われわれは冬に粘土でそれを埋めた
   時にはほとんどからだを没するくらゐまで
   くろねを堀ってそこに粘土を叩いてつめた
   それらの田には水もたまって田植も早く
   俄かに変ったこの影多く雨多い七月以后にも
   稲は稲熱に冒されなかった
   諸君よ古くさい比喩をしたのをしばらく許せ
   酒は一つのひびである
   どんなに新らしい技術や政策が
   豊かな雨や灌漑水を持ち来さうと
   ひびある田にはつめたい水を
   毎日せはしくかけねばならぬ
   諸君は東の軽便鉄道沿線や
   西の電車の通った地方では
   これらの運輸の便宜によって
   殆んど無価値の林や森が
   俄かに多くの収入を挙げたので
   そこには南からまで多くの酒がはいって
   いまでは却って前より乏しく
   多くの借金ができてることを知るだらう
   しかも諸君よもう新らしい時代は
   酒を呑まなければ人中でものを云へないやうな
   そんな卑怯な人間などは
   もう一ぴきも用はない
   酒を呑まなければ相談がまとまらないやうな
   そんな愚劣な相談ならば
   もうはじめからしないがいゝ
   われわれは生きてぴんぴんした魂と魂
   そのかゞやいた眼と眼を見合せ
   たがひに争ひまた笑ふのだ

   じつにいまわれわれの前には
   新らしい世界がひらけてゐる
   一つができればそれが土台で次ができる
              <『校本宮澤賢治全集第六巻』(筑摩書房)203p~より>
『詩ノート』より〟へ戻る。

《鈴木 守著作案内》
◇ この度、拙著『「涙ヲ流サナカッタ」賢治の悔い』(定価 500円、税込)が出来しました。
 本書は『宮沢賢治イーハトーブ館』にて販売しております。
 あるいは、次の方法でもご購入いただけます。
 まず、葉書か電話にて下記にその旨をご連絡していただければ最初に本書を郵送いたします。到着後、その代金として500円、送料180円、計680円分の郵便切手をお送り下さい。
       〒025-0068 岩手県花巻市下幅21-11 鈴木 守    電話 0198-24-9813
 なお、既刊『羅須地人協会の真実―賢治昭和二年の上京―』、『宮澤賢治と高瀬露』につきましても同様ですが、こちらの場合はそれぞれ1,000円分(送料込)の郵便切手をお送り下さい。

『賢治と一緒に暮らした男-千葉恭を尋ねて-』   ☆『羅須地人協会の真実-賢治昭和2年の上京-』   ☆『羅須地人協会の終焉-その真実-』

『「涙ヲ流サナカッタ」賢治の悔い』            ☆『宮澤賢治と高瀬露』(上田哲との共著)

◇ 拙ブログ〝検証「羅須地人協会時代」〟において、各書の中身そのままで掲載をしています。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿